( 228061 )  2024/10/30 02:44:59  
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建設工事が進む夢洲(ゆめしま)の万博会場予定地(右)と、隣接するIR予定地(左)=10月11日、大阪市此花区(本社ヘリから、彦野公太朗撮影) 

 

令和7年4月13日の大阪・関西万博開幕まで半年を切り、人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)の会場整備が急ピッチで進む。海外政府が手がける独自の「タイプA」パビリオン建設には一定のめどが立ったとされるが、内装工事をめぐる新たな混乱なども予想され、油断できない状況が続く。示された完成期日などを各国政府が重視していないとの声もあり、日本国際博覧会協会は混乱を抑える一層の取り組みが求められる。 

 

【表でみる】海外パビリオン建設をめぐる主な課題と、万博協会が示す「タイプA」建設スケジュール 

 

「開幕に間に合わない国はない。会場準備は正念場を迎える。関係者らとしっかり連携していきたい」 

 

10月11日、万博会場に設置された大屋根(リング)の上で、高科淳副事務総長は報道陣にそう強調した。 

 

ただ、会場のタイプAパビリオンは依然、多くが鉄骨などが見えたままだった。24日現在、47カ国中1カ国は建設事業者が決まらず、着工もできていない。日本企業などによる民間パビリオンはいくつか完成し、引き渡しなどの華やかなイベントが相次いで行われているのとは対照的だ。 

 

「建設が遅れても出展国を罰する規制がない。これでは期限を守る国などないだろう」。万博会場の整備に詳しい関係者は、現在の海外パビリオン工事をめぐる問題点をこう指摘する。 

 

万博協会は2月、タイプAパビリオンの工事計画の目安として、重機を用いた外装工事を「遅くとも10月中旬」、内装工事を「遅くとも令和7年1月中旬」に終えるよう求めた。協会によれば、この要請は「現在も取り下げていない」(幹部)という。 

 

ただ、ある海外政府関係者によると、「各国とも、協会の要請は『一応』のめどとしか考えていない」。ある建設業界関係者は「一部の国は外装、内装と(完成時期を)分けず、ただ(漠然と)『2、3月に完成させる』とだけしている」という。 

 

この業界関係者は「開幕が近づけば、時間に焦って必要な許可も取らずに工事を行う国も出てくるだろう」との懸念も示す。 

 

また、外装が完了しても、懸念がなくなるわけではない。その後も続く内装や展示の工事の逼迫(ひっぱく)が懸念されるからだ。 

 

 

「もう無理だと、何度も思った」 

 

パビリオンの庭園などの整備に関わる土木企業関係者は、海外政府から短期間で大量の植栽用の樹木を手配するよう求められ、事業からの撤退も検討せざるを得なかったと明らかにした。 

 

この企業が関わるのは、比較的準備が早いとされる国のパビリオン。関係者は「この国より遅れている海外パビリオンに携わっている企業はどうなるのだろうか」と懸念する。 

 

また、建設業界は、今年4月から残業規制が強化された「2024年問題」もある。業界関係者の間では、作業員らの不足が、今後開幕に向けて工事をおし進めるうえでのハードルになると予想されている。 

 

万博運営に詳しい専門家は「内装工事なら、大阪・関西の中小企業でも手伝える企業が少なくないかもしれない。協会はそのような企業と各国をつなぐ仲介役をしっかり果たすべきだ」と指摘。工事が遅れている国に対しては「日本政府ともさらに協力し、スピードアップを働きかけていくべきだ」と話した。(黒川信雄) 

 

■ソフト面でも万全の準備を 近畿大・高橋一夫教授 

 

2025年大阪・関西万博の準備をめぐっては、特に海外パビリオンの工事が遅れていることが批判されている。開幕日などは各国との約束であり、日本の国際的な信用を守るためにも日本国際博覧会協会は各国としっかりと連携し、開幕に間に合うよう準備を進めるべきだ。 

 

一方で、施設などのハード面だけでなく、完成後の内装や展示物といったソフト面の準備の進捗(しんちょく)にも気を配る必要がある。海外からも多くの来場者が想定されており、誰もが楽しんだり理解できたりする十分な多言語対応が求められる。 

 

万博のような長期間の大規模イベントでは、来場者の要望を受けて修正が行われ、会期後半に向けてソフト面の質が上がっていく。ただ、序盤に訪れた人もある程度はスムーズに楽しめるものでなければ、不満を残すことになりかねない。 

 

各パビリオンで流される映像などでも、内容について深く知ってもらうには多言語での説明が欠かせない。多様性への理解をテーマにしている万博だけに、ハードだけでなくソフトも含めた万全の準備を期待したい。(聞き手 井上浩平) 

 

 

■IR工事は早めに難題クリアし進捗 

 

時間との戦いが続く万博の海外パビリオン整備と対照的に、万博会場予定地に隣接したエリアで建設が計画されるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)は、早い段階から浮上した障害をクリアし、建設準備が進められている。 

 

IRをめぐっては6月、訪日した博覧会国際事務局(BIE)幹部が万博期間中にIR工事が実施される事実を知り、工事中断を求めたことが明らかになった。万博会場の周辺道路の渋滞や騒音、粉塵(ふんじん)などの影響が及ぶと危ぶんだためだ。 

 

万博期間中の工事を中断すれば「完成時期が1年以上遅れ、数百億円の損失が出る」(関係者)という危機が突如浮上。しかし、政府が調整に介入し、オリックスや米MGMリゾーツ・インターナショナルの日本法人などが出資する運営会社「大阪IR株式会社」の対応も早かった。 

 

主要な工事のピークを万博閉幕後にずらしたり、騒音が出にくい建機を使ったりといった対応策をまとめ、BIEなどとも調整した上で9月10日に発表。IR工事に厳しい意見を表明していたBIEのケルケンツェス事務局長も「万博の運営に否定的な影響を与えないようにする施策が打ち出されたことを歓迎する」とコメントを出した。 

 

さらにIR事業者は、令和8年9月まで行使が可能だった、違約金なしで契約を解除できる権利も放棄した。 

 

関係者は「多数の海外政府が絡む万博のパビリオン整備と比べ、IRの運営事業者は1社。物事の決定のスピードがまったく違う」と説明する。IRは万博期間中の工事継続という難題をクリアし、令和12年秋の開業目標の実現がほぼ確実になりつつある。 

 

 

 
 

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