( 228271 )  2024/10/30 17:34:38  
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ワタミが買収することを発表したサブウェイの店舗(写真:編集部撮影) 

 

 ワタミがサンドイッチチェーン世界大手サブウェイの国内運営を行う日本サブウェイを買収し子会社化し、フランチャイズ展開を行っていくと発表した。 

 

【写真】サブウェイのオーダーの仕方は複雑? 

 

 今後、商業施設や駅前を中心に展開し、まずは10年で250店舗の出店を計画。将来的には3000店舗の展開を目指し、最大手マクドナルドに対抗できる存在になることを目指す。 

 

 今回の買収は、ワタミとサブウェイにとって、それぞれ大きなメリットがある。その理由を3つの視点に分けて解説したい。 

 

■サブウェイの「アキレス腱」 

 

 1.ターゲット層の拡大 

 

 もともとサブウェイは、1991年にサントリーがフランチャイズ展開の権利を持ち、国内の店舗展開を行ってきた。ピーク時の2014年には、約480まで店舗数を伸ばしたが、その後店舗が激減。アメリカの本社や投資ファンドに経営権が移ったりしたものの、最近では既存店の売り上げが48カ月連続で増加するとともに、店舗数も178店舗まで伸びるなど盛り返しを見せていた。 

 

 しかし、サブウェイは100以上の国や地域で、約3万7000店舗を展開するチェーンだ。世界第4位の経済規模を誇る日本で178店舗の展開だと物足りなさがある。さらに店舗数を加速させていくにはまず客層に広がりが出ないと、その実現は難しいだろう。 

 

 実際、これまでサブウェイは20、30代をターゲットに定め、その層に刺さるブランディングを行ってきた。Xを活用したデジタル戦略などは、その最たる例だろう。熱狂的なファンを獲得することで業績を回復させることはできたものの、ターゲットの狭さがさらなる拡大のネックとなっていた。 

 

 一方で、ワタミが展開するブランドは40代以上の層に強い。そもそも居酒屋の「和民」が1992年に誕生してから40年以上。「居酒屋新御三家」と呼ばれ、興盛を極めた2000年代前半に、和民を利用していた大学生たちも30代以上になっている。業界売上高シェア1位を誇る宅食もターゲットは高齢者であり、サブウェイとは大きく客層が異なる。 

 

 今後、ワタミが展開する事業からサブウェイに、どのように送客するかの具体的な施策も出てくるだろう。和民を利用した人へのサブウェイのクーポンの配布や、ブランドを横断したメニューの提案など、さまざまな方法が考えられるが、これまでアプローチが難しかった層にリーチできるだけでも相乗効果は大きい。 

 

 

 そもそも限られたターゲットの中でも、サブウェイが178を超えるまで店舗を拡大できたのはすごいことである。ファストフードチェーンの中でも「ロッテリア」「バーガーキング」に次いで6位につけるなど、その存在感も大きい。ワタミの子会社になったことで、一気に上のチェーン店を抜き去る可能性も十分にある。 

 

■「オーダーの難しさ」をどうするか 

 

 2.デジタルツールの活用 

 

 ただ、客層が広がっても、利用し続けてもらえないと、店舗の拡大が難しいのも事実だ。サブウェイの客層が、これまで主に20、30代に限られていたのは、そのオーダーの難しさが1つの要因になっていたといってもいい。 

 

 サブウェイではオーダー時に、パンの種類や野菜、トッピング、ドレッシングなど、選ばないといけないことが多い。その複雑なオーダースタイルから、何をどのような基準で選んでいいのか分からずに戸惑ってしまうお客の姿も目立つ。 

 

 そうした点をサブウェイも課題に感じていて、近年ではアプリによる事前オーダーや、セルフオーダーシステムの導入した新しい時代にあった店づくりを、「フレッシュ・フォワード」というコンセプトで進めているが、まだ全店舗の10%にも満たない。実際、SNS上では、もっと導入を進めてほしいという声は大きい。 

 

 もっとも、セルフオーダーシステムなどは導入して終わりのサービスではない。お客がよりオーダーしやすいように改善を重ね、現場で使ってもらえるようにしないと意味がない。 

 

