( 223711 )  2024/10/18 17:11:03  
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(写真:Bloomberg) 

 

 石破政権が誕生して、いよいよ10月27日に3年ぶりの衆議院選挙が行われる。長期にわたって単独過半数を維持してきた自民党がここに来て、旧統一教会との組織的な癒着や旧安倍派を中心にした裏金問題などによって大きく議席数を減らすのではないか……、ひょっとしたら政権交代も起こるのではないかと様々な予想が叫ばれているが、いわゆる「与野党逆転による政権交代」が起きたケースは、日本では戦後2回しかない。 

 

 二大政党体制を築けていない日本にとって、政権交代は滅多にないわけだ。周知のように、アメリカでは4年に1度、あるいは8年に1度という頻度で、政策が大転換する政権交代が行われる。政権交代によって政府内部の汚職や腐敗といったものが一掃されることが多く、政権交代が定期的にある国家のほうが健全だと言われている。さらに、政権交代のない国家には、税制や財政といった面でシステム的に膠着化している可能性が高いとも指摘されている。 

 

 ただ、気になるのは政権交代によって経済は良くなるのか、それとも悪くなるのかだ。これまでの様々なケースを参考に、政権交代が経済に与える影響を考えてみたい。政権交代に慣れていない日本国民にとって、今回の総選挙は千載一遇のチャンスかもしれない。 

 

■政権交代に慣れていない日本人?  

 

 日本では1955年から大半の期間、自民党が政権を掌握してきた歴史があり、日本人にとっていわゆる「与野党逆転による政権交代」は、なかなか経験できていない。それでも、実際には70年の歴史の中で政権交代が2回起きている。簡単に紹介すると、次の2つになる。 

 

 <1993年 宮澤喜一内閣(自民党)→細川護熙内閣(連立)> 

非自民党の野党8党が結集して、細川氏を首相にして誕生した政権が最初の政権交代になった。1955年に誕生した「55年体制」を覆して、非自民による政権交代がはじめて実現することになった。その背景には「リクルート事件」や「東京佐川急便事件」といった政治家への賄賂に関するスキャンダルが発覚したことがある。 

 

 細川内閣は1年足らずで、やはり金銭スキャンダルが発覚して退陣するのだが、その後も続かず、自民党は政策の基本的な考え方が根底から異なり、長年の政敵であった社会党を巻き込んで、社会党の党首であった村山富市氏を首相にすることで政権に返り咲くことになる。わずか1年ちょっとで自民党は再び政権奪取に成功したわけだ。 

 

 

 細川政権が誕生した1993年の株価の年間騰落率は「+2.9%(日経平均株価、以下同)」、さらに羽田孜内閣から村山内閣への政権交代が実現した1994年には「13.2%」と株価が上昇している。1993年の政権交代では8党の連立政権の基盤が不安定で、経済政策など目立った動きもなく、政権交代の経済効果を判断するには期間が短すぎると考えていいだろう。 

 

 ちなみに、細川内閣の最大の遺産は「小選挙区比例代表並立制」への移行という選挙制度改革を実施したことだ。それまで大政党に有利と言われてきた「中選挙区制」を改めて、小選挙区と比例代表制をミックスさせた選挙制度が誕生した。 

 

 ところが、比例代表による復活などを盛り込んだために、かえって既存の政党に有利に働くようになってしまい、自民党政権を長期化させる結果となった。野党自らが自民党有利の選挙制度を作ってしまった感がある。 

 

■2009年の日経平均株価は、年間騰落率「+19.0%」 

 

 <2009年 麻生太郎内閣→鳩山由紀夫内閣> 

この前年にはリーマンショックがあり、経済は大きく低迷。さらに麻生首相本人の失言などが加わり、自民党の人気は凋落。一方の民主党は「子ども手当や高校無償化などを盛り込んだマニフェスト」を発表し、歳出改革や埋蔵金で16兆8000億円の財源を捻出すると公約。実際には、当てにしていた財源が確保できずに途中で頓挫するわけだが、日本で初めての本格的な二大政党時代に突入かと思われた。 

 

 政権交代が実現した2009年の日経平均株価は、年間騰落率「19.0%」となり大きく上昇している。経済成長率も、「-5.4%(内閣府国民経済計算)」だったが、政権交代後の2010年の実質GDP成長率は「+4.2%(同)」となって景気回復を果たしている。ちなみに、リーマンショックは世界中の経済に影響を与え、世界全体で「-0.1%」(2009年)とマイナス成長になっている。 

 

 民主党政権は2011年には東日本大震災に遭遇し、わずか3年で自民党に再び政権を奪われている。本格的な与野党逆転による政権交代が実現したにもかかわらず、海外の先進国などで見られるような本質的な改革が実行される前に、再び自民党に政権を奪還されたわけだ。 

