( 224706 )  2024/10/21 16:23:02  
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円安によるインフレが進み、「勝ち組のなかの勝ち組」である大手商社の40~50代のエリート会社員でも、東京23区で余裕を持って子供を育てることが難しくなってきた。 

 

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前編『衆院選で語られない「東京一極集中」の罪と罰…「東京23区で子育ては超富裕層しかできません!」と嘆く、エリート会社員「絶望の真実」』で解説してきたように、国民の所得が下落基調に転じた1998年以降、東京23区での子育ては経済的に苦しいと言われてきたが、それが今では勝ち組とされる家庭でも余裕がないという有様だ。 

 

いわんや、その他の家庭では子育てにお金をかけるのがますます難しく、教育格差を拡大する大きな要因となっている。住居費の高騰で苦しくなったなかで、さらに教育費の負担が重くのしかかるということだ。 

 

一般的に教育費とは、幼児教育から大学までの授業料、塾や予備校の補習教育、教科書・学習参考教材などで構成される。教育費で伸びが大きいのは、私立小中学校の学習費と塾・予備校費だ。 

 

写真:現代ビジネス 

 

文科省の2021年度の子供の学習費調査によれば、私立小学校の学習費総額は年間で166万6949円(統計が遡れる2006年度の137万3184円から21.4%増)、私立中学校は143万6353円(同2002年度の123万1719円から16.6%増)と高額だ。(※2010年の高校無償化により、高等学校の学習費総額は増えていない) 

 

2022年度以降も私立学校の値上げが相次いでおり、東京都が2023年度から私立中学授業料を10万円援助するようになったので、私立中学校の学習費はさらに増加することになるだろう。 

 

さらに、塾・予備校費の伸びは著しい。私立中学校の受験競争の高まりから2021年度の費用は公立小学生で平均8万円超と、3年前の1.5倍にまで増加した。これは平均値であることから、実際にはこの10倍以上の費用をかけている家計もあるだろう。 

 

その証左として、世帯年収が1200万円超の家計では教育支出が大幅に増えている。特に塾代の伸びが驚くほど大きく、前編の私の友人の話とも符合する。 

 

教育費の負担増加は、教育にお金をかけられる世帯とお金をかけられない世帯の間で教育格差を生むと同時に、すべての子育て世帯から生活する余裕を奪っていく。 

 

日本は教育を私費で賄うのが当然との意識が強い。バブル崩壊を契機に、政府は教育に関する予算を削り続ける一方で、公共事業の予算を手厚くするというバラマキ的な財政に終始してきた。 

 

その帰結として、日本は他の先進国に比べて、教育支出の家計負担が極めて重くなった。たとえば大学に関する教育費では、家計の負担割合が52%と異常に高い。これは、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均22%の2倍を優に超える。 

 

 

写真:現代ビジネス 

 

厚労省の毎月勤労統計調査によれば、東京都の現金給与総額は2001年44万5133円から2023年には43万2475円と、22年経って増加しているどころか、2.8%減少している(※23区のデータはない)。2013年以降のアベノミクスによって、大企業では大幅な賃上げを達成したものの、平均ではこの22年間で給与は減ってしまっているのだ。 

 

そのうえ、給与が全国平均と比べて高いからといって、東京の暮らしが豊かだというわけではない。国土交通省の推計では、東京の全世帯平均の可処分所得は全国3位だったものの、可処分所得から家賃や食費などの基礎的支出を差し引くと、その額は全都道府県で42位に下がるというのだ。 

 

日本はデフレに陥って30年と言われてきたが、実際のところ、東京に住む子育て世代を中心に「給与はデフレ、住居費や子育て費用はインフレ」という状況が続いてきた。特に、日銀の大規模な金融緩和以降、そのインフレが加速したという事実を無視してはいけない。 

 

日本全体の子育て世代が、日銀の異次元緩和の大きなツケを払わされている。とりわけ、23区に住む子育て世代への代償は大きかったといえるだろう。子どもを育てるのが苛酷になった国で、少子化が止まるわけがない。 

 

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政治は日銀の金融緩和に過度に依存し、大企業の業績・株価や不動産価格を大幅に押し上げた。その一方で、財政では無駄な支出を繰り返し、生産性が一向に上がらない(=所得が上がらない)状況をつくりだした。 

 

過去の政治の怠慢が、国民にすべてしわ寄せとなっている。これは、政治資本が選挙に勝つという一点に偏重しすぎているためだ。 

 

その結果として、政治は根拠のない政策でバラマキに終始し、改革どころか改善もできなかった。日本は過去30年、静かに沈み続けてきた。 

 

東京への一極集中と子育て世代の苛酷な環境は、豊かさを失った日本の縮図にみえる。すべての元凶は、生産性の低下ひいては所得の減少にあるという事実に、政治は着目すべきだ。 

 

所得を上げることが重要ではない。生産性を持続的に上げることなく、所得の持続的な増加はありえないからだ。 

 

そういった意味で、今後の最重要課題は政治資本を生産性の向上に集中することだ。しかし心もとないことに、今回の衆院選挙ではそういった主張はほとんど聞かれない。 

 

さらにつづく記事『「インフレで賃金が上がらない理由」はこれだ…!「永田町の政治家たち」に告ぐ、日本を没落させた「政治の不作為の真実」』では、この国の凋落の原因をさらに詳しく解説しているので、ぜひこちらも参考にしてほしい。 

 

中原 圭介(経済アナリスト) 

 

 

 
 

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