 ワタミは「から揚げの天才」や「bb.qオリーブチキンカフェ」でキオスク端末のセルフオーダーシステムを導入している。また、和民や「焼肉の和民」などではテーブルオーダーシステムを活用するなど、多様な業態でデジタルツールを導入し、そのノウハウを蓄積している。そうした実績がサブウェイの全店舗へのセルフオーダーシステムの導入や改善の後押しとなる可能性もある。 

 

 

■デジタルツールを使いこなせるか 

 

 また、デジタルツールの活用では、店舗のオペレーションにいかに組み込んでいくかという視点も重要だ。オーダーがスムーズになったのに、スタッフの動きが悪くて提供が遅いままでは意味がない。 

 

 その点もワタミは 高いノウハウを持つ。特に同社が展開する「かみむら牧場」は、テーブルオーダーシステムはもちろん、特急レーンや配膳ロボット、順番待ちシステムなどを導入し、スタッフの業務負担を減らしながら、より人がやるべき仕事に集中できる環境を整え、顧客満足度を高めたブランドとして知られている。 

 

 サブウェイでは、オーダー後のスタッフのオペレーションの遅さを指摘する声は多い。だからこそ、限られた人数でオーダーから提供までの時間をいかに短縮するかは重要な経営課題になる。顧客満足度を高めるためにも、その取り組みは必須になるだろう。サブウェイもDXを推進してきたが、ワタミと一緒になることで、その動きが加速することも期待できる。 

 

 3.FLRコスト削減につながる 

 

 店舗のオペレーションにおいてもう1つ重要なのがコストコントロールである。特に、コストの高騰が進み、利益が出づらい経営環境になっている今、その視点は非常に大切だ。 

 

 そこで重要になるのがFLRコストにほかならない。FはFood(原材料費)、LはLabor(人件費)、RはRent(家賃)を指していて、一般的な飲食店の場合、FLRコスト比率は70%が目安だと言われている。 

 

 とはいえ、サブウェイはファストフード業態なので、70%に収めるのが難しい。そもそも立地はある程度いいところに出さざるを得ないので、Rの家賃を抑えるのが難しい。そのため、Fの原材料費と、Lの人件費をうまくコントロールしていく必要がある。 

 

 その実現のためにも、ワタミと一緒になったメリットが発揮されるのではないか。まず原材料費でいうと、ワタミは自社農園のワタミファームを中心に、生産者とも連携しながら有機農業に力を注ぐ。 

 

 昨今野菜の仕入れ価格が高騰する中で、質の高い野菜を安定的に確保できるメリットは大きい。その他の食材についても、両社合わせて500店舗近くの体制になるため、これまでよりもスケールメリットが働き、コストを押し下げる効果を発揮するだろう。 

 

 

■外国人人材を活用しやすくなる?  

 

 もう1つの人件費については、人手不足の問題と切っても切り離せない。現在、外食業界では人が採用できないので、高い時給で募集せざるを得なくなっており、それが人件費の高騰に結びついている。店舗を拡大していく際、適正な人件費の中で、いかに人手を確保していくかは大きな課題になる。 

 

 その点、ワタミは傘下で人材サービス事業も手がけており、特に海外人材の紹介にも、かなりの強みを持つ。もともとサブウェイでは多様な国の人材が活躍しているので、そうしたリソースを活用できるメリットは小さくない。外国人材の確保を人族に進めることができたら、その分、店舗の拡大もスムーズに進むだろう。 

 

 ただ、懸念点がないわけではない。特に企業文化の統合がうなくいかなった場合、これまで述べたようなシナジー効果が発揮されないまま、店舗数が伸びあぐねることも考えられる。 

 

 ワタミは、創業者でもある渡邉美樹氏の強力なリーダーシップで成長を遂げてきた企業だ。同社は理念を大切にしているが、その中心にも「創業の思い」がある。 

 

■サブウェイはボトムアップ型で伸びてきた 

 

 一方で、サブウェイは経営権が変わりながらも成長できたのは、ボトムアップ型の組織だといえるだろう。実際、採用情報サイトの「Brand objectives」には「サブウェイに携わる一人ひとりが「感動を生む」行動を起こし続ける。」という言葉がある通り、それぞれの自主性を重んじた文化が根付く。 

 

 しかし、そもそも日本の居酒屋と、外資のファストフードなので文化は違って当たり前である。3000店舗という大きな目標の達成のためにそれをどう乗り越えいくだろうか。 

 

三輪 大輔 :フードジャーナリスト 

 

 

 
 

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