( 229731 )  2024/11/03 17:05:06  
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「サブウェイを第二の創業にしたい」。現在65歳の渡邉会長は意気込んだ(記者撮影) 

 

 「居酒屋のワタミから、サブウェイのワタミに変えたい。サブウェイしかないと確信した。どうしてもやりたいと思った」――。ワタミの渡邉美樹会長兼社長CEOは意気揚々と宣言した。 

 

【図表】ワタミの外食は2013年度から4期連続で赤字、コロナ禍でも苦戦した 

 

 ワタミは10月25日、ファストフード世界王手のサブウェイの日本法人、日本サブウェイを買収すると発表した。買収金額は非公表としている。併せてサブウェイとマスターフランチャイズ契約を締結。契約期間は10年間で、この間独占的にサブウェイを展開することとなる。 

 

 マスターフランチャイズ契約は、国内での直営店の出店に加えて、フランチャイズ(FC)を募集する権利も与えるもの。ファストフードではマクドナルドやケンタッキーフライドチキンも実施している。今後10年で250店は確実に出店する契約になっており、半数をFCで出店する構えだ。 

 

 ワタミは来年の春頃までに東京都心に旗艦店を出店する予定だ。今後は商業施設内やロードサイド、大学構内など幅広い立地で出店を狙う。 

 

■マクドナルドに並ぶ3000店へ 

 

 サブウェイは9月末で国内178店舗を展開している。1991年にサントリーがマスターフランチャイズ契約を締結し、国内で事業を開始。一時は500店舗程度まで店舗を増やしたが、サブウェイ本社のフランチャイズ体制の見直しもあり契約は終了。その後店舗数は減少していた。 

 

 今回はサブウェイ側がワタミに持ちかけた提案だった。「1年ほど前にサブウェイが日本でのパートナーを探しているという話を聞いた。しばらく行っていなかったが、世界中のサブウェイを見ているうちに確信した。どうしてもやりたいと思うようになった」(渡邉会長)。 

 

 渡邉会長が指摘するように、世界に目を向けると、サブウェイは存在感のあるチェーンだ。店舗数は約3万7000店(9月末)とマクドナルドの約4万2000店やスターバックスの約4万店(それぞれ6月末)に迫る規模を誇る。 

 

 渡邉会長は現在65歳。今後20年程度で国内で3000店舗を目指すとしており、80代まで経営者としての挑戦が続くことになる。ワタミの国内店舗数は3月末で328店舗。3000店が実現すれば、宣言通り「サブウェイのワタミ」へと大きく変わりそうだ。 

 

 

 居酒屋のイメージが強いワタミだが、近年の業績を支えるのは、高齢者などに向けた調理済みの弁当や総菜を配達する宅食事業だ。 

 

 今2025年3月期の第1四半期決算では、宅食は売上高100億円、営業利益11.7億円だった一方で、国内外食は売上高81億円、営業利益3.8億円だった。 

 

 ワタミの宅食は2008年に宅食事業を行っていた会社を買収して参入。成長が鈍化する時期もあったが、毎年20億~30億円の営業利益を稼ぐ安定的な事業としてワタミを支えていた。 

 

 コロナ禍では療養者向けに給食を販売し、売上高、利益ともに大きく伸ばした。コロナ禍の特需がなくなった後も成長を続けている。現在のワタミは宅食が主柱の会社なのだ。 

 

■専門的な業態が登場し、和民は苦戦 

 

 つねに外食が稼げていなかったわけではない。2000年代はモンテローザ、コロワイドとともに「居酒屋新御三家」と呼ばれ活況を呈した。この時期には居酒屋のみで大きな利益を出していた。例えば2008年度の外食事業は営業利益57億円を出すなど、事業の柱だった。 

 

 その後、業績は低迷していく。主力業態「和民」は徐々に客離れが進んだ。和民は幅広い種類のメニューを提供する戦略で客を獲得してきたが、鳥貴族など専門性が高く、割安感もある居酒屋が台頭すると、和民などの「総合居酒屋」は苦戦。既存店売り上げは減少傾向となっていく。 

 

 また、2010年代に過労死事件の裁判などで企業イメージが悪化したことも客数が減少した要因の1つだろう。外食事業は2013年度から4期連続で赤字となっている。 

 

 業績の悪化で自己資本比率が一時6.2%まで低下するなど財務状況も悪化した結果、2015年には宅食と並び利益を出していた介護事業を売却するまで追い込まれてしまった。 

 

 その後、「和民」の不採算店舗の撤退や「ミライザカ」や「三代目 鳥メロ」といった業態へ転換を進めたが、コロナ禍で再び大幅赤字に転落するなど、苦しい状況は続くばかりだった。 

 

 渡邉会長は2022年、東洋経済の取材に対して「居酒屋のマーケットはコロナ前比で7割にまで縮み、永遠に戻らないのではないだろうか」と語るなど、居酒屋業態の存続に危機感を示していた。 

 

 

 足元で居酒屋事業は回復傾向にあるが「焼肉の和民」など、居酒屋以外の出店も増やしている。今回のサブウェイとの契約も、これまで長きにわたって進めてきた多角化、脱居酒屋戦略の一環といえる。 

 

■拡大のカギはデジタル化 

 

 では、サブウェイをもくろみ通りに出店できるのか。居酒屋の場合、駅前や繁華街が主要な出店立地だ。ファストフードは商業施設や郊外ロードサイドにも出店しており、居酒屋と異なる面も多い。調理や接客などの店内のオペレーションも、居酒屋や焼き肉店と異なるノウハウが求められる。当然、人材の採用や育成も急務だ。 

 

 やや複雑な注文方法も課題の一つ。サンドイッチを選択し、パンや野菜を自ら選んでいく注文方法は、サブウェイ独特のスタイルだ。リピーターにとっては自分の好みに合わせてカスタマイズできる形式だが、初めて来店する人にとってハードルは高い。 

 

 現在は注文用のタブレットを導入したり、注文の流れ、順序を明確にしたりするなど工夫を凝らしている。今後、幅広い客を取り込む中で、デジタル化や注文方法の改善は積極的に取り組むべき課題になる。 

 

 また、現時点で物流や仕入れなど、宅食、居酒屋業態とサブウェイの目立ったシナジーはなさそうだ。あくまで独自に成長戦略を練る必要がある。 

 

 ファストフードながら、野菜を売りにしたサブウェイはマクドナルドなどのハンバーガーチェーンとは一線を画す存在だ。健康需要が高まる中で、サブウェイを選択する消費者が増えていく可能性は十分にある。サブウェイはワタミにとってまさに第二の創業、社運を懸けた戦いとなる。 

 

金子 弘樹 :東洋経済 記者 

 

 

 
 

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