( 229671 )  2024/11/03 15:59:42  
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衆院選で街頭演説を聞く有権者。若者視点で今回の選挙を分析すると、興味深い兆候が見える Photo:JIJI 

 

 元TOKIOの長瀬智也さんが衆議院選挙期間中の10月24日にSNS投稿した内容が賛否を呼んだ。芸能人が「政治」に言及すると、特にネット上では非常に物議を醸しやすい。海外では著名人が政治的な発言をすることは珍しくはないが、日本ではタブー化している現状がある。今回は特に、若者世代に見られる「批判」への嫌悪感について触れてみたい。(フリーライター 鎌田和歌) 

 

● 長瀬智也の「政治的発言」が物議 なぜ「ダサい」と言われるのか 

 

 「裏金でパンクを直していただけませんでしょうか#自民党」 

 

 「こちらのタイヤがそろそろ寿命なのですが…ダメですよね?#裏金」 

 

 長瀬智也さんが自身のInstagramのストーリー機能に、パンクしたタイヤの画像とともにアップしたのがこちらの文言だ。「ストーリー」は1日で投稿が消える機能で、これらは選挙期間中の10月24日と25日に投稿されていた。 

 

 反応は好意的なものから批判的なものまで様々だが、こういった著名人の物議を醸す投稿はすぐにネットニュースに補足される。この件についても、『週刊女性PRIME』が早速10月29日に「『イキった中学生みたい』長瀬智也の政治語りに批判の声、我が道を行きすぎる“ご意見番”っぷり」というタイトルで記事化。日刊スポーツは、その後の長瀬さんの投稿も含めて「長瀬智也、『ダサい』と酷評に『俺に転がされているようじゃダメ』」というタイトルの記事を10月28日に掲載している。 

 

 タイトルからもわかる通り、特に週刊女性PRIMEの記事は長瀬さんに批判的なトーンが強い記事だ。この記事を引用して、またさらに賛否両論が繰り広げられるような状態だ。 

 

 芸能人が「政治」的な発言をして物議を醸すのは今に始まったことではなく、これまでも何度もあった。隣人や友人との会話でも政治の話を避ける傾向は日本では特に強いと言われ、そういった昔からのタブー化の影響も当然あるのだろうが、今回は若者世代に見られる「批判」を嫌う風潮について書きたい。 

 

 

● 与党批判だけが 「政治的」と言われやすい背景 

 

 まず、長瀬さんの投稿は、皮肉っぽくはあるものの、強い言葉を使って自民党や裏金問題を批判しているわけではない。それでもなお、強い反発を受ける。 

 

 これは一つには、与党批判のときだけ「政治を語るな」と言われやすい、という問題がある。 

 

 たとえば最近、講談社の漫画誌『モーニング』に連載中の『社外取締役 島耕作』の中で、辺野古の新基地建設に抗議する人が「日当」をもらっているというセリフが、まるで事実かのように掲載された。「日当デマ」は、以前から基地建設に抗議する人に浴びせられてきたものであり、結局、編集部と作者がお詫び文を出した。 

 

 「辺野古」というキーワードについてネット上で特に顕著な傾向として見られるのは、与党寄りの人は新基地建設に抗議する人に対して冷たく、野党寄りの人は抗議する側に立つことだ。 

 

 今回の場合も、作品内のセリフに抗議したのは野党支持者が多く、擁護したのは与党支持者が多かった(少なくとも筆者にはそのように見えた)。話が長くなって恐縮だが、漫画家がその作品やSNS投稿で野党寄り(あるいは、そう受け取られる)の主張を行うとき、「漫画に政治を持ち込むな」「キャラクターに政治的発言をさせるな」と批判が上がることがある。 

 

 たとえば、『遊☆戯☆王』の作者・高橋和希さんは2019年の選挙前に自身のInstagramで「独裁政権=未来は暗黒次元(ダーク・ディメンション)!」などとセリフを書き込んだキャラクターのイラストをアップして批判を受け、その後謝罪している。 

 

 『社外取締役 島耕作』の場合、そのセリフを批判する人はいても、「マンガに政治を……」といった批判はほとんどないように見えた。 

 

