( 230041 )  2024/11/04 16:26:48  
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「1票じゃ何も変わらない」を変えることはできないのか(写真はイメージです) Photo:PIXTA 

 

 選挙における投票率の低下が叫ばれて久しい。今の社会に特に不満はないから行く人が少ないのだ、と考えればそれはそれで良いのかもしれないが、政治への無関心が腐敗に直結しかねないのだから、怖いものがある。「1票じゃ何も変わらない」とはならず、何らかの手応えを感じられる選挙とはどういうものなのだろうか。(フリーライター 武藤弘樹) 

 

● 戦後3番目に低かった投票率 「今回だから」投票に行った人たち 

 

 10月27日に行われた衆院選は、15年ぶりに与党が過半数割れとなった。 

 

 近年投票率の低さがよく言われていて、今回は53.85%(小選挙区分)で投票率は戦後3番目の低さとなる(衆院選)。9月末に行われた自民党総裁選では誰が選出されるか世間的に関心が高まっていて、石破氏、高市氏の一騎打ち決選投票となったときなどはネットも相当盛り上がって、日本代表の試合のごときライブ感で見守られていた。その延長線上にある10月の衆院選はもっと投票率が高くなるかと推測していたが、そうはならなかったようである。 

 

 なお、戦後最も低かったのは3回前(2014年)の52.66%で、2番目に低かったのが2回前(2017年)の53.68%だった。前回(2021年)は55.93%だったので、今回はそこからやや上がった格好だ。だが、1993年以前は70%付近をずっと維持してきて、その後の1996~2003年および2012年は60%前後で推移(2005年、2009年は再び約70%まで回復)していたから、それらの期間に比べると2014年から数えられる直近4回の5割前後は、だいぶ低い水準にあるということがわかる。   

 

 今回投票率が低かった原因については、自民党の裏金問題で国民の政治不信が煽られていたことが大きく関係していると言われる。それでも投票率ワースト1位とならなかったのは、「政治不信」や「近年の投票率低水準のトレンド」などの”投票率を下げる要素”と、「自民総裁選の盛り上がりの余波」「物価高が呼び覚ました国民の政治的関心」などの”投票率を上げる要素”が相まみえて、それらを織り込んだものが「戦後3番目に低い」結果となって現れたようである。 

 

 

 このように投票率が低い低いと言われた今回の衆院選も、「今回だからこそ」と久しぶりに投票に赴いた人が筆者の知り合いにもいた。「選挙が久しぶりすぎて勝手がわからなくて不安だ」とやり方を聞いてきたので、やり方も何も説明するほど複雑でもないのだが、一応「会場でもらった投票用紙に名前や政党名を書く欄があるから、そこに名前を書くべし」と教えると、「自分の名前を書くのか」と返ってきた。 

 

 そうした人たちにもきちんと与えられているのが選挙権であり、清き一票である。なお、この人は経済に関しては馬鹿に詳しく、株価の下落を警戒して投票に赴いたようである。 

 

 余談だが、自公連立が過半数割れすると株価は大幅に下落するというのが市場関係者の大方の見立てだったが、実際の下落は限定的ですぐに反転した。専門家によれば、「選挙前の段階で自公連立過半数割れの可能性はすでに市場に織り込み済みだったのではないか」とのことである。 

 

● ”選挙離れ”する若者の本音 世代間に横たわる大きな差 

 

 ここ10年ほど、全体では50%台の投票率だが、世代別に内訳を見てみると、かなり大きな差があることがわかる。今回の世代別投票率はまだ出ていないため、前回2021年の世代別投票率を見ると、10歳代~60歳代、70歳代以上で最も投票率が高いのは60歳代の71.38%、もっとも低いのは20歳代の36.50%で、倍近い開きがある。なお投票率が低い世代は順に、20歳代・10歳代・30歳代となっている。 

 

 これがさかんに言われている”若者の選挙離れ”の実態である。1票を稼ぎたい政治家にしてみれば投票率が低い若者の優先順位は低くてよろしく、その結果若者が後回しの政策が次々打ち出され、若者はさらに自分の政治不在を感じて政治への関心をなくし投票に行かなくなり、若者の政治不在がどんどん強化されていく負の連鎖となる。 

 

