( 230891 )  2024/11/07 01:42:34  
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自らの失職による知事選で再選を目指す斎藤元彦氏 

 

 兵庫県知事選(11月17日投開票)の選挙戦で、前知事の斎藤元彦氏の集会が盛況だ。そもそも斎藤氏のパワハラや「おねだり」など数々の疑惑が内部告発で噴出し、県議会が全会一致で斎藤氏に不信任決議を突きつけた末の知事選なのだが、なぜか斎藤氏の“追っかけ”のような女性ファンも現れるほどの人気になっている。 

 

【写真】ものすごい人だかり! 斎藤氏の演説を聞く人たち 

 

 告示日の10月31日、斎藤氏は神戸市の繁華街で出陣式を行った。午前9時半頃に斎藤氏が現れると、大きな拍手。若い女性が多く詰めかけているのが目立つ。斎藤氏は選挙前から駅頭などで街頭演説をしていたが、そこに何度も足を運ぶ、斎藤氏の“追っかけ”のような女性もいた。 

 

「今回の文書問題で、県民の皆さまにご心配をおかけして申し訳ございませんでした。前回の知事選挙は多くの政党の支援をいただきました。今回は1人からのスタート。JRの駅で最初に街頭活動した時、自分自身も怖かった。だが、『メディアの報道に負けるな』という声をいただきました。県議会からの不信任決議、いろんな政党、政治家が『斎藤に(知事を)させるわけにはいかない』と、そんな声もあった。斎藤か斎藤以外か。私は絶対に負けるわけにはいかない」 

 

 などと斎藤氏が訴えると、大きな拍手が沸き上がった。 

 

 出陣式の人出について陣営では、 

「1千人とはいかないが、800人くらいは来ているのでは」 

 と言ったが、スペースの大きさから、せいぜい300人ほどだったろう。それでも悪評が噴き出ていた斎藤氏の出陣に、よくこれだけ人が集まったものだと感じた。 

 

■立候補しながら斎藤氏を応援するN党・立花氏 

 

 演説後、斎藤氏は自ら掲示板に選挙用のポスターを貼って、選挙カーに乗り込み、次の場所へ移動。するとそのすぐ後に、同じ場所にやってきたのが、「NHKから国民を守る党」党首で、やはり知事選に立候補している立花孝志氏だった。 

 

 立花氏は大歓声の中でマイクを持つと、自らへの投票を呼び掛けるのではなく、 

「斎藤さん、圧勝しないといけない。斎藤さんは正しいから、謝りませんでした」 

 などと、斎藤氏への投票を呼び掛けた。 

 

 

 NHK党は7月の東京都知事選で24人を擁立し、選挙ポスターの枠を、党に寄付した人に事実上販売。このため裸の女性の写真など、選挙に無関係なポスターが大量に張られ、物議を醸した。 

 

 兵庫県知事選でも立花氏が記者会見で、 

「知事選に10人、候補者を出したい」 

 と話したことで、県選管は掲示板を増設することになった。 

 

 結局、立候補したのは立花氏だけ。しかも、自らの当選ではなく、「斎藤氏をサポートしたい」と選挙運動を繰り広げる。妙な選挙戦だが、その影響力はばかにならない。 

 

 立花氏のYouTube登録者数は60万人超。500万回視聴を超える動画もあり、その発信力はすさまじいものがある。斎藤氏と同じ場所で出陣の第一声を挙げることで、斎藤氏の演説に多くの人が集まった可能性がある。 

 

 斎藤氏の選挙戦2日目を取材すると、初日と異なり、あまり聴衆がいなかった。出陣式の熱狂は何だったのか。ネットには斎藤氏が演説会の動員にアルバイトを使っているのではないかと疑問視するSNSへの書き込みがあったが、初日は動員をしたのか、それとも立花氏目当てだったのか。 

 

■動員が難しい淡路島でも大勢の聴衆 

 

 斎藤氏の人気を確かめるため、選挙戦最初の日曜日である11月3日、淡路島での斎藤氏の演説を聞いた。淡路島は人口12万ほどで、離島でもあり、アルバイトなどを動員するのは難しいと思われたためだ。 

 

 洲本市のショッピングモール前での斎藤氏の演説には、日曜日でイベントが開催されていたこともあってか、たちまち人が集まってきた。200人ほどはいそうな感じだ。中には洲本市の市議会議長の姿もあった。 

 

 次に斎藤氏は「道の駅」近くに場所を移してマイクを持った。聴衆は100人を超えるくらいだが、都市部とは違って車がないと行けない場所で、よくもこれほど集まったと思えた。 