 これまで比較的大きな話題となった芸能人の「政治的発言」をピックアップすると、きゃりーぱみゅぱみゅさんの「#検察庁法改正案に抗議します」(2020年)や、辺野古の工事を中止する署名を紹介したローラさん(2018年)など。あるいは、小泉今日子さんやLUNA SEAのSUGIZOさん、ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんらは、政権(あるいは現政権の推し進める政策)に批判的・懐疑的なスタンスのタレントとして「政治的」と言われやすい。 

 

 政権に批判的・懐疑的な発言だけが「政治的」であると言われやすい風潮は確かにある。 

 

● 批判を嫌う若者は「野党」が嫌い? 国民民主党が躍進した本当のワケ 

 

 ただ、もう一つの理由として挙げられるのは「批判を嫌う若者」の存在である。「SNSではおじさんやおばさんがしょっちゅうけんかしていて怖い」「政治批判をしている人に、面倒なので関わりたくない」といった声を10代~20代から聞くことは少なくない。 

 

 今回の選挙で、10代~20代から支持を集めたのは国民民主党だった。裏金問題のある自民党にも入れたくないが、かといって「野党は批判ばかり」のイメージが強い立憲民主党も違うと考える、そういう層を取り込んだのが国民民主党だったと分析されている。 

 

 「野党は批判ばかり」と言われている野党からすれば、裏金問題だけではなく追及しなければならないことは多々あるのだろうが、追及すればするほど、その問題に関心が高くない層からは特に「なんだかわからんが批判ばかりで良くない」と思われてしまうところがある。 

 

 自民党議員が批判ばかりしていれば、批判を嫌う若者が自民党を嫌うこともあり得るだろうが、自民党は与党であるため、批判を受けることはあっても逆は少ない。「批判を嫌う若者」の存在が無視できない現代において、そもそも野党は不利な状況だ。 

 

 自公が過半数を取ることができず立憲民主党は議席を伸ばしたが、国民民主党が自民党と手を結ぶ気配が見え、政権交代には至らない空気である。国民民主党に入れた人はそれでいいのかという声があるが、どうなのだろうか。政権に批判的な声だけが「政治的」と言われやすく、また批判自体が嫌われやすい社会の中では、政権交代を目指すというよりは、「なんとなくスマートに見えるから」国民民主党を選んだ人もいるのではないか。 

 

 

 SNSを観察していると、批判を嫌う若者層が好むのが「中立」「俯瞰」「冷静」「バランス感覚」といった言葉である。熱く憤るのではなく、メタ的視点で考えて賢く振る舞いたい。そのような感覚からすると、「裏金でパンクを直していただけませんでしょうか#自民党」というような「政治的発言」は「ダサい」のかもしれない。 

 

● 驚きだったアミューズの 「政治的」声明 

 

 そんな中で驚いたのが、芸能事務所アミューズの声明である。アミューズは10月30日、同性婚訴訟の控訴審判決が東京高裁で行われ、違憲判決が出たことを受け「東京高裁という、最高裁判所に次いで影響力を持つ裁判所がそのような判決を出したことの重みは計り知れないと思います。各人が持って生まれた個性に誇りをもって生きていける社会の実現を願うばかりです。」などの内容を含む声明を発表した。同性婚に賛成すると受け取れる内容の声明である。 

 

 これは明らかに「政治的」な声明であり、日本の芸能事務所がこのようなコメントを発表することは珍しい。当然、同性婚に賛成する人はこの声明を肯定的に受け止め、そうでない人は逆の反応を示しているが、人気芸能人が多く所属する大手事務所が、このようなスタンスをとったことの影響は、今後必ずあるだろう。 

 

 同性婚訴訟は各地で行われており、高裁での違憲判決は2回目。このタイミングでの声明となった理由はわからないが、声を上げてきた人たちを勇気づけたのは間違いないのではないか。 

 

 個人的には、芸能人であれ一般人であれ、政治的スタンスを明らかにして発言する人がもっと増えてもいいと考える。街場からの発信が増えることが、低迷する投票率の引き上げに、少なからず貢献すると期待するからだ。 

 

鎌田和歌 

 

 

 
 

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