( 230351 )  2024/11/05 15:57:17  
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写真=IDC/a.collectionRF/amanaimages 

 

 都市に林立するタワーマンションが宅配便やフードデリバリーなどの配達員を苦しめている。1棟に多くの世帯が集まっているので一見、効率的に配達できそうだ。だが、現実は全く異なる。 

 

【関連画像】配達員が作業に要した時間の内訳(全体で255分)、建物内の移動とエレベーター待ちに時間がかかる 

 

 「セキュリティーをはじめ、様々なルールがある。手間と時間がかかり、過疎地の配達より大変なケースも多く、赤字が前提だ。別料金をもらいたいくらいだ」。ある大手宅配事業者の関係者は声を上げる。ドライバーの時間外労働時間の上限が4月から制限され、人手不足などの「2024年問題」に直面している物流業界にとって、タワマンへの宅配は切実な問題となっている。 

 

 日鉄興和不動産(東京・港)が大手物流会社に集配の実態をヒアリングしたところ、東京都内のタワマン(約50階・約1000戸)の1日あたりの集配では、配達27件、集荷5件、不在5件で、計255分かかったという。このうち、エレベーターの待ち時間と乗っている時間だけで全体の3分の1にあたる87分を費やした。それを含めマンション内の移動で全体の5割近くを占めた。 

 

 なぜここまで屋内の移動に時間がかかるのか。 

 

● 配達先の数だけ行ったり来たり 

 

 タワマンへの配達では通常、配達員は住民とは異なる入り口を通り、警備室で受け付けをする。この際、警備室から配達先の住民が在宅か不在かを確認する。在宅であれば、台数が限られる事業者用のエレベーターを利用することが多い。このエレベーターは他の宅配会社や清掃業者、修理業者などと共用のため、しばしば長い待ち時間が発生する。 

 

 配達先のフロアに着いても、戸数が多く、広いタワマンでは配達先を探すのに時間がかかる。この一連の流れを、配達先の数だけ警備室での在宅確認から延々と繰り返さなければならない。 

 

 物件によっては1個の配達でセキュリティーを複数回クリアする必要がある。ある宅配大手が、比較的セキュリティーが厳しいタワマン(50階建て以上・約600戸)で作業の流れを調べたところ、1個の配達に30分以上かかっていた。こうした事例は決して例外的ではないという。 

 

 集合住宅の場合、不在時には宅配ボックスに荷物を預けるのが一般的だ。ところがボックスが満杯だったり、荷物が入らない大きさだったりする場合は再配達となり、追加の手間とコストがかかる。 

 

 駐車スペースも足りない。都内のタワマンの多くは業者用の駐車スペースが数台分しかなく、他の宅配事業者や清掃業者、時には勝手に使う住民との争奪戦となる。 

 

 

 運よく空いていても、配送用の2トン車などが止められない場合もあり、路上駐車を余儀なくされることも日常茶飯事だ。駐車禁止で罰金を取られることも「まれではない」(大手宅配事業者の関係者)。駐車禁止の摘発を避けるためだけに助手席に補助者を乗せるケースもある。 

 

● タワマンを避ける配達員も 

 

 こういった状況が常態化した背景には、宅配需要の急速な伸びがある。国土交通省によると、宅配便による荷物の取扱個数(トラック輸送)は2023年度に50億個弱と、10年前に比べて約13億個増えた。電子商取引(EC)の普及が背景にある。最近では、低価格で知られる中国系通販サイトのシーイン(SHEIN)やテム(Temu)なども台頭している。 

 

 さらに新型コロナウイルス禍を機にフードデリバリーやネットスーパーといった宅配サービスの利用も広がる。宅配ニーズが膨らんでいる消費スタイルの変化に、タワマンの設備や仕組みが追い付いていないという指摘もされ始めている。 

 

 フードデリバリーの配達員たちも困っている。 

 

 ウーバーイーツジャパン(東京・港)の黒崎花子シニアオペレーションマネージャーによると、あるケースでは、配達員が搬入口や事業者用のエレベーターを見つけられず、インターホンを押してから顧客宅に着くまで20分かかったという。建物内に宅配員向けのルールや業者搬入口の有無などが表示されておらず、迷ってしまったことが原因だ。 

 

 ウーバーイーツのアプリには、注文者が配達員の現在位置を確認する機能や、宅配の質を評価する機能がある。注文者がタワマンへの配達には時間がかかると知らなければ、建物に到着してから届くまでに時間がかかったことで低い評価を付けられかねない。1回の配達にかかるコスパ(費用対効果)が悪いと見られ、「タワマンは割に合わないと避ける配達員もいる」(黒崎氏)という。 

 

 都心では、今なお大規模なタワマンが次々と建設されている中、早めに手を打たなければ問題は深刻化しかねない。最近では「レジデンスオフィス」など、オフィスや商業施設とつながった複雑なマンションも増えている。「搬入口がオフィスと居住エリアで異なるなど、配達員にとってはよりハードルが高い」(宅配大手関係者)。 

 

 宅配の「陸の孤島」となれば、住民の暮らしやすさや資産価値にも影響を及ぼしかねない。どうしたら改善できるのか。 

 

 

 一つの手は、マンションの管理組合が主導してルールや設備を変えることだ。例えば、住戸の前に荷物を置く「置き配」を認めたり、宅配ボックスを増設したりすれば、再配達を削減できる。 

 

 住民個人の工夫もできる。宅配ボックスに届いた荷物をすぐ回収するだけでもメリットは大きい。またマンションのルールを分かりやすく明示することも効果がありそうだ。ウーバーイーツの黒崎氏は、「注文時、アプリのチャット上で宅配のルールを伝えてもらうことで、配達員の負担軽減と迅速な配達につながる」と話す。 

 

 不動産デベロッパーも対応に動き始めた。日鉄興和不動産は2023年から、日建設計(東京・千代田)やソフトバンクロボティクス(東京・港)などと連携し、屋内配達にロボットを導入する実証事業に取り組んだ。エレベーターやフロアの移動をロボットに任せることで、配達員1人あたりの作業時間を半減できることが分かった。 

 

 ただし、普及へのハードルは高い。実証事業に携わった、日鉄興和不動産のシンクタンク部門であるライフデザイン総研室の佐藤有希チーフマネージャーは「ロボットへのニーズがあることは分かったものの、コストなど課題があり実際の導入には時間がかかりそうだ」と話す。 

 

 建物内の安全性や住戸からの眺望はタワマンの大きな魅力だが、宅配サービスなどの利便性といかに両立させるか、一段の工夫が求められている。 

 

馬塲 貴子 

 

 

 
 

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