( 229701 )  2024/11/03 16:34:22  
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10月初旬、石丸伸二氏(写真左)とYouTubeのビジネス系動画メディアで生対談した国民民主党の玉木雄一郎代表(画像:YouTubeチャンネル「ReHacQ」より) 

 

 自由民主党が2009年以来、15年ぶりに単独過半数を割り込む結果となった第50回衆議院選挙。野党では特に立憲民主党と国民民主党が支持を集め、躍進を遂げました。 

 

【図表】“石丸伸二支持者”が衆院選で国民民主を「熱烈支持した痕跡」 

 

 今回の選挙でキーとなったのは、若年層です。 

 

 総務省が10月28日に公表した数値によると、小選挙区の投票率は53.85%。前回の2021年と比べて2.08ポイント減少し、戦後3番目に低い結果となりました。特に若年層の投票率が低い傾向で、全世代の中で最も低いのが20代でした。 

 

 20代や30代の政治離れが指摘されており、政治に対する不信感や関心の低さがその背景にあるとされています。 

 

 一方で、それら若年層の投票した党が飛躍した一面もあります。 

 

 日本テレビ系列と読売新聞社が行った出口調査によると、20代および30代の投票先として、比例代表では国民民主党が20%を超えて最も支持を集めており、若年層からの高い支持を示しました。それにより同党は7議席から28議席まで伸ばし、政局のキャスティングボートを握る存在となりました。 

 

 また、同調査によれば、既存政党に不信感を抱く無党派層も、立憲民主党や国民民主党を支持する傾向が見られています。 

 

■衆院選と都知事選の動画から約1.8万件のコメントを分析 

 

 このような傾向から思い出されるのは、2024年の東京都知事選。元安芸高田市長の石丸伸二氏が、今回と同様に若年層や無党派層から支持を集めた点と共通しています。 

 

 そこで今回は、YouTube上でのインターネット世論の反応が、それぞれ同様の傾向を示しているかどうかを仮説とし、分析を行いました。 

 

 分析対象データとして、衆院選前の2024年10月17日から26日にかけて「衆院選」をキーワードにヒットした動画のうち、再生回数が多い順に200本を収集しました。また、各動画から関連度順に最大100件のコメントを抽出し、合計1万7885件のコメントを分析対象としました。 

 

 比較対象として、今度は都知事選前の2024年6月20日から7月6日までの間に「都知事選」に関連する再生回数上位の動画200本も同様に収集し、各動画から最大100件のコメントを収集、合計1万9153件を分析しました。 

 

 

 まずは、衆院選関連動画について、動画タイトルに基づき各党や代表者名が含まれているかどうかで党ごとに分類し、獲得議席とあわせて可視化を行いました。 

 

 その結果、現政権である自民党関連の動画数が最も多い一方で、国民民主党関連の動画が次に多く、同党への注目度が高いことが示されました。また、れいわ新選組、参政党、保守党なども、獲得議席数に対して高い再生数を得た動画が多く、一定の関心を集めていることがわかりました。 

 

 ただし、小規模な政党やその支持者は、大手メディアでの露出が限られているため、SNSやYouTubeなどのプラットフォームを積極的に活用して情報発信を行っていると考えられます。これにより、オンライン上での視認性が高まり、関心を集めることで動画の再生数も増加している可能性があります。 

 

■ネットで不人気の自民党と、高い支持を得る国民民主党 

 

 続いて、衆院選データセットに含まれるそれぞれの動画コメントについて、アメリカ・オープンAIの大規模言語モデル(LLM:膨大なテキストデータから学習し、人間の言語を処理する)「GPT-4o-mini」を活用し、各コメントが人物や団体名に対してどのようなスタンスを表明しているか、またその理由について一件ずつ抽出しました。 

 

 なお、LLMによる自動判定であるため、一部に誤りが含まれる可能性もある点には留意が必要です。 

 

 すると、圧倒的に自民党に関するコメントが多く、さらにその反応はネガティブなものが大半であったことがわかります。まさに今回の自民党大敗を招いた背景とも言えるでしょう。 

 

 これは特に若年層や無党派層からの既存政党への不信感や長期政権への反発が影響していると考えられます。また、オンラインの匿名性が批判的な意見の表出を促進し、ネガティブな反応が増幅されやすいということもあるでしょう。 

 

 自民党の中では、同党の高市早苗氏について言及が多く、内容もポジティブな反応が目立ちました。これは依然、ネット上で高い人気があることの証明でしょう。総裁選での存在感が、衆院選のオンライン世論にも影響を及ぼしていることが考えられます。彼女の発言や立場が特定の層に対して強い支持を集めているということです。 

 

 そして特筆すべきは、自民党に次ぐコメント数があった国民民主党に対する、多くのポジティブな反応です。 

 

 

