( 226396 ) 2024/10/26 00:59:17 0 00 SNSは選挙の投票行動にどこまで影響するか(写真:maruco/イメージマート)
選挙でSNSを使う流れに変化が出てきた。従来はX(旧Twitter)やYouTubeだったが、目下強い影響が見られるのは数十秒の短いショート動画だ。都知事選では石丸伸二氏、自民党総裁選では高市早苗氏がそうしたショート動画で支持者を増やした可能性がある。今回の衆院選でもTikTokなどでショート動画が散見される。なぜ選挙でショート動画が使われるのか。これらの動向に詳しい、ネットコミュニケーション研究所の中村佳美代表と成蹊大学の伊藤昌亮教授に話を聞いた。(文・写真:ジャーナリスト・森健/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
ネットコミュニケーション研究所代表の中村佳美さん
9月に行われた立憲民主党の代表選と自由民主党の総裁選。両党首選では、どちらもSNSが幅広く使われていましたが、今回、特徴的だったのが動画、とくに数十秒から数分のショート動画でした。
まず立憲民主党で見ると、従来同党の議員はX(旧Twitter)を使う方が多く、7月の東京都知事選でも蓮舫さんは(6月に離党しましたが)Xを駆使して選挙戦に臨んでいました。文字や画像による投稿が主体です。ところが、今回の立憲の代表選ではTikTokやYouTubeショートなどショート動画に力を入れる人が出てきました。
たとえば吉田晴美さんは「はるみんキッチン」というショート動画を主にInstagramで展開していました。代表となった野田佳彦さんも、お酒をどれくらい飲むかを語るようなゆるい内容のショート動画をYouTubeで出していました。彼らの動画でも、そういう“人柄”の動画の再生回数が多かったことにまず注目する必要があります。
自民党の候補者が力を入れていたのはYouTubeですが、ここで長けていたのが高市早苗さんでした。陣営側で出していた動画は大別して4種類です。政策など主張型の内容、討論会や街頭演説の切り抜き、ある日の活動報告、そして人柄を伝える内容です。政策など難しい内容よりも、むしろ“人となり”がわかる、カジュアルなコンテンツがよく見られる傾向がありました。
自民党総裁選の頃のYouTube高市早苗公式チャンネルより
たとえば、高市さんのショート動画は、「早苗さん、早苗さん」とスタッフが問いかけて、「はい」と高市さんが答えて、Q&Aが始まります。「好きな音楽は何ですか」「ハードロックを聴きます」、「休日は何しますか」「バイクに乗っています」などです。こうした動画を含めて、幅広いコンテンツの多さや拡散力などが各地の支持拡大へ影響した可能性はあります。
高市さんは動画の作り方も優れていました。カメラワーク、背景の音楽、文字のデザインなど、どの部分でも計算されて作られていた。ショート動画の制作に慣れたスタッフが作っていたことがうかがえます。
報道によれば、都知事選のとき候補者だった石丸伸二さんについたスタッフ約50人が、総裁選では高市さんのスタッフに回ってSNS上の拡散に寄与したと陣営側のコメントにありました。そうしたSNSでの戦略が、今回の高市さんの躍進、存在を高めることにつながった可能性があります。
私たちの研究所の調べでは、前回2021年の総裁選や衆院選ではYouTubeよりTwitter(現X)かFacebookを利用していた人が多い傾向がありました。また、当時、利用する候補者がもっとも増えたのはInstagramでした。それから3年経った今年、多くの候補者がテキストから動画の利用に移行しました。その結果、動画の再生回数も増えていて、たとえば高市さんの動画は2021年当時、1日平均で14万~15万回くらいの再生でしたが、今回上げた動画は28万回再生と約2倍に増えていました。
こうした影響の先駆けになったのは、やはり都知事選での石丸さんの動画戦略とその結果としての得票数ではないかと思います。あの時期、石丸さん関連のショート動画はTikTokやYouTubeなどを埋め尽くすくらいの勢いで出回っていました。
なぜそれだけ上がってきていたのかと言えば、石丸さんを応援して、関連動画を投稿するアカウントが50以上も作成されていたことが関係しているのではないかと見ています。選挙期間中に100万回再生以上のアカウント(チャンネル)だけで少なくとも16以上ありました。私たちで調べたところ、それら応援アカウントの総視聴回数は合計2億回近くになっていました。大事なことは、石丸さんの公式アカウントより石丸さんの“推し”アカウントのほうが、再生回数が多かったということです。
都知事選の際、石丸氏関連のショート動画を調べると合計2億回以上の視聴回数になった(図版作成:Yahoo!ニュース オリジナル 特集)
