( 227856 ) 2024/10/29 17:38:36 0 00 Photo by iStock
経営者の高齢化や事業承継問題……日本の多くの企業が直面している深刻な問題だ。倒産や廃業の直接的な原因となることも珍しくない。
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そうした問題の現実的な解決策として、「M&A(企業の合併・買収)」が注目されている。「敵対的買収」のイメージもつきまとうM&Aが、なぜ中小企業の「希望の光」になるのか。M&Aクラウド代表取締役CEO・及川厚博氏にくわしく話を聞いた。
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「特に地方では後継者問題が深刻で、事業承継ができずに廃業するリスクが増えています。M&Aは、企業存続と雇用を守るための現実的な解決策です」
株式会社M&Aクラウドの代表取締役CEO・及川厚博氏はこのように語る。日本企業では、経営者の高齢化や事業承継の問題が年々深刻化している。M&A(企業の合併・買収)はこれまで、大企業が成長するための手段として認識されていたが、今では中小企業にとっても考慮すべき選択肢となった。特に中小企業における後継者不足は深刻で、M&Aは事業拡大に限らず、企業を存続させるための方法として重要性を増している。
中小企業庁が発表した「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題(2019年)」によると、2025年までに70歳以上となる中小企業・小規模事業者は約245万人に達し、そのうち約半数の127万人が後継者未定という深刻な状況だ。さらに、帝国データバンクが2023年に行った調査によれば、全国の後継者不在率は53.9%となっており、依然として半数以上の企業が後継者問題に直面している。
この問題が日本経済全体に与える影響は非常に大きい。中小企業・小規模事業者の廃業がこのまま急増した場合、2025年までの累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性が指摘されているのだ。M&Aが企業存続の「最後の手段」として注目される中、対策が遅れると、あなたの会社も次の「廃業」リストに載ってしまうかもしれない。刻一刻と時間は迫っている。
写真:講談社
M&Aクラウドは、企業の合併や買収を効率的に進めるために開発されたプラットフォームだ。後継者不足に悩む企業と、成長戦略としてM&Aを活用したい企業を直接結びつけ、実際の取引を円滑に進める役割を担っている。
ユニークな点は、従来のM&A仲介業者を介さず、直接、売り手企業と買い手企業がマッチングできるシステムを提供していることだ。これにより、スムーズな交渉が可能となるだけでなく、企業の選択肢も大きく広がった。
後継者不在により経営継続が難しくなる地方の製造業やサービス業が、M&Aを通じて新たなオーナーのもとで再生するケースが増えている。
たとえば、ある地方の自動車部品製造業者は、長年地域に根ざした技術と顧客基盤を持ちながらも後継者不足により廃業の危機に直面していたが、M&Aクラウドを通じて都市部の成長企業とマッチング。事業を再編成して存続に成功した。この事例は、M&Aが企業の経営課題を解決し、新たな成長の道を切り開いた一例だ。
また、及川氏は「M&Aは単なる事業承継を超えて、企業が大きく成長するための強力なツールです。 他にもスタートアップが大手企業と提携することで、リソースを効率的に活用し、市場の拡大を図ることが可能になります」と説明している。
事実、M&Aクラウドは、スタートアップ企業の成長戦略としても活用されている。スタートアップ企業は、特に技術革新や市場開拓に強みを持っているが、資金調達やリソースの確保が課題となることが多い。このような企業に対して、M&Aによって大手企業にグループジョインし事業規模を拡大する道を提供することも、同社が担う役割の一つだ。
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M&Aを行う目的として、技術力を強化し、市場シェアを拡大するために他社を買収するケースも増えている。海外の事例としては、ニューヨーク・タイムズが挙げられる。デジタルメディア企業を次々に買収し、収益源を多様化させることに成功した。こうした動きは、事業の安定性を強化する戦略の一環だ。
先述したように、M&Aは若手経営者にとっても事業拡大の強力な武器となる。BNPL(後払い)サービスを提供するスタートアップ企業Paidyは、さらなる成長を目指して米国の大手決済企業PayPalにグループジョインした。この事例は、M&Aが単に事業承継だけでなく、企業の飛躍的成長を実現する手段でもあることの証明となる。
国内でも、政府が推進する「新しい資本主義」の中で、スタートアップ育成策は重要な柱となっている。政府は2022年、「スタートアップ育成5カ年計画」を策定。年間8000億円規模のスタートアップ投資を2027年度までに10兆円に引き上げるという野心的な目標を掲げた。
政策の背景には、欧米諸国に比べて日本がユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)の数で大きく遅れを取っている現実がある。この課題を克服するため、政府はユニコーン企業を現在の6社から100社に、スタートアップ企業を1万社から10万社に増やすことを目指している。日本の「第2創業期」を実現する上で、M&Aはその鍵を握る存在となるだろう。
及川氏は、企業統合が日本経済にとっても重要であると強調している。
「企業数の減少は、むしろ国際競争力を高めるために必要なことです。企業が合併し規模を拡大することで、効率化が進み、利益率や従業員の給与増加にもつながります。これは地方の企業にとっても同様で、地方の人材確保や後継者不足が、今後さらに統合を加速させる要因となるでしょう」
山科 拓郎
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