( 228221 )  2024/10/30 16:49:47  
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GUは2024年9月に満を持して、ニューヨークのソーホーに出店した(画像:ゲッティイメージズ) 

 

小売業界に、デジタル・トランスフォーメーションの波が訪れている。本連載では、シリコンバレー在住の石角友愛(パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナー)が、米国のリテール業界の最前線の紹介を通し、時代の変化を先読みする。 

 

【画像】30~40ドルのGUのセーター、70ドル以上のユニクロのセーター、ジェンダーレスなデザインの服など(計8枚) 

 

 こんにちは。パロアルトインサイトCEOの石角友愛です。今回は、GUの米国進出の戦略について紹介します。これまで、GUは米国で挑戦し続けてきたものの、歩みは遅い印象でした。 

 

 GUは2022年秋、同社としては初めてニューヨークのソーホーでポップアップストアを展開しましたが、その後大きな動きはありませんでした。それが2024年9月19日、ついに同エリアのメインストリートに専門店をオープンし話題になっているのです。ファッションプレスでは、開店前の午前9時の時点で150人が行列を作っていたと報じられています。 

 

 幸先の良さそうに見えるGUですが、アパレルというレッドオーシャンで地位を築くのはそう甘くないでしょう。今回の記事では、GUの米国進出における差別化戦略や、市場開拓とブランド浸透のために越えなければいけない壁について考察したいと思います。 

 

 まず、GUは米国で評価されるためにどのようなポイントを抑えているのでしょうか。GUは米国市場で若年層、中でもZ世代をターゲットに事業拡大を図っていると言われおり、以下のような特徴を持っています。 

 

 

1. 価格の安さ 

2. ファッショントレンドを意識したデザイン 

3. ジェンダーレスデザイン 

4. 厳選された品ぞろえ 

 

 まず、価格帯としては、ユニクロやH&M、Zara、GAPなどより安く、SHEINやTemuほどのウルトラファストファッションよりは高いという中間の価格帯を狙っています。例えば、これからの時期に欠かせないセーターは、GUでは30~40ドルほどで販売されています。 

 

 それに比べるとユニクロでは、カシミヤなど質にこだわったセーター類が70ドル以上で売られています。 

 

 また、GUではサイズやカラーバリエーションが豊富でファッショントレンドを意識した 「ジェンダーレスアイテム」を豊富に展開しています。ジェンダーレスデザインの特徴として、セクシュアリティ、性別、性自認、年齢に関係なく、誰にでもフィットするようにデザインされている点が挙げられます。 

 

 実際、米国のGU店舗に足を運んだ、ファッション系のWebサイト「FASHIONISTA」の編集者は記事内で「モデルやマネキンが着ている服装は、若くトレンディなものが多く、厳密には男性用と女性用のセクションが分かれているが、女性のマネキンが男性用の服を着ていたり、その逆もあったりして、性別に関係なく両方の服を選べるようになっている」と述べています。店舗内のデザインにもジェンダーレスが反映されていると言えるでしょう。 

 

 実は、世界全体でこのようなジェンダーレスファッションに対する需要が高まっています。  

 

 Fashion Law Journalの記事によると、ジェンダーニュートラルな衣料品市場は、2021年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)6.5%で成長すると予測されています。 

 

 また、米国の調査会社・Statista社の調査によると、米国では36%の消費者が自身のジェンダーアイデンティティ外の衣料品を購入した経験があり、スウェーデンでは33%、英国でも31%の消費者が同様の購買行動を示しているといいます。 

 

 世代別の傾向としては、Z世代を中心にジェンダーニュートラルファッションへの関心が高まっており、グローバルではZ世代のオンラインショッパーの約50%が自身のジェンダーアイデンティティ外の衣料品を購入していることが分かりました。約70%の消費者が将来的にジェンダーニュートラルなファッションアイテムを購入することに関心を示していることも明らかになっています。 

 

 GUはこうした流れを受け、ジェンダーレスファッションを積極的に取り入れることで多様性と包括性を促進してZ世代へのリーチを拡大するほか、姉妹ブランドであるユニクロとの差別化を図り、よりトレンドにフォーカスし、若い消費者にアピールする戦略を取っていることが分かります。 

 

 

 このように、アジアとは異なる戦略で米国のZ世代へのリーチ拡大を狙うGUですが、品ぞろえという点では他のファストファッションに見劣りしている部分があるかもしれません。 

 

 例えば、GUの公式Webサイトでダウンジャケットのカテゴリをクリックすると(HEAT PADDED & Pufferのタグ)、アイテムは1つしか表示されません(All Outwearだと複数のダウンジャケットが表示されるため、ウェブサイト内の商品検索性の問題もあるかもしれません)。 

 

 一方、SHEINの公式Webサイトで同じカテゴリを検索してみると、5ページにもわたってさまざまなデザインのダウンジャケットの商品が表示されました。 

 

 GUのように品ぞろえが厳選されていることは在庫管理やサプライチェーンの円滑運営という意味では強みとも言えますが、SHEINなどのファストファッションと比較するとやや物足りない印象があります。 

 

 これは、Webサイトの機能拡充という点にもつながります。ファストファッションとの差別化を図ることは大事ですが、Webサイト上でユーザーの滞在時間を長くするためには多くの関連商品を見せたり、ユーザーレビューや商品を着たモデルや一般ユーザーのビデオなどを表示させたりする機能が大事になってきます。 

 

 例えば、著名インフルエンサーが始めたカジュアルブランドのPOPFLEXでは、商品開発の過程や、いろいろなボディサイズのモデルが商品を着たショート動画を商品ページに表示しています。商品のアピールポイントも文章より動画の方が伝わりやすいため、このような施策はとても効果的です。 

 

 さらに、認知をいかに広げるかかという課題も存在します。姉妹ブランドのユニクロと異なり、GUは米国市場では比較的無名です。H&M、Zara、FOREVER 21のような既存の有名ファストファッションブランドや、SHEIN、Temuといった新興のデジタル大手がひしめくレッドオーシャンに参入することになるため、ブランドの認知を確立し、ユニクロとの差別化を図るという点でGUの前に高い壁が存在することは間違いありません。  

 

 実際、業界の専門家によれば、米国でブランドの認知度を高めるのは「少し苦しい戦い」になる可能性があるといいます。Z世代はTikTokのようなSNSを参考にして買うものを選ぶ傾向があるため、この層へのリーチとエンゲージメントを成功させるには、特にデジタルの領域で効果的なマーケティング戦略が必要とされるためです。 

 

 米国ではコロナ以降、運動がしやすくカジュアルで、かつファッショナブルな新しいカテゴリであるアスレジャーカテゴリが伸びています。例えば、アスレジャーカテゴリの代表ブランドであるルルレモンでは、パーカーが1着130ドルほどします。 

 

 今まではカジュアルファッション=低価格だったものが、アスレジャーのファッショナブルな要素を取り入れるだけで、2~3倍の価格帯になる可能性もあるのです。このところ、インフレが止まらない米国では低価格で質の高いアパレル商品が買える機会は減ってきました。その中で、GUが日本発の高品質なアパレル商品を比較的低価格で米国の消費者に提供できるとしたら、そこにはマーケットのチャンスがあるかもしれません。 

 

 

パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー 

2010年にハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した後、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。 

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。 

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。 

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。 

 

ITmedia ビジネスオンライン 

 

 

 
 

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