( 230019 ) 2024/11/04 16:06:06 1 00 日本の経済社会における労働市場の変化や高齢者の就業に関するデータや事例が示されている。 |
( 230021 ) 2024/11/04 16:06:06 0 00 〔PHOTO〕iStock
年収は300万円以下、本当に稼ぐべきは月10万円、50代で仕事の意義を見失う、60代管理職はごく少数、70歳男性の就業率は45%――。
【写真】意外と知らない、日本経済「10の大変化」とは…
10万部突破のベストセラー『ほんとうの定年後』では、多数の統計データや事例から知られざる「定年後の実態」を明らかにしている。
今後ますます人々の就業期間が長期化していくと予想されるなか、企業も高齢従業員への一定の理解が必要となる。
しかし、現実問題として、一企業が従業員の生涯の生活を保障できるかといえば、そこまでの重責を企業に担わせることが難しいこともまた事実である。そう考えれば、これまで長く働き続けてきた仕事を離れ、地域社会と結びついた小さな仕事を現実的な就労の選択肢として考えるタイミングが、誰でも人生のどこかで訪れるはずだ。
現代において、誰もが高齢期に安心して暮らせるためにどうすべきかを考えたとき、企業や政府に人々の高齢期の生活のすべてを保障させる「福祉大国論」が望ましいものになるとは思えない。また、すべての人が生涯にわたってスキルを磨き続け、競争に勝ち残らなければならないという「自己責任論」に答えがあるとも思えない。
そうではなく、いつでも誰でも無理のない仕事で適正な賃金が得られる市場環境をいかに整備するかという視点が、何より大切だと考えるのである。そして、いよいよ本当に働けなくて困ったときには、そのための社会保障を充実させる。こうした考え方が生涯現役時代における国全体の社会保障としての望ましい姿になるのではないだろうか。
定年後、市場のなかで広く仕事を探す局面に差し掛かったとき、その時々の自身の状態にあった良い仕事にいかにして巡り合うことができるか。高齢期に豊かに生活できる環境を実現するという目標は、あくまで健全な市場メカニズムを通して実現していかなければならないと、私は考える。
少子高齢化が進展し、生涯現役社会が刻一刻と近づくなか、我が国の経済社会はどう変化するか。本書の締めくくりとして、今後の日本の経済社会で起こりうる変化を記述し、こうした変化に対して私たち日本社会がどのように対応していくべきかを、いくつか提案してみたい。
写真:現代ビジネス
まずは過去から現在に至るまで、日本の労働市場がどのように変化しているのか、その状況を簡単に振り返ると、近年、日本の労働市場には大きな構造変化が認められる。すなわち、人手不足が急速に深刻化しているのである。
総務省「労働力調査」によると、現在失業率は極めて低い水準で推移を続けている(図表3-1)。新型コロナウィルスの感染拡大(コロナ禍)以前には2%台前半まで低下しており、ほぼ完全雇用に近い状況であった。さかのぼってみると、失業率が2%台前半にまで低下したのは1993年のはじめ頃のことである。この時期はまだバブル経済の余韻が残っていた時期で、日本経済が右肩上がりで拡大していくという期待があった時期にあたる。日本経済が拡大を続けることを前提に企業が採用意欲にあふれていた当時の水準にまで、現在労働市場は過熱しているのである。
近年、女性や高齢者など、従来であれば働いていなかった人たちの労働参加が急速に進んでいる。こうした状況にもかかわらず、それでもなお日本の労働市場のひっ迫度合いは近年まれにみる水準となっている。
コロナ禍での景気後退局面においても、失業率の上昇が抑制されていたことも注目される。景況感を表す指標である景気動向指数(CI)との連動をみると、CIが77・9まで落ち込んだ2020年半ばにおいても、失業率は3・0%にまでしか上昇しなかった。ここ最近は景況感が悪化してもなお労働需給がひっ迫したままの状態にあるほどの、構造的な人手不足社会に突入している。リーマンショックで景気が落ち込んだ2009年から2010年頃の動きと比較しても、足元の労働市場の構造変化がはっきりと浮かび上がってくる。
企業の人手不足感の状況を示す日銀短観の雇用人員判断指数(DI)をみると、特に人手不足感が強いのは、運輸や建設、保安、販売、飲食などの業種である。全国各地でこうした生活に密着したサービスの提供が難しくなっている現実がある。
日本経済において、人手不足がここまで深刻化しているのはなぜだろうか。
まず大きな原因としてあげられるのは、生産年齢人口の減少である。高齢化が進む日本社会において、働くことができない高齢者の人口は年々増えている。
そして、それと同時に、労働需要が相対的に増えているということも大きな要因となっていることは間違いない。人は時とともに歳を取り、最終的には病気などによって働くことが難しくなっていく。しかし、そうしたなかにあっても高齢者は消費者ではあり続ける。むしろ、高齢者の求めるサービスは往々にして労働集約的なサービスであるという特色を持つ。つまり、自ら労務を提供することはできないが、その一方で自身の生活のために誰かの労働を必要としているのである。
少子高齢化が進む現代の日本経済においては、消費者の人口が相対的に維持されるにもかかわらず、生産者の人口は減少するだろう。その結果として、深刻な人手不足が進行していくのである。現代においては、女性も高齢者も働くことが当たり前になってきているにもかかわらず、人々の旺盛な消費意欲に見合うだけの労働力はまだまだ足りていない。
今まさに日本の経済社会は、働き盛りの年齢層が減少する一方で消費者が相対的に増加し、労働供給が経済成長のボトルネックとなる「労働供給制約社会」を迎えようとしている。少子高齢化が原因である以上、これは構造的な問題であり、将来においてこの状況はますます深刻化することに間違いはないだろう。
つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)
|
![]() |