 

 普段、演説で感情をあらわにしない斎藤氏だが、このときは力強い言葉で訴えた。 

 

「鋼のメンタルと言われるが、そんなことではない。知事を失職後、街頭活動をはじめた。どういう反応があるのか、日本中が斎藤は悪者、とんでもないという報道が過熱する中で、立ちました。怖かった、石を投げられ、殴られるのかと怖かった。県議会、メディアなど斎藤元彦をひきずりおろそうとするいろんな力に負けないで頑張ります」 

 

 

 来ていた人たちに聞くと、多くの人がSNSで演説の情報を得て来たという。 

 

 同じ日の夕方、斎藤氏は神戸市北部に移動し、神戸市営地下鉄・名谷駅前に立っていた。斎藤氏がマイクを握ると、商業施設の2階通路まで人で埋まり、大きな歓声がバスターミナルにこだましていた。 

 

 ここでは出陣式でも見た人物が数人、確認できた。斎藤氏の訴えに呼応して、絶妙のタイミングで、 

「そうだ」 

 と声をあげるシーンもあった。 

 

 動員なのか、熱烈なファンなのか。話を聞こうと思ったが、人込みの中で見失ってしまった。 

 

 斎藤氏はSNSを駆使した選挙戦を展開している。LINEアカウントを開設して、写真提供や投稿を呼び掛けている。斎藤氏陣営のボランティアは首からQRコードがついた紙を下げて、LINEへの登録を呼び掛けていた。斎藤氏の演説にも、 

 

「ハッシュタグ、斎藤知事頑張れ、斎藤知事負けるなというトレンドが続いている」 

 

 というフレーズがあった。 

 

■斎藤氏は「動員はまったくない」 

 

 都知事選では、元広島県安芸高田市長の石丸伸二氏がSNS戦略で支援を広げたが、その戦略とそっくり。聴衆の熱気や雰囲気も似ている。 

 

 斎藤氏を直撃して聞くと、こう話した。 

 

「たくさんのご支援はとても嬉しい。(聴衆の)アルバイト動員とか、まったくない。(N党の)立花氏とは面識がなく、こちらから声のかけようもない。SNSはスタッフがやってくれている。石丸氏を意識? いや、わからないが、支援の輪がSNSで広がっているのは、ありがたいことです」 

 

 知事選に立候補しているのは、斎藤氏、立花氏のほか、前参院議員の清水貴之氏、前尼崎市長の稲村和美氏、医師で共産党推薦の大沢芳清氏、レコード会社経営の福本繁幸氏、会社経営の木島洋嗣氏。過去最多の7人の争いとなっている。 

 

■自民党の中からも斎藤氏支援の動き 

 

 この知事選で自民党と公明党は自主投票の方針を決めているが、自民党議員らは稲村氏や清水氏、そして斎藤氏を支援する動きを見せている。 

 

 稲村氏は、自民党の一部が支援するほか、立憲民主党や国民民主党、連合が支援している。稲村氏の出陣式には自民党の松本剛明元総務大臣や国民民主党の向山好一衆院議員、県内首長や県議らが応援に駆け付けていた。 

 

 清水氏は「日本維新の会」を離党しての出馬だが、実際には維新の議員が支援するほか、神戸市の自民党市議団が清水氏を支援する方針を明らかにしている。 

 

 そして斎藤氏についても、自民党の明石市議らが支援を表明している。 

 

 選挙戦前のメディアの情勢調査などでは、稲村氏、清水氏、そして斎藤氏が、他の候補をリードしているとみられていた。 

 

 淡路島で斎藤氏の演説を聞いていた地元市議に聞くと、こう話した。 

 

「聞くところでは、稲村氏がリードしていて、斎藤氏だけはアカンという話だったが、実際に見てみると印象が違う。SNSなどの斎藤氏の人気はヤラセかと思っていたが、淡路島の田舎で動員なんてかけようがない。これはほんまもんかもしれない」 

 

 稲村氏の陣営でも、こんな話を聞いた。 

 

「斎藤氏の街頭での人気ぶりは伝わっている。正直、うちが本命という意識はあったが、これはちょっと違う。県民の意識が『斎藤氏は悪人』から、変化しつつある。悪名は無名に勝るや」 

 

 自らの疑惑によって失職した斎藤氏だが、ネットを駆使した選挙戦で“石丸旋風”の再来を起こし、まさかの再選を果たすことがあるのだろうか。 

 

(AERA dot.編集部・今西憲之) 

 

今西憲之 

 

 

 
 

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