( 230666 ) 2024/11/06 15:21:36 0 00 記者会見する国民民主党の玉木代表=10月28日午前0時19分、東京都新宿区(写真:共同通信社)
(渡辺 喜美:元金融担当相、元みんなの党代表)
■ 朝5時過ぎに叩き起こされたあの騒動
【写真】「いい湯だな」の時代もあったみんなの党。自ら築いた「第3極」の解党をめぐり、報道陣の前で鬼の形相で抗議する渡辺喜美氏
「すぐに上京して欲しい」と朝5時過ぎに叩き起こされ、おっとり刀で上京したのが2017年9月17日。翌日が敬老の日で地元の敬老会をハシゴするのが恒例行事だったが、全てキャンセルした。
安倍晋三総理が衆院解散を決意したとNHKニュースは報じていた。
「希望の党」(2017年9月25日結党)の立ち上げを急がねばならん、と様々なシミュレーションをしながら都内の密談場所にたどり着いた。
聞けば、小池百合子東京都知事サイドが前原誠司民進党代表に投げていた「合併」話が上手くいきそうだという。これはヤバいと思った。
新進党以来、「切り貼り新党」が成功した試しがないからだ。私は民進党議員のネガティブリスト作成にとりかかった。
「小池さんは新進党のお化けに取り憑かれたな」と感じた。その2カ月前、小池知事は、自ら率いる「都民ファーストの会」が連合の組織内候補者を含む公認候補を多数当選させた実績がある。公明との連携も上手くいき、自公分断に成功した。
自民離党組(新生党など)・民社党・公明党・日本新党などを糾合した新進党の再来を彷彿とさせるものだった。小沢一郎氏が実質主導し、統一比例名簿のもとで創価学会や連合の全国組織を利用しながら再度政権交代を目指す試みは、3年で頓挫する。
国民が選挙(票)目当て、政党交付金(カネ)目当てに作られた「不純な政党」であることを見抜いてしまったからだ。
政党は「誰と組むか」の前に、「何をやるか」が大事である。
原理原則、理念と政策の一致は政党のバックボーン。その上で選挙ごとに大きくなる「純化路線」こそ王道だ。
■ 国民民主党は「第三極」?
「『排除されない』ということはございませんで、排除いたします。……安全保障、憲法観といった根幹の部分で一致していることが政党としての必要最低限のことと思います」
これは「排除発言」として有名になった小池さんの言葉。
新党「希望の党」結党時の記者会見(2017年9月29日)で、前原誠司代表の「民進党」を丸ごと吸収するのではなく、国家観で選別するという政党としては当然のことを言ったまでだ。
しかし、右と左から猛攻撃を受け、世論は上から目線の小池発言に猛反発。希望の党は急速に勢いを失い、「排除された」枝野幸男氏らの作った立憲民主党が直後の総選挙では大躍進。野党第1党となった。
私に言わせれば、「排除論」が原因ではなく、「民進丸ごと、所属議員は漏れなく希望の党に入れる」との姿勢を示した神津里季生連合会長に乗ったことが問題だったのだ。
希望の党は公示前の57議席から50議席にダウン。この時、希望の党で当選したのは、細野豪志・長島昭久の両氏(現自民)、泉健太・小川淳也の両氏(現立憲)、玉木雄一郎・古川元久の両氏(現国民民主党)ら旧民主党系が圧倒的であった。
小池さんは都知事を辞める気はなく、いきなり総理を狙っていたわけではないが、第2党どころか第3党になってしまった。
総選挙後の希望の党議員総会は大荒れに荒れた。小池さんは嫌気がさしたのか、共同代表を選ぶこととなり、玉木雄一郎氏と大串博志氏が代表選に立ち、玉木さんが圧勝した。
その後、希望の党はテクニカルな分党などの手続きを経て、自然消滅。玉木代表の率いる国民民主党(略称・民主党)は自動車・電力・ゼンセン・電機・金属などの民間労組を支持母体とした昔の「民社党」と同じような立ち位置となった。
結果として民進党は解体され、連合は事実上、分断された。
私の理解では、「第三極」とは「自民でもない」、「民主でもない」ダブルヘイターの受け皿で基本「しがらみがない」ことが特徴である。その意味では国民民主党は第三極ではない。