 

 

 ちなみに、民主党政権から政権交代を果たした安倍政権は、大胆な金融政策を核にした「アベノミクス」をスタートさせたのだが、デフレ脱却、景気回復を実現させることなく、新型コロナウイルスによる急激な景気後退に巻き込まれていく。 

 

■海外では大きな成果を上げてきた政権交代の歴史 

 

 では、海外では政権交代によって、どんなことが起きてきたのか。いくつか、代表的なケースを紹介してみよう。政権交代と言えば、大統領が代わるごとに官僚などのスタッフも総入れ替えになると言われるアメリカだが、過去のケースで景気が良くなったケース、悪くなったケースがある。 

 

 <1933年 フーヴァー大統領→ルーズベルト大統領> 

1930年代の大恐慌時代は、共和党のフーヴァー大統領が適切な対応をしなかったために事態を深刻化させ、政権交代によって民主党のルーズベルト大統領が誕生。ニューディール政策を実施して景気の回復に努めた。もっとも、実際にはルーズベルト政権でも、景気を回復させることはできずに、1937年前後には景気の最悪期となっている。最終的には第2次世界大戦終了後、はじめて大恐慌からの回復が実現したと言われている。 

 

 <1981年 ジミー・カーター大統領→ロナルド・レーガン大統領> 

第2次世界大戦後、1970年代は景気後退時のインフレ、いわゆる「スタグフレーション」という状態が続いていた。そんな1970年代を、政権交代によって救ったのが「レーガノミクス」という経済政策を打ち出して誕生したレーガン大統領だ。1970年代の景気後退を、短期的とはいえ転換させることに成功したのだ。 

 

 もっとも、富裕層への減税と規制緩和、軍事支出の増大という経済政策は、政権交代による経済成長を印象付けたものの、レーガノミクスは「呪術経済政策(ブードゥー・エコノミー)」と揶揄されたように、すぐに矛盾点が露呈して、1985年には景気後退に苦しむアメリカを救うために、日本や英国などが集まってドルレートを大幅に引き下げる「プラザ合意」を実施。アメリカ経済の立て直しを図っている。 

 

 

 政権交代による景気の好転というのは、金融政策などの変更などによって、短期間であれば景気を回復させることができるものの、やはり社会全体のシステムや価値観を転換させるモノでなければ、あまり効果はないということかもしれない。 

 

■政権交代に揺れるイギリスが示す現代の経済メカニズム 

 

 <1979年 マーガレット・サッチャー政権の誕生> 

一方、イギリスでは劇的に時代の流れを変えた政権交代があった。第2次世界大戦後のイギリスは、労働党政権が続き「英国病」と呼ばれる経済の停滞が続いてきた。そんな中で1979年、マーガレット・サッチャーが政権に就く。大胆な政策転換を図ってイギリスを再び経済大国に復活させることに成功している。 

 

 それまで、イギリスは「ゆりかごから墓場まで」と言われる高福祉社会を維持してきたものの、経済は低迷。停滞した経済を「規制緩和」「民営化」「市場化」させることで大胆な構造改革を実施。景気回復を成功させたと言われる。 

 

 ちなみに、そのサッチャーの流れをくむ保守党政権が今年、14年ぶりに総選挙に敗北し労働党政権が代わって誕生した。14年ぶりに政権交代を実現させた労働党政権が、どんな経済政策を打ち出してくるかが注目されている。 

 

 <1998年 シュレーダー改革> 

 昨年、日本のGDPを追い抜いて世界第3位になったドイツ経済も、かつては低迷に苦しんでいた時期がある。 

 

 1990年代はドイツ経済が低迷を続けていた時期であり、それが2000年代に入ってからは奇跡の回復と言われる経済復活を果たしている。1998年から2005年に政権を取ったゲアハルト・シュレーダー首相が実施した「シュレーダー改革」と言われる経済政策だ。超党派による同意を取り付けた同首相が、戦後停滞していたドイツ経済を復活させたと言われている。 

 

 とりわけ注目を集めたのは、失業給付水準の引き下げと期間の短縮といった「労働市場」の改革だ。ミニ・ジョブ制度の拡充、自営業の促進等を実行した「ハルツ革命」によって、労働市場を活性化。さらに、医療保険制度や社会保障制度の改革にも着手し、後に続くメルケル政権時代の経済成長の礎を築いたと言っていいだろう。 

 

■日本の政権交代は成功できるのか?  

 

 さて問題は、立憲民主党の野田佳彦代表がスローガンに掲げている政権交代は、日本で成功できるかどうかだ。仮に、今回の総選挙で政権交代が実現しても、単独では無理で、複数政党の連立という形になるはずだ。 

 

 

 
 

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