 若者に対して厳しい見方をすれば、「若者が選挙に行かなければ自滅していくだけ」と言えなくもないのだが、将来的に国を作っていくのはどうあがいても若者であり、若者のエネルギーこそ国の豊かさに直結するので、むやみに若者を切り捨てることは自分(年長者の老後)を蝕む行為にもなる。手取り足取りまでする必要はないが、若者が選挙に参加しやすくなる仕組みづくりは国民みんなのためになるので、年長者が率先して行っていければ美しい。 

 

 

 テレビの取材に対して大学生が、選挙に行かない理由を「自分の1票で変わる感じがしない」と答え、批判が集まったが、これが本音であろう。何万、何十万と票が集まる中で、自分が1票投じたことで何かが大きく変わるであろう実感は確かにないが、それでも1票の尊さや選挙を通して政治に参加することこそが大事と考えているのが選挙に行く人たちで、若者の間でマジョリティになっている「選挙に行かない人たち」とはそこに大きな意識の違いがある。 

 

● 若者の選挙率が上がるために 必要な「ちょっとした一押し」 

 

 もっとも、「選挙に行くか/行かないか」の二者択一で比べてみると、両者の間には深い断絶があるように感じられるが、人によっては実はそれがあまり大きな差ではなくて、ちょっとした一押しでひょいと越えてしまえる溝であったりする。 

 

 総務省が18~20歳の男女を対象に、「18歳選挙権に関する意識調査」というものを行った。やや古く2016年のデータだが、選挙権が20歳から18歳に引き下げられた年である。これによると、投票に行かなかった理由として「選挙にあまり関心がなかった(19.4%)」「投票所に行くのが面倒だった(16.1%)」がある。 

 

 最も多かったのは「今住んでいる市区町村で投票することができなかったから(21.7%)」だが、これは「親元を離れて暮らしているが住民票は移していない」などが理由で生じる事態で、「選挙のために住民票を移しておく」という行動につながっていない点で、大きく”若者の選挙の無関心”に分類することもできようか。 

 

 こうしたデータを見てみると、投票がもうちょっとだけ簡単だったら投票する人も一定数いそうである。「行った方がいいのはわかっているものの、予定の方が大事」と考える層の人には、駅や大学、ショッピングモールなどで投票ができるようになれば、外出のついでに投票に参加するようになるかもしれない。 

 

 

 投票率向上のための施策には、以下のようなことが行われている。 

 

 ・期日前投票の場所・時間の改善と、期日前投票自体の周知 

・センキョ割 

・主権者教育の推進 

 

 「センキョ割」は、センキョに行くと対象の店舗で割引が受けられるもので、全国津々浦々で様々な業種のお店がセンキョ割に参加していて、たとえば「コンビニでコーヒーが半額」「スーパーで5%割引」などがある。賢くお得に暮らすならぜひ活用したい制度だが、実施店舗がまだそこまで多くはない。 

 

 「主権者教育」は、「国や社会の問題に対して、自ら考えて行動していこう」という意識を子どもたちに、学校や家庭、自治体を通して育んでいこうというものである。若者の投票率が高いヨーロッパ各国では主権者教育が充実しているので、それに倣おうという狙いである。 

 

 他に、投票率を上げるものとしてネット選挙の導入がずっと議論されてきている。実現すれば若者の投票率は大幅に上がりそうな気配が漂うが、実現には技術的な問題や法律の改正などいくつかの要件があり、現段階ではまだ実用化まで時間がかかりそうである。 

 

● 若者に「手応え」を感じさせた 埼玉14区の大どんでん返し 

 

 ところで、埼玉14区では、約6万票を獲得した公明党の石井啓一代表を押さえて、国民民主党の鈴木義弘氏が約7万票で当選した。組織票が強いと見られていた小選挙区で組織票が強みの候補者を押さえて、それ以外の候補者が当選したのである。 

 

 まさかのこの展開は、一部SNSで大きな称賛をもって迎えられた(特定の政党に関する支持・不支持は関係ない)。このような「手応え」が感じられる選挙だと、選挙に行くかどうか迷う層にも「自分の1票が意味を持った」という実感があるかもしれない。 

 

 こうした前向きな体験は若者の投票率を上げていくことに貢献するだろうから、ぜひ世代の中で共有していってほしいところである。若者の投票率が上がれば、政策の中に若者が入ってきて若者が活気づき、元気でいい国となり、筆者含む年長者の老後はより安泰に近づく。ぜひその方向で進んでいってほしい。 

 

武藤弘樹 

 

 

 
 

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