( 225761 )  2024/10/24 15:09:04  
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応援演説で支援を呼びかける石破首相 

 

「まさかこんな数字が出るとは信じられない。石破首相も絶句だそうだ」 

 

 と沈痛な表情で話すのは、自民党の幹部。 

 

【写真】衆院選の劣勢に石破首相が慌てて出した緊急通達 

 

 衆院選(10月27日投開票)で、自民党は自民・公明の連立与党で過半数(233議席)の獲得を「最低目標」としている。ところが、自民党が行った直近の独自情勢調査で出た議席獲得数は、自民党215議席、公明党16議席で、合わせて231議席の過半数割れという衝撃のものだったという。 

 

 全国で遊説に駆け回る石破茂首相も大慌てで、10月21日に自民党候補の陣営に向けて「緊急通達」を発出した。 

 

〈選挙は、いま重大な局面を迎えている〉 

 

 と始まる緊急通達は、 

 

〈引き続き『自民党と公明党による政権を継続して、経済成長をはかり国民の暮らしを向上させる』のか、それとも『具体的な政権構想のない無責任な野党の政権を選んで、経済と国民生活を混乱に陥らせる』のか、極めて重大な岐路に立っている〉 

 

〈この後半戦、私も死にもの狂いで全国を駆け回る〉 

 

 などと、切迫した内容となっている。 

 

 連立与党の情勢がかんばしくないのは、各メディアの情勢調査でも同様だ。 

 

 朝日新聞は先週末(19、20日)に行った情勢調査をもとに21日付で、 

〈自民党、公明党の与党は過半数(233議席)を維持できるか微妙な情勢で、自民は公示前の247議席から50議席程度減る見通し〉 

 と報じた。他のメディアでも自公政権で過半数獲得に厳しい報道が見られる。 

 

 選挙戦の序盤では自民党の単独過半数は厳しいが、公明党を含めた連立与党で過半数は維持できるという見方が大半だった。 

 

 だが、冒頭の自民党幹部は、 

「選挙戦の初日は、反応がよかった。それが先週末からガタッと落ちている。チラシを配っても、取ってくれる人は初日と比べれば半分以下。やはり、裏金事件に『反省がない』という声が多く聞かれる。緊急通達を出したが、それでも追加で調査している情勢調査では支持が落ち続け、自民党だけでは200議席を割るという数字も流れる大変な状況だ」 

 と沈痛な面持ちで話す。 

 

 

 追い打ちをかけるように、23日付の「赤旗」が、自民党が裏金事件に関与して衆院選で「非公認」とした候補者の政党支部に、党本部が政党助成金2000万円を支給していたことを報じた。非公認の裏金議員に、実質的に公認候補並みの選挙資金を支給していたというわけだ。 

 

 自民党の森山裕幹事長は、 

「党勢拡大のための活動費として支給したもので、候補者に支給したものではない」 

 というコメントを急きょ出したが、苦しい言い訳に聞こえる。この「裏金議員へ2000万円支給」問題は、自民党にとって大きな一撃になりそうだ。 

 

■「動員しても人が来てくれない」 

 

 記者は20日の日曜日、石破首相が駆け付けた和歌山2区の街頭演説を取材した。自民党が二階俊博元幹事長の三男、二階伸康氏を擁立。裏金事件で自民党から処分を受けて離党し、無所属で立候補した元経済産業相の世耕弘成氏と激突する、全国屈指の注目選挙区だ。 

 

 石破首相が演説に来るため、自民党からは「1000人を動員する」との情報が聞こえていたが、実際には多く見ても300人ほどで、目立つのは警官と警備員ばかりだった。 

 

 自民党の和歌山県議はこう話す。 

 

「石破首相がわざわざ和歌山2区まで来るのに、いくら呼びかけても『行きます』と返事してくれる人は10人のうち3、4人くらいしかいない。実際に来てくれたのは10人のうち1人か2人だ。日曜の朝という時間を割り引いても、告示のときと比較してあまりに反応が悪いので、和歌山2区というより今回の衆院選が危ないと感じましたね」 

