( 223691 )  2024/10/18 16:45:23  
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メジャーに話題を持っていかれた日本のプロ野球、このままでいいのか?(写真はイメージです) Photo:PIXTA 

 

● 日本中が大谷フィーバーに沸く中 ますま拡大する「日米格差」 

 

 今年の日本人にとって、スポーツに関するいいニュースと言えば、大谷翔平ばかりです。もはやメディアも、日本のプロ野球など大きく扱いません。しかし、スポーツビジネスやスポーツジャーナリズムに関わる日本人が、この状態を見逃していいはずはありません。 

 

 たとえば、次の数字を見て、首を傾げる人は多いはずです 

 

 日本の球場の平均観客動員数は、2万9221人。それに対して、メジャーは2万9114人。そう、日本の方が多いのです。それなのに、日本人選手の平均年俸は4339万円(選手会調査)で、米大リーグの平均年俸は約7億6000万円(開幕時)。これでは、いい選手がメジャー志向になり、日本を出ていくのは当然です。 

 

 確かに、米国は人口が日本より多いですが、観客動員数が日本の方が上なら、選手の働きに報いて年俸を増やし、「メジャーの2軍」になるのを食い止める方法はあるはずです。メジャーの総収入は1兆4000億円(2022年)で、日本は1500億から2000億円(非上場の会社があるため推定額)。観客動員数が変わらない以上、他の手段での収入増をメジャーに学ぶべきでしょう。 

 

 現在のメジャーリーグはスタート時の16球団から30球団へと増え、今後2球団をプラスする計画が進んでいます。人口比で考えると、日本は人口1億2400万人で米国は3億3800万人と2.7倍の差があり、メジャーの3分の1近くの売り上げは望めるはずで、現在の7分の1という収入格差は日本のプロ野球ビジネスの完敗を意味します。 

 

 米国は野球以外にもバスケット、アメフト、アイスホッケーと観客動員数の多い人気スポーツがあるだけに、日本が球団数を増やして、さらに野球の観客を増加させるのは無理な相談とは思えません。 

 

 実際、2020年に王貞治氏が16球団構想をぶち上げたこともあります。また、安倍政権の成長戦略には2014年に16球団構想が入っていました。 

 

 プロ野球人気は、地上波での放映こそ減りましたが、観客動員数は2024年には2668万人となっています。2010年に2213万人だったことを考えると、450万人も増えていて、まだまだ人気が上昇しているのです。 

 

 これは、スポーツを実際に球場で観戦するという米国式のボールパークの発想が、日本人経営者にも根付き始めたことを意味します。数々のイベントが組まれ、ファンクラブへの優待やチケット購入システムのデジタル化が、すべての球場の観客を増加させました。私はヤクルトスワローズのファンですが、かつては3塁側(ビジターチームのファン席)から先に埋まり、1塁側にまで阪神ファンや広島ファンが入っていて、何だか寂しい思いでしたが、今は1塁側はスワローズファンで満員となり、観客動員もグーンと伸びました。 

 

 以前の16球団構想は、新潟、静岡、岡山、兵庫などが候補に上がっていました。仙台や北海道の成功を見れば、ある程度観客動員が見込める球場と人口がある地域なら、プロ野球チームの拡大は十分に可能だということはわかったはずです。 

 

 

● 「日本プロ野球株式会社」は どうすればできるのか 

 

 ただ、そのためには野球界の大改革が必要です。メジャーのように野球界全体でビジネスをする、つまり「日本プロ野球株式会社」という視点での経営改革が必要なのです。 

 

 メジャーの場合は、テレビやネット配信について、日本と比べ物にならないくらい制度がしっかりしています。たとえば、メディア大手ターナースポーツとの放映権延長契約を2022年から7年総額37億ドル(約3900億円)で、FOXと2022年から放映権契約を7年総額51億ドル(約5400億円)で、映像配信会社DAZNと3年総額3億ドル(約315億円)で締結しました。この大きな収入を、大リーグ各チームで平等に分けます。FOXとターナーだけで、2022年からの7年間に渡って毎年総額約1320億円の放映権料が各チームに分配されるのです(各チームには約44億円の分配)。 

