( 226981 ) 2024/10/27 16:25:12 0 00 地上波放送の縮小の流れが見られる女子プロゴルフ(山下美夢有/時事通信フォト)
動画配信サービスの参入で、地上波テレビでのスポーツ中継がどんどん消滅している。1つのビッグマッチが有料配信のコンテンツとして強みを発揮する格闘技から始まった動きは、長いシーズンを楽しむ他のスポーツまで波及している。地上波テレビから「スポーツ中継が消える日」がやってくるのだろうか。
【比較表】「ズボンのシミ」にもこだわる!? 地上波と配信の制作過程の違い
10月13~14日、東京・有明アリーナで国内史上最大級のボクシング興行が開催された。7つの世界タイトル戦と那須川天心のアジア・パシフィック王座決定戦の8大タイトル戦が行なわれ、アマゾンプライムビデオが独占ライブ中継した。アマゾンプライムビデオは5月6日にも、東京ドームでの4階級制覇王者の井上尚弥と元世界2階級制覇王者のルイス・ネリ(メキシコ)による4団体統一世界スーパーバンタム級タイトルマッチを配信。ボクシングの世界戦は地上波テレビから動画配信サービスへ完全に移行している。在京テレビ局制作関係者が言う。
「世界戦などのビッグファイトは有料コンテンツに料金を支払う形式が莫大な利益を生むようになった。売上の10%を番組制作のテレビ局、40~50%をプロバイダーのケーブルネットワーク企業が取り、残りにチケット収入や海外放映権料が加えられたものから会場設備費などの経費を差し引いて、残りをメーンイベントに関わったもので分配する。ファイトマネーもここから分配されるが、無料放送のテレビの制作費からではなかなか捻出が難しくなっている。
那須川天心が武尊に勝利した世紀の一戦(2022年6月)では5万人を集めて入場料が20億円、生配信したABEMAの契約件数が50万件(5500円)で27.5億円を売り上げている。この時の両者のファイトマネーが5億円とされます」
Jリーグも地上波テレビから中継が消えつつある。2017年からJリーグはDAZNと10年間で約2100億円(コロナ禍による一時中断より12年間で約2239億円に修正)の放映権契約を締結し、J1、J2、J3のリーグ戦を全試合で中継してきた。スポーツ紙デスクが言う。
「昨年3月に2023年から2033年までの11年間を約2395億円でDAZNと新たな契約を結んでいる。Jリーグの地上波での全国ネットはNHKだけ。あとは全国のローカル局が試合を中継している。
これまでドル箱といわれた日本代表戦は地上波で放送されてきたが、視聴率の低下に伴って前回のカタールW杯の最終予選からは地上波放送はホームのみとなり、アウェーはDAZNの独占放送になった。このまま代表戦まで有料コンテンツになる流れが加速すれば、“Jリーグは見ないが日本代表戦だけは見る”というライト層を切り捨てるかたちになり、サッカー人気の低迷につながると危機感を持つJFA(日本サッカー協会)関係者もいるようです」
同様に地上波放送の縮小の流れが見られるが女子プロゴルフだ。2022年から放映権がJLPGA(日本女子プロゴルフ協会)に帰属することになり、年間37試合のうち、日本女子オープンとTOTOジャパンクラシックを除く35試合の予選から決勝までがJLPGA公認の有料インターネット(DAZN、U-NEXT)で生配信されている。ゴルフ担当記者が言う。
「2023年シーズンから放送局は放映権料を支払うことになった。地上波は全国ネット20局以下なら1000万円、20局以上なら1500万円、BSは1200万円、CSは200万円といった具合。地上波とBSやCSとの組み合わせならBSとCSは半額になる仕組みです。
他のスポーツ中継と比べて常識的な額だが、地上波での露出は縮小傾向になっている。有料ネット中継だけで十分と判断する主催者もいるし、地上波をやらずに放映権料が安いBSやCSだけになる試合もある。これまであったような、土日の午後になんとなくテレビを観ていて女子ゴルフの試合が流れている、といったパターンはなくなり、宮里藍らが活躍していた頃のような国民的知名度のあるスターが出てきにくくなっている」
2024年は35試合のうち、地上波での全国中継がない試合が5試合あり、テレビ東京系(6局ネット)も6試合。計11試合が地上波の全国ネットでは観られない。日曜日に録画で最終日だけ放送されるのが12試合。従来通りに土日に地上波で全国ネットとして放送するのは12試合だけとなった。
国技の大相撲は、2か月に一度ある本場所の15日間を長くNHKが独占中継してきた。それが2018年1月場所からはABEMAが序ノ口からの全取組をネットで無料生中継している。NHKが中高年のコアな相撲ファンをターゲットにしているのに対し、ABEMAは若年層や初心者の取り込みを狙っているという。相撲担当記者が言う。
「ABEMAは場所ごとに視聴者数が増え、とくに10代は1.5倍、10代も含めた34歳までの若年層は2倍に伸長した。女性も前年比2倍増で、男女を問わず幅広い年代のファンに広がっている。現在は国内での視聴に限られているが、インターネット配信の強みは世界展開が視野に入れやすいこと。いずれは幕内力士を輩出するモンゴルや欧州、南米など世界中にビジネスを拡大していく狙いがあるといいます」
スポーツ中継は、「地上波とネット配信の棲み分け」となるのか、「地上波から消えていく」ことになるのか、時代の転換期を迎えていることはたしかだ。
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