( 229016 ) 2024/11/01 16:37:20 0 00 Photo:SANKEI
最近、街で見かけることが増えた「やたらと速い自転車」。バイクなのか、電動アシスト自転車なのか? 合法なのか、違法なのか? 普通の人にはよく分からないことだらけでしょう。車道と歩道を縫うように走り去っていくこの乗り物を、警察はもっと取り締まってくれないのでしょうか? モータージャーナリストで安全運転インストラクターの専門家が、「謎の自転車」の正体に迫ります。(モータージャーナリスト/安全運転インストラクター 諸星陽一)
● 「魔改造電チャリ」とは?
最近やたら「速い自転車」を見かけることが多くなってきました。速いといっても自転車競技で使われているようなものではなく、もっとカジュアルな感じの太いタイヤで、結構なスピードで車道と歩道を縫うように走っています。実はこうした二輪車(法的に自転車の定義に収まらないものが多い)は、モーター付きのものがほとんどです。そこで今回は、モーター付二輪車にはどんなものがあるのかを確認しながら、諸々の問題点を指摘していきましょう。
まずは、「電動アシスト自転車」について。自転車はこぎ出す際に最も力が必要ですが、電動アシスト自転車はこぎ出し時に人力の2倍分がアシストされます。2008年に法改正が行われ、現在の電動アシスト自転車はアシスト量が増加しています。時速10キロまではこの2倍分のアシストですが、時速10キロを過ぎると徐々にアシスト量が減り、時速24キロでアシストは終了。その後は人力のみで走ります。この規格を満たしたものは合法です(電動アシスト以外の部分も法規に適合していれば)。
この合法な電動アシスト自転車を改造して、時速24キロ以上もアシストし続けられるようにしたものや、2倍以上のアシストをするものが、「魔改造電チャリ」などと呼ばれる代物です。これらは「違法」ですが、やっかいなのは、最初から時速24キロ以上のアシストをする自転車も販売されていることです。
● なぜ、違法な自転車が売られているのか
なぜ、違法な自転車が売られているのかというと、「販売は違法でない」からです。例えば、旧型のF1マシンも販売されていますが、公道では乗れないのと同じ理屈です。
電動アシスト自転車には速度センサーが装備されています。通常は速度センサーによって時速24キロになったところでアシストが停止しますが、このセンサーが正しく働かないようにすることでアシストが止まらずに続くようにするのが、魔改造のメジャーな方法のようです。
魔改造用のパーツもインターネットで堂々と売られていますし、作業工程についても動画で紹介されています。販売サイトや動画では、「公道使用は禁止されています」などと注意書きしていますが、タテマエに過ぎないと感じます。
続く、モーター付二輪車は、「電動モペッド」と呼ばれるものです。これは定義が少し難しいのですが、電動アシスト自転車がペダルをこがないと前進できないのに対し、電動モペッドはアクセルレバー(加速レバー)を操作することでペダルをこがずに走行できるものです(ペダルを装備していないものも存在します)。
● 合法か違法か、整理すると…?
電動モペッドはさらに2種類に分類できます。一つは「特定小型原動機付自転車」で、もう一つは「原動機付自転車」です。特定小型原動機付自転車は、16歳以上であれば免許不要で乗れるもので、法定速度は時速20キロ(車道上)に制限されています。原動機付自転車は運転免許が必要で、第一種ならば法定速度は30キロ、出力の大きい第二種ならば法定速度は60キロです。
特定小型原動機付自転車であろうと原動機付自転車であろうと、届出し、ナンバープレートを装着し、自賠責保険に加入する必要があります。しかし、ペダル付きのものはナンバープレートを装着していないものを多く見かけます。
また、こがずに走る電動モペッドは免許が必要ですが、免許を取得せずに運転している人も多くいると聞きます。そして、電動モペッドについても魔改造が行われているようです。電動モペッドの魔改造は、特定小型原動機付自転車でありながら時速20キロ以上の速度が出せるように改造されているようです。 ここで一度、整理しておきましょう。
・電動アシスト自転車→合法 ・魔改造電チャリ→違法 ・特定小型原動機付自転車の電動モペッド→合法 ・原動機付自転車の電動モペッド→合法 ・魔改造特定小型原動機付自転車→違法 ・魔改造原動機付自転車の電動モペッド→違法
● 警察はなぜ取り締まらないのか?
この中で特に問題視すべきなのが、合法である特定小型原動機付自転車の電動モペッドと、原動機付自転車の電動モペッドです。きちんと届出されナンバープレートを装着していればいいのですが、届出せずに電動アシスト自転車のフリをしていることが多いのです。街中でやたらと太いタイヤの自転車を見かけて「かなりスピードを出しているな」と凝視すると、ペダルをこいでいないのが分かります。
筆者のような立場からすると、「なぜ、警察はもっと取り締まらないのだろう?」と怒りの感情がわきます。今年4月10日に東京・渋谷で大がかりに取り締まった時の様子は、多くのメディアが記事にしています。きっと、警視庁が「取り締まりをするので取材してください」と呼びかけたのでしょう。
こうした取り組みは評価できますが、一方で、警察官の前を明らかにおかしい電動モペッドが素通りする様子も散見されます。もっとまめに取り締まらないことには、どうも納得がいきません。
なんと、警察官が停止させて事情を聞いても、乗っている人は「ペダルが付いているから自転車でしょ」とか「原付だと知らなかった」とか言い張るらしいです。が、知らないと言えば済む問題ではありません。
● 軽い気持ちで乗ると人生を「詰む」ことに
そもそも、取り締まる側の警察官が、「原付なのか、電動モペッドなのか、区別がつかない」なんて言うのは、単なる勉強不足でしょと筆者は思います。ペダルを踏まずに速いスピードで走っていれば、それで十分に分かるのではないでしょうか?
自転車だと言い張って乗っていたとしても、事故を起こした際は原付として扱われます。ナンバーを取得していなければ当然、自賠責保険にも入っていないので無保険車でしょう。免許がなく運転していれば無免許運転ですし、酒を飲んでの運転は酒気帯びや飲酒運転の重罪です。ブレーキング時にブレーキランプが点灯しなければ整備不良にもなります。
このような状態でもし人身事故を起こせば、当然ながら罪に問われることになり、多額の慰謝料の支払いも待ち受けています。自賠責保険がありませんから全額自分で支払う必要があります。交通事故の慰謝料は重い過失がある場合、自己破産しても免責になりません。
軽い気持ちで電動モペッドを、電動アシスト自転車のフリをして使っていると、人生を「詰む」ことになりかねません。何より、人に大きな被害を与える可能性のある乗り物がはびこっている現状は、一刻も早く解消されて然るべきです。
諸星陽一
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