 

 一方、日本は巨人が2019年にDAZNとの間で年間20億円の放映権契約を締結するなど、各球団が単体で交渉しています。これでは、不人気球団が買い叩かれるのも無理はありません。日本もメジャーのように、野球界全体が一つの会社として儲かるシステムを考える必要があります。 

 

 かつての日本球界は、巨人軍中心に動いていました。巨人軍の創立者、正力松太郎は「将来は日米決戦」を考え、チームを整備していました。一方、圧倒的に人気がある巨人との試合を増やし、観客動員も放映権料も増やしたい球団がほとんどで、いつの間にか日米決戦どころか球団数を10球団に減らす「1リーグ構想」を巨人中心に提唱する事態となり、選手会がストライキをしたことはご記憶のファンもいるでしょう。 

 

 選手の力がメジャーに対抗できるほどになった今こそ、今度は経営力を大リーグに学び、放送権・通信権の一括交渉を行う体制にしてはどうでしょう。観客数を増やすための新球場建設と、自治体に納める固定資産税や開発費への補助などの交渉、そしてスポンサー獲得に動き、通称「ぜいたく税」のように、儲かっている球団が球界全体に利益を還元するシステムの導入も不可欠です。 

 

 もし16球団となれば、当然観客動員数も増えます。カードも増えるので、放映権料もアップします。キャラクターグッズなども、今はどんどん新しいサービスが出ていて、メジャーのグッズ利益は相当額に上っています。また、ポストシーズンにワイルドカードを入れ込むことで、さらに試合数と収入アップが期待できます。 

 

 現在、一般的に言われているプロ野球16球団構想では、増設するチームと球場候補案に沖縄や愛媛は入っていません。候補地の人口と球場のキャパなどが理由ですが、地方の場合は土地代が安いので広大な駐車場が確保でき、隣県からの観客も期待できます。また、リーグそのものをセ・パではなく、東部・中部・西部に分けて、選手の移動費を節約するなどの方法もありえます。 

 

 

 一方、北陸や四国、静岡などの他にプロ野球チームがない有望な地域といえば、北関東です。ここには、人口の多さのわりに球場も球団もありません。逆に首都圏で言うと、セ・リーグが東京・横浜に3球団、パ・リーグが千葉と埼玉に2球団、近畿・大阪圏に2球団と、特定の地域に球団が集中しています。球団経営に明らかに情熱を失っている西武球団は、球団ごと身売りして、さいたま市に本拠を置くチームとして生まれ変わった方がいいと思われるし、どうやっても巨人に人気で勝てないヤクルトは、新神宮球場誕生とともにパ・リーグに移るという選択肢もあります。 

 

● 日本の球団が最も見習うべきは スポンサー獲得への貪欲さ 

 

 また、スポンサーを多く獲得しているのもメジャーの特徴ですが、今の日本の球団は選手のユニフォームにロゴを入れたり、ソフトバンクのようにペイペイの名前を球場に冠したりと、親会社の広告機能の方を優先しているように思われます。これについても、F1レーサーのロゴだらけのユニフォームが象徴するように、「とにかく集めまくる」という意識を持てば、スポンサーをもっと獲得できるはずです。 

 

 新球団には、今年から2軍戦にだけ参加しているオイシックス新潟アルビレックス、くふうハヤテベンチャーズ静岡ほか、独立リーグからの立候補も考えられますが、日本の場合は米国とは違い、社会人野球チームの存在も考えなければなりません。社会人ではトヨタ、NTT、JRなど現状のプロ野球の親会社より大手の会社もたくさんあるからです。 

 

 もちろん、メジャーのように各球団が15人程度しかプロテクトできない大型のドラフト会議を開いて、新球団を応援する体制を整える必要もありますが、前述以外のホンダ、三菱グループ、日立といった大会社の社会人チームなら、財政基盤も安定しているし、もともといる社会人選手の力も相当期待できます(エクスパンションすれば、当然1軍選手全体の力も落ちるので、独立リーグや社会人選手にもプロの道は大きく開けます)。 

