( 226051 ) 2024/10/25 01:53:04 0 00 二階伸康氏(左)の応援にかけつけた石破首相
衆院選で全国でも注目される和歌山2区。自民党は、引退した二階俊博元幹事長の後継として二階氏の三男・伸康氏を公認。一方、裏金事件で党から処分を受けて離党した世耕弘成・前参院幹事長が無所属で出馬し、白熱の戦いだ。渦中の選挙区に10月20日朝、伸康氏の応援のため石破茂首相が姿を見せた。
【写真】手をつないで支援者に応える世耕氏と妻の林久美子氏
和歌山県内では昨年4月、衆院補選の応援に来た岸田文雄首相(当時)に爆弾が投げつけられて爆発するテロがあった。さらにこの石破首相の和歌山来訪の前日(19日)には、自民党本部に火炎瓶が投げつけられ、首相官邸手前のフェンスに軽乗用車が突っ込む事件があったばかり。海南市のJR南海駅前であった石破首相の演説会では厳重な警備態勢が敷かれることになり、石破首相と聴衆の間には20m以上の「空白地帯」が設けられ、メディアが取材できる場所は、さらに30mほど下がった位置だった。
厳重な警備のもとでマイクを握った石破首相は、
「こんな離れたところからしゃべるのは好きじゃない」
と言いながら、
「あらゆることに公平、公正、謙虚な政治。自民党を取り戻す」
と裏金からの脱却を主張したが、10秒ほど触れただけで、聴衆の反応は鈍かった。
■首相来訪でも聴衆は300人ほど
この日、自民党和歌山県連は石破首相が応援に来るとあって、「1000人動員」を目指して人を集めたという。しかし、日曜の朝という時間帯もあってか、実際に集まったのはその3割ほどだった。
人が集まらないのは、和歌山2区の情勢にも起因しているようだ。
この地域は当選13回を誇る二階元幹事長が長く地盤としていた。一方の世耕氏は参院和歌山選挙区で当選5回、経済産業相や参院幹事長などを務めてきた大物。これまでも衆院へのくら替えを模索してきた世耕氏だが、二階氏が裏金事件の責任を取る形で引退し、伸康氏を後継に立てたタイミングを好機とみて、勝負に出た。
自民党は伸康氏を早々に公認し、手厚くサポートしている。一方の世耕氏は安倍派5人衆の1人として裏金事件で処分を受けて離党し、無所属での出馬だ。このため当初は、伸康氏には世襲批判はあるものの、世耕氏と接戦になるのではという見方が多かった。
だが、自民党やメディアの情勢調査が出てくると、世耕氏が大幅にリードしている状況だった。「二階王国」と呼ばれた和歌山2区では、“政権交代”か、とささやかれている。
■「情勢調査の数字は驚きや」
石破首相の応援演説の「前座」として、鶴保庸介元沖縄北方担当相が二階伸康氏の選対委員長として挨拶に立とうとしたとき、
「世耕選対……」
と地元の市議が言い間違えるハプニング。鶴保氏は、
「それほど(世耕氏は)縁が深い方。ずっと仲良くやってきて、二階氏が自民党公認で出馬が決まっているのに、その後に出てくる。まったく大義がない」
とフォローしつつ、
「(世耕氏には)私が直接、候補者が決まっていない和歌山1区から出ればと言いました。しかし、断ってきた」 と恨み節を披露。
続いて候補者の伸康氏も、 「選挙で走っているとあちこちで、私と相手方のポスターが並んで貼ってある。残念な気持ちでいっぱいだ」
と世耕氏を意識した発言を続けた。
自民党としては、公認候補に反旗を翻した世耕氏に敗れるわけにいかない。和歌山2区には石破首相に続き、森山裕幹事長も入って2カ所で応援。小渕優子組織運動本部長や野田聖子元総務相らも入った。
二階氏の有力後援者がこう打ち明ける。
「情勢調査の数字は驚きや。選挙直前に出馬表明した世耕氏がここまで勝っているとは思わなかった。世耕氏は離党して無所属なので、お金も自前、政見放送もプロフィール紹介程度しかない。こちらは用意周到に戦える準備をしていたんだが」
■事務所の「ため書き」は二階氏が圧倒
確かに、二階氏の御坊市の選挙事務所に入ると、圧倒的な組織力を感じる。壁から天井にまで必勝祈願の「ため書き」がうなるように張られていて、真ん中には大きく、
「祈 必勝 元自由民主党幹事長 二階俊博」