 

 翌21日、石破首相の姿は、自民元職と維新前職が激戦をしている大阪4区にあった。 

 

 大阪市内の中心部にある広い公園が演説会場で、800人ほどが集まったが、自民党関係者はこう話す。 

 

「石破首相のメンツを保たないといけないと大号令が出て、自民党より、公明党の大量動員でなんとか面目を保った。大阪4区の前に石破首相が入った大阪1区では、大阪一番の繫華街ミナミだったがもっと悲惨で、聴衆を囲む柵の内側がガラガラ。たぶん300人ほどだったと思います」 

 

 石破首相が和歌山や大阪で行った街頭演説を聞くと、裏金事件について、 

「二度と起こさない」 

 などと語っていたが、それ以上突っ込んだ、徹底調査などへの言及はなかった。 

 

 自民党幹部は、こう話す。 

 

「そういう演説が裏金事件を軽視しているという国民の批判につながっているのではないか。石破首相の演説でも、裏金事件への反省と今後の対応をさらに語るべきという意見もある」 

 

 

■国民民主や維新との連立も検討 

 

 石破首相と森山幹事長らは21日夜、衆院選について協議し、情勢調査の数字が10ポイント差程度までで野党候補と競り合っている約40の小選挙区を「重点区」に置き、首相ら党幹部が応援に入ってテコ入れすることを決定した。 

 

「10ポイント以上の差がついている小選挙区は捨てて、競っているところを確実にとる方針だ。石破首相は選挙戦最終日、数多くの小選挙区をまわるため東京だけに絞って7つの小選挙区で街頭演説することになった。石破首相ら幹部が行かない小選挙区から、『冷たい、ひどい』と抗議が来ている」(自民党幹部) 

 

 また、この自民党幹部によれば、自公で過半数を獲得できない場合に備え、 

「早急な無所属議員の取り込み、国民民主党との連立協議までが検討されている。大臣が落選した場合に備えての対応も急務となっている」 

 

 だが、国民民主党の玉木雄一郎代表は22日、衆院選後に自民、公明両党の連立政権に加わる可能性を記者団に聞かれて、「ない」と否定した。 

 

 自民幹部によると、連立交渉のターゲットとして維新も検討すべきという意見が出ているという。 

 

■立民幹部は「政権交代が現実味帯びた」 

 

 一方、立憲民主党はメディアの情勢調査によると、30議席から50議席伸ばすという数字が出ている。朝日新聞(21日付)は、 

〈立憲は、公示前の98議席から大幅に増加し、140議席が視野に入る〉 

 と報じている。 

 

「一気に政権交代も現実味を帯びてきた。メディア報道以上、150、160議席超という数字も視野にあるほど伸びている」 

 

 と立憲民主党の幹部は手ごたえを語る。 

 

 自民党の政務調査役を長く務めた政治評論家の田村重信氏は、 

 

「石破首相の緊急通達はあまり例がないこと。この選挙では、急速な自公の落ち込みを感じています。裏金事件の解明に消極的な姿勢であることに加えて、本来、自民党がとれる票を新しい党にもっていかれていることでしょう」 

 

 と分析する。「新しい党」とは、保守色を強く出している参政党や、今回初めて国政での議席獲得が有力視されている日本保守党だという。 

 

「情勢調査でもこの2つの党の評価が高い。2つの党を支持する有権者はもともと自民党支持という方が大半なので、ダメージが大きい」(田村氏) 

 

 自民党候補からは、悲鳴のような声が漏れている。 

 

「投票日が来ていないのに、次の解散総選挙や石破首相の退陣までがささやかれて、とても衆院選の最中とは思えないほどバラバラな状況だ」 

 

 首相就任からわずか8日後と戦後最短で衆院を解散して選挙に臨んだ石破首相。結局、何もしないうちに退くことになるのだろうか? 

 

(AERA dot.編集部・今西憲之) 

 

今西憲之 

 

 

 
 

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