今回、国民民主党が大ブレークした背景は何か。
■ アベノミクスでも苦戦した「手取りを増やす」が響いた
アベノミクス下でも増大した国民負担率を引き下げる「手取りを増やす」という公約が、若者の心をとらえたこと。雇用も増え、給料も増えたが、税や社会保険料も増え、物価高が追い討ちをかける状況に苦しんでいたのだ。
安倍内閣当時の2015年度と比べても実質可処分所得はマイナスになっている。
私は安倍さんが総理の時に直接申し上げたことがある。「アベノミクスで国民所得が上がっても税や保険料の負担がそれ以上に上がったら、アベノミクスは失敗に終わりますよ」と。
「たまきチャンネル」はじめ玉木さんのSNSでの発信は、自民党ほどカネはかけていないが、理路整然として分かりやすく、効果が高かった。
労働組合が支持母体という「しがらみ」イメージを感じさせなかった。それが証拠に比例票は前回より358万票も増えた。
石破さんの農村部・高齢者向けの自民党先祖返りアピールとは逆に、都市部・若者・パート労働者向けアピールが際立った。
何よりも「実質可処分所得がマイナス」という問題の解決を目指して、15種類ある所得控除の中で給与所得者全員に適用される基礎控除の引き上げ等の具体策を示したことが大きい。
「働き控え」回避のため最低賃金の伸び率に合わせて年収の壁を178万円に引き上げる案は、主婦・扶養家族・学生で違いは出てくるものの、合理性と実現可能性がある。
■ 理屈・屁理屈・腹話術を駆使する財務省
ただ、キャスティングボートを握ったとは言え、ことはそう簡単ではない。103万円の壁を突破するには、財務省の壁を突破しなければならない。
「物価上昇率で計算すべき」、「高所得者ほど有利になる」から始まって理屈・屁理屈・腹話術を駆使し、政・財・学・マスコミ界への刷り込み工作を特技としている人たちの作る壁は、結構高い。
既に、「バラマキ玉木」というキャッチが出回っている。
ちなみに、最賃上昇率だと7兆~8兆円減税になるのが、物価上昇率で計算すると、恐ろしくショボい減税になって、約1.1兆円となる。
玉木さん自身、百も承知の世界なので、返し技で逆襲したら良いと思う。
自民・菅副総裁―国民・榛葉幹事長のルートもあるらしいが、菅さんは積極財政派なので良い線いくのではないか。
■ 「いい『湯』だな」と浸っていられない
与党・野党の関係は、是々非々は「や党」、部分連合は「ゆ党」、閣外協力は「よ党」、閣内協力は「連立よ党」という具合に「や・ゆ・よ」の段階がある。今の玉木さんは「いい『湯』だな、ハハハッ」だろうと想像する。
今後、年末にかけて予算と税制はワンセットなので、自民は玉木さんに対し常設の協議機関を提案するだろう。これはアドホック(臨時的)にやった方が良い。
常設協議は「与党国対入り」を意味するし、近づき過ぎてレバレッジを削ぐことになりかねない。
この際、「ゆ党国対」を維新の会と共に立ち上げ、立憲主導の「野党国対」とは別途、自公と対峙すべきだと思う。
「法案を揚げてなんぼの天ぷら屋」と言われる国対政治を転換するきっかけになったら凄い。国対政治こそ国会が霞が関の下請け機関に成り下がった元凶だからである。
国対を廃止し、議員運営委員会一本に絞っても良い。そもそも国対は議運でカネを配ると国会議員の職務権限の対価にあたり、贈収賄に問われることから、党の機関同士でカネを流しても犯罪にならない仕掛けとして作られたものだ。とにかく変な慣行を維持している。
今はカネがやり取りされることはないが、昔、野党の国対委員長は政調会長よりも偉く、一旦なったら辞めないのが普通だった。
玉木さんは維新と共に国会改革のレバレッジも持っている。
■ 「ゆ党」でいけば飛躍は確実
少なくとも来年の参議院選挙までは国民民主党は「ゆ党」路線で行くべきだ。自公と距離感を保ちつつ、「政策の実現」に実績を残せれば、「政治はレバレッジだ」と国民も気づき、参議院選挙でも玉木さんに期待が集まると確信する。
