( 226511 )  2024/10/26 14:48:21  
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 27日投開票の衆院選では、各党とも現在40代半ばから50代半ばとなった「就職氷河期世代」を含む現役世代への支援を公約でうたう。働き盛りの年代にもかかわらず多くの困難を抱え、正規の職に就けなかったり、家庭を持ち得なかったりした世代だ。「自分以上に若者が苦しむ社会であってほしくない」。北信地方に住む当事者の介護職男性(46)は、やるせなさを抱きつつ、せめてもの希望を見いだせないかと論戦を見つめる。 

 

【写真】スマートフォンで求人情報サイトをチェックする男性 

 

 衆院選の公示が間近に迫った13日、男性は自家用車の運転席でスマートフォンの画面を目で追っていた。「65歳以下」「経験者歓迎」。自分の条件に当てはまる求人はある。「でも今更…」。正社員など条件のいい介護職を探して数カ月。転職を続けてきた経歴に自信を失い、恥ずかしさを消せない自分がいた。 

 

 北信地方の高校を卒業後、県外の介護福祉の専門学校に進み、訪問介護員(ホームヘルパー)の資格を取得した。お年寄りからの温かい言葉に介護職のやりがいを感じていたが、卒業後に待っていたのは厳しい現実だった。 

 

 バブルが弾け、日本が長い不況の中を進んだ時代。社会に出た途端に未曽有の就職難に直面した自分たちに付いた呼び名は「就職氷河期世代」だった。介護業界を中心に始めた就職活動は一向に結果が出なかった。実家に戻り、引っ越しやごみ収集のアルバイトで食いつないだ。 

 

 22歳の時、親戚の紹介で県内の病院に介護士として正規採用が決まった。月の手取りは16万円。まとまった給料に喜びを感じたのもつかの間、賃金はいつまでたっても上がらない。「再就職は簡単ではない」と踏ん張ったが、職場の人間関係の悩みもあり、9年勤めて退職した。 

 

 男性が30代を迎えていた2008年、日本はリーマン・ショックに伴う不況に直面。正規採用の就職先は再び先細った。国は1999年の労働者派遣法改正で、一部職種に限定していた派遣労働を原則自由化。2004年には製造業でも解禁された。20年には新型コロナウイルスの感染拡大で非正規雇用を中心に失業者が増加。追い打ちをかけるようにさまざまな商品で物価が上がった。 

 

 

 不況のたびに悪化する雇用環境。「6回かな。片手じゃ足りない」。男性は両手の指を折り、これまでの転職回数を振り返った。スキル向上を目指して学び直すような時間も資金もない。年齢を重ねる中、人手不足でも低賃金が指摘される介護職を中心に転職を繰り返した。 

 

 走ることが好きだが、傷みが目立つランニングシューズの買い替えは我慢している。数年前、結婚を意識した女性からは転職を繰り返す自分の姿に抵抗感を持たれた。別れを選び、今も実家で両親と暮らす。婚活サイトに登録する気力さえなくなった。 

 

 社会人らが仕事で求められる能力を磨くために学び直す「リカレント教育」や新しい知識を得る「リスキリング」の推進、社会保障制度の見直しによる若年世代の負担軽減、同一労働同一賃金の徹底、望まない非正規労働の正規化―。各党は衆院選の公約で、氷河期世代を含む現役世代についてさまざまな支援策を掲げる。だが、氷河期世代を巡る問題が指摘されるようになって30年ほどたつ。男性から見ると「今となっては遅すぎる」と感じる政策もある。 

 

 非正規の訪問介護職に転職して1年が過ぎた男性の今の月収は、夜勤手当を含めて18万円。ガソリン代の負担が重い。そうした中、国は4月から訪問介護の基本報酬を引き下げた。将来、両親の介護に追われ、働けなくなると想像すると胸が詰まる。 

 

 賃上げを期待しながら働き続けて20年。「自己責任」が叫ばれた時代を生き、変わらない現状に「自分の努力不足」と負い目を感じてきた。だが、政治の力を「信じるしかない」。衆院選では1票に願いを託すつもりでいる。 

 

 厚生労働省によると、就職氷河期世代はバブル崩壊後の1993年以降、2000年代までに新卒で就職活動をした世代を指す。派遣労働の規制緩和も進み、この世代を中心に望まない非正規雇用となる労働者が全国で増加。新型コロナ下では「雇用の調整弁」とされ、厚労省は23年末までに全国6万4700人余の非正規労働者が解雇されたとみる。同年の非正規労働者数は2124万人に上った。 

 

 

 若者の就労支援を続ける上田市の認定NPO法人「侍学園スクオーラ・今人(いまじん)」のスタッフ藤井雄一郎さんによると、最初の就職につまずいた結果、キャリアアップの機会を奪われ続ける氷河期世代の労働者は多いという。非正規職を転々とすることで資格取得などの機会を持てず、再就職の壁にぶつかり続ける事例も少なくない。 

 

 一方、不登校などを背景に教育、就労の場から取りこぼされる新たな層も増えている。「大学を卒業し、正社員として働き続ける『普通』のライフコースを歩める人は、今は少数派の印象」と藤井さん。絶対的な貧困層だけでなく、中間層の労働者のさまざまな困難に光を当てるような丁寧な政策議論を求めている。 

 

 

 
 

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