 ここから、同党が若年層の関心を引く政策やリベラルなスタンスが支持されていることがうかがえます。無党派層や既存の政党に不満を持つ層からの支持を得ており、国民民主党がオンライン世論で「改革志向」や「若者向け」のイメージを確立していることが示されています。 

 

 3議席から9議席へと躍進したれいわ新選組や、「議席ゼロ」と予想するメディアもあった中で3議席を獲得した参政党など、他の新興政党にも多くのポジティブな反応が寄せられています。 

 

 これらの政党はSNSやYouTubeで積極的な情報発信を行っており、若年層や無党派層の支持を集め、既成政党とは異なる価値観や改革的なアプローチが共感を呼んでいる可能性があります。 

 

■衆院選は都知事選と同じような経過を辿っている 

 

 続いて、都知事選の結果を改めて見てみましょう。  

 

 石丸伸二氏が圧倒的にコメント数もポジティブな反応も多く、現職の小池百合子氏にはネガティブな反応が多いことがわかります。 

 

 石丸氏は既存体制に不満を持つ層に「変革の象徴」として受け入れられており、一方、小池氏への批判には現体制への不信感が反映されているようです。ネット上では「既存の政治」への反発が顕著で、特に若年層や無党派層において変革を求める意識が強いことが示唆されます。 

 

 この都知事選での反応は、衆院選のコメント分析結果と一致しています。衆院選においても「既存の政治」である自民党に対する批判が多く、「変革の象徴」とされる国民民主党のような新興勢力がポジティブに評価されているのです。 

 

 両選挙で、ネット上では、既成政治への反発と変革への期待が強調される傾向が見てとれます。 

 

■石丸支持派が国民民主党を応援していた?  

 

 では、都知事選で「変革を期待していた層」(石丸氏を支持していた人々)が、今回の衆院選においてどのようなスタンスだったのかを分析してみましょう。 

 

 一番大きな特徴は、国民民主党に対して圧倒的にポジティブな反応を見せていたこと。また、その代表である玉木雄一郎氏にも好意的な反応を寄せていることがわかります。 

 

 つまり、都知事選のときに石丸氏を支持していた層は、衆院選では「変革の象徴」としての国民民主党を支持したことが示されています。玉木氏と石丸氏が、既存体制への挑戦者として共通の支持基盤を形成しているということでしょう。 

 

 今回の選挙戦では、「(ネットで支持を拡大した)石丸氏の戦略をずいぶん研究し、参考にした」と玉木氏自身が明かしているように、その成果は十分に出たと言えます。 

 

 

 加えてこの層は、自民党など既存の政治体制に対して強い反発を示していることも読み取れました。自民党に対するネガティブな反応が目立ち、現状の政治に対する批判意識が根強く存在しています。 

 

 衆院選に関して、Youtubeのコメント欄で一番大きかった意見は、自民党への批判、次いで国民民主党への支持でした。 

 

 しかし、その中でも都知事選の際に石丸氏を支持していた人たちが今回の選挙でどのような反応をしていたかと言えば、国民民主党への支持が最も多く、次いで自民党への批判でした。 

 

 「批判」よりも「期待」が強く表明されていたことは、石丸氏支持派の特徴と言えます。 

 

 今回の分析から、石丸氏を支持していた層が、「変革志向」や「現状への反発」から国民民主党を支持しやすい傾向があったことがわかりました。言い換えれば、国民民主党は、石丸氏を支持していたような層を取り入れることに成功したとも言えます。 

 

■SNSウケだけの政治では、分断や混乱を招く危険性も 

 

 しかし、それらの層が重視した観点は、ポピュリズム(大衆迎合的な政治思想や活動)と通じる点があります。選挙戦でのポピュリズム的な発信の仕方はネットの相性はよく、さまざまなSNSを駆使している若年層の支持を集めることに有効ではあるかもしれません。 

 

 ただ、ポピュリズムに傾倒しすぎると、短期的には支持を集めることができても、長期的な政策の実現や社会の安定に悪影響を及ぼす可能性があります。具体的な政策議論が不足し、感情的な訴えや過激な主張が優先されることで、建設的な対話が困難になるリスクもあります。 

 

 アメリカのドナルド・トランプ前大統領も、既存の政治体制への反発や変革を求める声を取り込み、大きな支持を得ました。しかし、その結果として社会の分断や政治的な混乱を招いたことは記憶に新しいでしょう。 

 

 当たり前ではありますが、今後、政治に求められるのは、オンラインでの情報発信やコミュニケーションを活用しつつも、感情的な訴求だけでなく、実質的な政策やビジョンを示すことです。 

 

 都知事選で石丸氏に熱狂していた人たちが、今回は国民民主党へとその熱の注ぎ先を変えた。その先に何があるのか、今後も注視していきたいと思います。 

 

福馬 智生 :株式会社TDAI Lab 代表取締役社⻑、工学博士 

 

 

 
 

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