 

 それだけではありません。今テレビでは、BtoB企業のCMが全盛です。広瀬すず出演でおなじみのAGC(旧:旭硝子)、川口春奈出演のニデック(旧:日本電産)など。大企業にもかかわらず、企業相手のビジネスを展開しているため、一般に名前が知られていない企業が球団を取得すれば、認知度を向上させるために多額の費用がかかるテレビCMを打つ必要がなくなります。 

 

 そして問題は、この「日本プロ野球株式会社」を誰が取り仕切るかということです。プロ野球の象徴としての王貞治氏は絶対必要ですが、それ以外にメジャー流ビジネスを経験したイチローや松井秀喜などのスターに参画してもらい、それこそ大谷翔平もアドバイザーとして入ってもらえば、新球場、新チームにとって自治体への絶好のアピールとなります。 

 

 実際の現場は若いビジネスマン(DeNA横浜ベイスターズの収入を2倍にした池田純氏など)に全権を持たせ、大改革を行ってもらえばいいでしょう。 

 

 

 私がプロ野球のエクスパンションにこだわるのは、それ自体が日本の一極集中を食い止める一つの地方文化の中心になるばかりか、新球団が下位からスタートして優勝すれば、かつての楽天のように大きな社会変革が生まれると期待するからです。実際、メジャーでは2014年にヒューストン・アストロズがワールドシリーズに優勝するなど、エクスパンションで誕生した弱小チームが優勝するまでに至っています。 

 

 高校野球、大学野球、社会人野球、プロ野球と、日本の野球界はそれぞれ連携がなく、Jリーグとは大きな違いがあります。今や、日本のプロ野球でレギュラーをとる外国人野手はわずかで、投手もリリーフが主になりました。日本の個々の選手の技術は十分海外選手に対抗できるほど発達したのに、ビジネスとしての日本のプロ野球が世界で存在感を発揮できないのは、もったいない話です。今まで大きな改革案が出るたびに反対してきた巨人軍の球界への影響力が落ちた今こそ、飛躍への挑戦に踏み切るべきではないでしょうか。 

 

 たとえば、日本人で6億2000万円の最高年俸となったソフトバンクの柳田悠岐選手(複数年契約のため変動あり)は、メジャーに行かず長期の複数年契約を結んだものの、故障が多く年俸ほどの活躍はできていません。同じくトリプル3を3回も達成したヤクルトの山田哲人選手も、7年契約で5億円の年俸ですが、それに見合う数字が出せない普通の選手になってしまいました。巨人軍の坂本勇人選手も、年俸6億円に見合う数字は出せていません。競争と野心こそが、スポーツ選手を優れた選手に鍛え上げ、ファンの目も肥えて行くのです。 

 

● 世界で体を張った先人たちに 日本の野球界は応えられるか 

 

 思えば野茂英雄投手は、近鉄と1億円の契約をしていたのに、たった1000万円で大リーグにわたり、メジャーで大ブームを起こしました。大谷翔平は二刀流を主張したため、日本のほとんどの球団はドラフト指名を藤浪晋太郎投手に鞍替えしましたが、今はこれほどの差がついています。 

 

 メジャーのファームになるのか、日米決戦ができるほどの給料が払えるビジネスができるのか、あるいは韓国・台湾・中国とアジアリーグを戦った上で本当のワールドシリーズを米国と戦うか――。ちょっと才能のある選手が出てくると、メジャーにポスティングさせて球団の経営を安泰にさせようとするフロント。その選手にくっついて、ビジネスとして渡米する記者。そういう小さな人間たちの集団ばかりが、日本の野球界を牛耳るようになったように私には見えます。 

 

 先人の野茂やイチロー、そして大谷の大いなるチャレンジと類まれな礼儀正しさや人格に応える改革を、日本の野球界には望みたいものです。 

 

 (元週刊文春・月刊文藝春秋編集長 木俣正剛) 

 

木俣正剛 

 

 

 
 

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