立憲がオールド民主党に逆戻りして人気が出ないのは明らか。ここは更なる飛躍のチャンスだ。
自民は過去の経験から野党勢力の「一本釣り」を始めるだろう。既に、非公認組4名+三反園訓(元鹿児島県知事)+広瀬建(元大分県知事次男)の6名に加え、鉄板の無所属組6名に触手を伸ばしているとの情報もある。
ガタガタになった維新も、無論、ターゲットである。自民党の霞が関と結託した組織防衛本能をみくびってはいけない。
自民系無所属に12名加えると233議席となり、国民民主党のレバレッジを削ぐことができるのだ。
自民候補と熾烈に戦って勝ち残った非自民議員に「腐っても鯛」のブランドは、結構甘い蜜になることがある。
国民民主党は私の定義では「第三極」ではない。しかし、玉木さんは、明らかに第3極のイメージで、衆議院の完璧なキャスティングボート勢力を作った。
みんなの党が2013年の参議院選挙で18議席を確保(自民は過半数に8議席不足、公明の20議席に依存)し、「影のレバレッジ勢力」となったのとは大違いだ。
私は日本の成長経済を取り戻すため、消費増税を先送りするテコの原理を考えた。しかし、増税は野田佳彦政権でタガが嵌められており、絶対、表沙汰にできない話だった。
表でチャンスが訪れたのは特定秘密保護法案。安倍官邸から修正案の提示を求められた。みんなの党の正式決定として修正案を作った。
当時、第一次安倍内閣の安倍さん・菅義偉さん・塩崎恭久さんと私の4人で年に2~3回、談論風発「Abbey Roadの会」をやっていた。ビートルズのアレだ。
2013年11月、そこで修正案を提示した。次の日から修正協議が始まり、瞬く間にみんなの党案が採用された。
私と安倍さんとの個人的信頼関係は良好だった。後日聞かされたことだが、安倍さんは連立の組み替え(自公+みんな)も考えていたという。
増税延期の「政策実現」を私は優先した。しかし、自民と戦う次の選挙を優先するみんなの党議員の内部対立は日増しに激しくなり、とうとう分裂にいたる。
「政策の実現」や「誰と組むか」の前に「何をやるか」が大事だ、と今でも思っている。
■ 党内の仲間たちは選挙で自公議員と戦っている
ただ、政策の実現は秘密裏にやろうすると、次の選挙とトレードオフ(競合)関係になることがある。両者のバランスは党首の「ワザ」にかかっている。
今にして思えば、かなりナローパスの政策実現を優先し過ぎてしまったことを反省している。
玉木さんには次の選挙で自公と戦う仲間のことを片時も忘れないで欲しい。
そして、表で堂々とキャスティングボートを行使できる立場を十二分に発揮してほしい。
もし、石破さんが野田立憲と大連立もしくは大「部分連合」カードで妥協を迫ってきたら、思いっきり蹴飛ばすことだ。
石破内閣が継続するとすれば、年末に向けた予算と税制の次は参議院選挙を控えて「政治とカネ」が蒸し返されることは必至。企業団体献金の禁止に国民民主党が踏み込むのか否か。
玉木代表は「野党一致して出すのなら賛成」としながら、「参議院を通るか否かも判断基準にある」と報道されている。こんなことで不評を買うのは避けたい。
通常国会会期末は不信任案も出て来るし、石破内閣であれ他の政権であれ、衆参ダブル選挙を仕掛けないと局面は打開できない。
みんなの党は「純化路線」を目指した。「切り貼り」でなく、選挙ごとに大きくなる路線だ。
みんなの党は「触媒」を目指した。自らは変わらないが、周りのものの化学変化を促進するプラチナのような存在だ。
玉木さんと国民民主党は既に強烈な触媒効果を発揮しており、来年の選挙で衆参共にキャスティングボートを握り、「や・ゆ・よ」の選択をした方が良いのではなかろうか。
とにかく「純化路線」が大事だと、老婆心ながら申し上げたい。
渡辺 喜美
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