という父・俊博氏のため書きがあった。それをはさむように、石破首相や和歌山県の岸本周平知事のため書きが並び、林芳正官房長官や三原じゅん子少子化担当相のものはスペースがなかったのか、天井のほうに貼られていた。各種団体の推薦状なども大量に並べられている。組織力では世耕氏を圧倒しているのが見て取れる。
■ミカン箱で作った台上で演説
一方の世耕氏の陣営には派手なものはない。世耕氏の出陣式は、海南市の小さな会社の敷地で行われた。選挙事務所に「ため書き」は10枚ほど張られているだけで、国会議員は安倍派だった高木啓前衆院議員のものしか見当たらなかった。
世耕氏の集会には約300人の支援者が集まり、3つのミカン箱を連結した台に乗った世耕氏は裏金の問題に触れ、
「大失敗した。申し訳ない」
と頭を下げた。続けて、
「(裏金に)関係した議員の中では最も重い離党という判断を、黙って、言い訳もせず受けた。無所属の議員となって、裸一貫で活動している」
「大きな企業、団体からドーンというような票はありません。積み重ねるだけ」
と訴えた。
支援者から、
「世耕先生が総理大臣を目指していいですか!」
と声が出ると大きな拍手がわき、世耕氏は破顔一笑。
その傍らには、元民主党参院議員で妻の林久美子氏が「Wife(妻)」という白たすきをかけてずっと寄り添った。世耕氏が有権者と握手でスキンシップを始めると、久美子氏が周囲を見回して、
「弘成さん、あちらにも」
と息の合った「内助の功」を見せていた。
■昭恵夫人が「主人の魂が残っている」
21日には安倍晋三元首相の昭恵夫人が世耕氏の応援に駆け付け、
「世耕ちゃんのところへ行ってあげてと主人が言っていると思う」
と安倍派の幹部だった世耕氏を応援。
世耕氏は安倍元首相と靴のサイズがまったく同じといい、選挙戦では「形見」としてもらった靴を履いているという。昭恵夫人は、
「主人の魂がこの靴の中にも残っている」
と言って支援を訴えた。
連立与党の公明党は自主投票を決め、二階氏に推薦を出していない。だが、世耕氏は情勢調査の結果も見て余裕が出たのか、10月20日の演説ではこんなことを口にした。
「正直に皆さんに言います。比例は公明党に入れてあげてください。公明党さんとは連携しており、戦略的なこともあります」
あたかも、公明党と「密約」があるかのような口ぶりだ。
■姿を見せない俊博氏は動くのか
世耕氏を支援している地元市議は、
「二階俊博氏は公明党が推薦してくれないことをカンカンに怒っているそうだ。情勢も厳しく、企業や団体などにきつく締め付けをしているが逆効果になっているとも聞かれる。伸康氏が俊博氏の秘書を10年以上もやって、裏金のことは何も知らんとばかりに選挙をしていることにも反発が強い。世耕氏は裏金のことを最初に謝罪して演説に入っている姿勢が『ええわ』という有権者が多い」
と裏事情を打ち明ける。
一方、和歌山県町村会の会長で伸康氏を最初から推してきた九度山町の岡本章町長は、
「これまで、お父さんの俊博氏は始まる前から当選確実という選挙ばかりだった。保守が割れ、接戦になるような選挙は最近なかった。俊博氏はよう知っているが、伸康くんって誰?という感じの有権者もかなりいる。知名度で負けているのが情勢調査に出ているのかな。世耕氏は、もう衆院選では勝ったような雰囲気だが、裏金事件が今も問題になっているのに、おかしいでしょう。自分のことばかりだ」
と憤慨する。
石破首相が伸康氏の応援でマイクを握っていた時、父の俊博氏は会場に姿を見せなかった。「体調不安」説も流れる俊博氏だが、和歌山県議の一人はこう話す。
「このままいけば、世耕氏は勝てるでしょう。伸康氏は比例復活も危うい情勢です。ただ、俊博氏がなんらか動き出した時、何かが起きる気がします」
「二階王国」の危機に、俊博氏の秘策はあるのだろうか。
和歌山2区ではほかに、いずれも新顔で立憲民主党の新古祐子氏、共産党の楠本文郎氏、諸派の高橋秀彰氏が立候補している。
(AERA dot.編集部・今西憲之)
今西憲之
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