( 227516 )  2024/10/28 18:02:30  
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「青春18きっぷ」の仕様が今冬から大きく変わる(筆者撮影) 

 

 この冬発売の「青春18きっぷ」(以下「18きっぷ」)からルールが大幅に改定される。3日間連続利用と5日間連続利用の2種となった。これまでのように、利用期間内の任意の5日間ということではなくなり、複数人数での利用もできなくなった。 

 

【写真】例えば、ヨーロッパでは任意の日程で使えるパスもQRコード対応なので問題が起こらない 

 

■改定の理由は自動改札対応?  

 

 かなり使い勝手が悪くなったというか、18きっぷは若者から熟年層、ひとり旅からグループ旅行にと幅広い層に使われていただけに、その多くが利用できなくなったのではないかと感じる。 

 

 唯一利便性が向上したといっていいのが、自動改札を利用できるようになることであろう。目視で日付印を押さなければならない18きっぷは手間がかかっていたので、自動改札対応を最大の目標に改訂が行われたことは容易に想像できる。おそらく、自動改札に対応させるためには、1人で利用、発券時に利用日を決める必要があり、そうなると連続した日程で、1人利用しか対応できなかったということなのではないか。 

 

 18きっぷのメリットは、決して価格やJR全線普通列車乗り放題といった単純なルールだけではなく、1人で5日、5人で日帰り、2人で1泊2日+1人で日帰りなど「融通の利くルール」だったことだ。私の周りにも18きっぷ愛用者は多いものの、1人で5日間連続利用する人というのはまず見当たらない。「1人じゃ使い切れないから2日分を使ってほしい」として友人とシェアするといったやり取りが多くあった。 

 

 遡れば、1996年までの18きっぷは購入した時点で1日券が5枚といった形態であったが、その頃は発売と同時に金券屋でバラ売りされていた。利用者としては1日単位で購入でき便利であったが、JRとしては金券屋でのバラ売りは面白くなかったらしく、1枚の切符に5回分の日付印を押すタイプに改められた。それが、とうとう1人で連続利用しかできなくなったわけで、「融通の利くルール」には程遠い存在になってしまった。 

 

 現在では、「18きっぷ」は若者が鉄道の旅に馴染める唯一の存在でもあった。おそらく高校や大学のサークル活動などの旅行計画の作成もかなり難しくなるであろうし、自転車を鉄道に載せての旅行などは、鉄道利用と自転車移動の組み合わせなので、プランニングは難しくなったであろう。社会人にとっても、週末だけの利用を何回かに分けるなど、休暇を取らずに楽しめる気軽さから人気があったのである。 

 

 

■変わらないネーミングで混乱は起きないか 

 

 これらのことは、JR各社も熟慮の決定であろうから、18きっぷの売り上げが減るのは覚悟しているに違いない。 

 

 むしろ、今回のルール改定の最大の問題点は、ネーミングが変わっていない点ではないか。これほどに利用方法が変わったにもかかわらず、相変わらず「青春18きっぷ」を名乗っているが、筆者は新しい18きっぷはもはや「青春18きっぷ」ではないと感じる。先日まで発売されていた「秋の乗り放題パス」と内容が似ているので、「冬の乗り放題きっぷ」「春の乗り放題きっぷ」などとしたほうが、よほどすっきりする。 

 

 多くの利用者の間では、18きっぷは期間内に任意の5日間、複数人数でも可能ということが浸透しているので、同じネーミングでまったくルールの異なる切符を発売することで混乱を招くのではないか。知名度のある商品だっただけに新しいルールが浸透するのに時間を要すると感じる。 

 

 ちなみに券売機で購入する場合、従来でも利用開始日を押す必要があった(押してもその日に利用するという意味ではなかった)。ところが次回からは利用日を決めてからしか購入できなくなったので、「とりあえず買っておく」ということもできなくなった。 

 

 筆者はかつて旅行会社で海外格安航空券や海外の宿泊を手配していた経験があり、ヨーロッパ旅行では「ユーレイルパス」(各国別のもの含めて)も扱っていた。当初「ユーレイルパス」は連続する15日間、21日間有効などであったが、移動日と観光の日のメリハリが付けにくいことから、「1カ月の間の任意の5日間」などという「ユーレイルフレキシーパス」というタイプが主流となった。これは世界の多くの地域での流れである。 

 

 それを踏まえると、今回の18きっぷのルール改定は、時代の流れに逆行している。日本各地の観光振興にプラスになるとは思えないし、観光業関連の人たちにも歓迎されないであろう。 

 

 

 では、ヨーロッパではこの「任意の5日間」といったルールの切符をどうやってうまく機能させているのだろう。かつては紙の切符を駅員や車掌が目視して確認していたが、現在はスマートホン上のアプリに表示されるQRコードを自動改札機や車掌が携帯するスマートホンで読み込んで、有効な切符かどうかをチェックしている。 

 

■モバイル版で従来の18きっぷを復活させてはどうか 

 

 筆者は、海外の鉄道を紹介するたびに、日本のIT化の遅れを指摘しているが、今回のルール改定にあたって海外の事例を参考にすることなどは行ったのだろうか。日本の鉄道は安全性、時間に正確な運行、利用者のマナーのよさなどから、世界一の自負があるのであろうが、旅客サービス面では世界に後れを取ってしまった。 

 

 いずれ日本でも、長距離切符はアプリからの購入が主流になるであろう。海外に負けないためにも「青春18きっぷモバイル版」などとして、任意の5日間で利用できる切符の復活を期待したいし、そのほうが日本全体の観光振興にも役立つはずである。物価高や円安などから海外旅行が低迷している時期に、国内旅行にまでマイナスのニュースで途方に暮れる人が続出しないことを願うばかりである。 

 

谷川 一巳 :交通ライター 

 

 

 
 

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