なぜ石丸さんの動画がそれだけ支持されたのか。その要因の一つは、彼の支持者に対するコミュニケーションスタイルではないかと思います。チャットなどと組み合わせて双方向的に語れるオンラインの場では、石丸さんは選挙のことだけでなく、音楽とかゲームとか個人的なことも多く語ります。難しい政策だけではなく、有権者と対等な目線で話してくれる感覚です。こうした“従来の政治家”と違うというスタイルが、若者や無党派層に響いたのではないかと思います。
石丸氏本人からもボランティアや支持者に「どんどん切り取って(シェア)ください」と呼びかけ、石丸氏に関する投稿を増やし「拡散」させ、世代やジャンルを超えてネット(空中戦)とリアル(地上戦)を融合させました。結果的に、この切り取り動画の拡散に成功したことによって、TikTokやYouTubeを普段見ている若年層に刺さり、既成政党への不信を背景に、若い世代を中心とする無党派層の受け皿になったのではないでしょうか。
9月に行われた自民党総裁選(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
これまで「ネットでの人気は票にならない」というのが一般的な理解でした。しかし、今年の都知事選、そして今回の両党首選を見ると、党首選は一般の有権者が投票する選挙とは異なるとはいえ、「ネットが票に影響している」ように思えます。
SNSのアルゴリズムでリコメンドされてくる動画があり、有権者はそこに共感したら、その共感のまま選挙で投票する。そんな投票行動の傾向もうかがえます。
それは石丸さんのときだけではありません。2022年の参院選、N党候補者だったガーシーさんが当選したときは、多くの人が投票用紙を撮影し、SNS上にアップして盛り上がったことがありました。28万票以上の得票でしたが、彼が人気になったのも動画やSNSでした。昨今のショート動画はこれまでのネット選挙の成功事例の流れから来ているのだと思います。
文字よりも親近感を得やすいのが動画で、その動画も尺が短くなってショート動画になります。さらに「推し」が増えれば、そこから切り抜き動画も増え、膨大に増えていきます。そうなると、有権者は政治の要である政策の実現可能性などを理解して投票できるかどうか、なかなか難しくなっていく懸念があります。
もちろん、衆議院選挙は小選挙区が主体なので、地域の広い参院選や都知事選と異なります。各候補者は、地域に住む高齢者などあまりSNSに親しんでいない層も有権者として考えなくてはいけないので、SNSだけでうまくいくわけではないでしょう。
それでもなお、今後、選挙戦でSNSのショート動画が主体となっていくことは間違いないと思われます。ネットが投票に影響を及ぼすようになった今、候補者がどういう戦略を展開するのか、有権者はどう受け止めるのか、今後注視する必要があると思います。
『ネット右派の歴史社会学』などの著書がある成蹊大学文学部の伊藤昌亮教授
インターネット上で選挙活動ができるように公職選挙法が改正されたのは2013年4月。当時はスマートフォンが急速に普及していく頃で、SNSでは、まずTwitter(現X)で盛り上がりました。
当時、いち早く動き出したのは左派系で、共産党は志位和夫委員長(当時)などが自らTwitterなどで発信を始めていた覚えがあります。また、市民運動勢も早くから選挙で動いていました。たとえば、緑の党で立候補した三宅洋平氏。当時は東日本大震災から2年。三宅氏は反原発を掲げて“選挙フェス”という名のもと各地で歌を歌ったりして盛り上げた。この動きを支えていたのがTwitterでした。反原発運動などの流れを受け、SNSを通じて感情を動員するというスタイルが左派の運動の中で顕著になっていきました。
一方で右派系のTwitterで当初目立ったのはいわゆるネトウヨ的な書き込みですが、その背後には組織的な動きもありました。民主党政権時代、自民党公認の「自民党ネットサポーターズクラブ」という組織が設立され、安倍晋三氏らが設立総会にも参加しました。この団体が世論工作のようなかたちで、Twitter上で民主党のネガティブキャンペーンを行っていたこともあります。感情的な盛り上がりを大事にする左派系の運動と比べると、右派系の運動はより周到なものだったと思います。
同じ頃、もう一つ出てきたのがYouTubeの流れで、N党の立花孝志氏です。彼が広く耳目を集めるようになったのは2016年の東京都知事選。このとき、立候補してNHKの政見放送で「NHKをぶっ壊す!」と言って話題になり、そこからネット戦略を強めていくことになりました。
今年7月の東京都知事選のポスター掲示板
重要なのは2014年にYouTubeが「パートナーズプログラム」を大々的に宣伝したことです。ユーチューバーが報酬を得られる仕組みは以前からあったのですが、この年、「好きなことで、生きていく」というキャッチコピーで大々的に宣伝した。あそこから再生回数を稼げばいいという人たちが大量発生していった。そこで選挙でも、極端な振る舞いと言動で再生回数を増やす候補者のエクストリーム化という流れになりました。その行き着いた先が今年の都知事選でのよくわからない候補者たちだったと思います。
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