( 231021 ) 2024/11/07 14:35:00 0 00 記者会見する立憲民主党の野田代表=1日午前、国会(写真:共同通信社)
(尾中 香尚里:ジャーナリスト、元毎日新聞編集委員)
■ 「2強多弱」に変化した国会
【表】過去5回の衆院選での主要与野党の獲得議席推移。今回148議席を獲得した立憲民主党は明らかに階段を一つ上った
10月27日投開票の衆院選で148議席を獲得し、大きく躍進した立憲民主党。3年前(2021年)の前回選挙(96議席)から50議席以上を増やし、自民・公明の政権与党を過半数割れに追い込む戦果を挙げた。
メディアやネット上では相変わらず「立憲下げ」をやりたい勢力が、左右(この言葉は好きではないが)ともに多いようだ。
選挙結果の中からあらを探して「比例票が伸びていない」などと主張し、立憲の躍進を過小評価しようとする。あるいは、立憲より120議席も少ない野党第3党・国民民主党を無理やり持ち上げ、選挙結果の印象を大きくゆがめようとする。
だが、どんなに目を背けようとも、今回の選挙結果が示したことは明白だ。国会の構図が自民党の「1強多弱」から、自民党と立憲民主党を軸とする「2強多弱」へと明確に変化した、ということだ。
単に構図が変化しただけではない。
自公が過半数割れしたことによって、これまでの「自民党が多数派の横暴で全てを決定し、少数派の野党をなぎ倒した『決めすぎる政治』」が、第2次安倍政権の発足以来12年を経て、ようやく終焉を迎えることになる。
立憲民主党は明らかに、一つの階段を上った。この状況を踏まえ、立憲には「政権を担い得る政治勢力」としての新たな振る舞いが求められる。
■ 野党第1党としては現制度下で歴代第3位の議席数に
民主党が野党に転落し、第2次安倍政権が発足した2012年の衆院選。政権与党に返り咲いた自民党が獲得した議席は294、野党第1党に転落した民主党の議席は57と、目も当てられない大差がついた。
さらに、新興勢力として野党第2党となった日本維新の会は、54議席を獲得した。
与党と野党第1党の議席差が5倍以上の237議席に開き、一方で野党第1党と第2党の議席差はわずか三つ。野党の中核が見えなくなり、野党内の力関係は「どんぐりの背比べ」と化した。「1強多弱」時代の始まりだった。
この選挙から数えて今回の選挙まで、衆院選は計5回行われている。
この間の自民党の議席数の推移をみると、2012年294議席→2014年290議席→2017年284議席→2021年261議席と議席を減らし続け、そして今回、ついに191議席という「与党過半数割れ」に至った。
一方、野党第1党は2017年の「希望の党騒動」で、プレーヤーが民主党から立憲民主党に交代した。
議席数の推移は2012年57議席(民主)→2014年73議席(同)→2017年55議席(立憲)→2021年96議席(同)、そして今回の148議席(同)となる。
立憲は結党以降3回の衆院選で、毎回40~50議席レベルで議席を伸ばしてきた(このように見ると、2021年衆院選後の「立憲惨敗」の評価が、いかに的外れだったかも分かる)。
そして、今回立憲が獲得した148議席は、衆院に小選挙区比例代表並立制が導入されて以降の野党第1党の獲得議席数としては、2003年の民主党(177議席)、1996年の新進党(156議席)に次ぐ第3位の記録である。
2012年時点で237あった自民党と野党第1党の議席差は、今回の選挙で43にまで縮まったのだ。
■ 国会を動かすリアルな力を得た立憲
野党第1党と第2党の議席差も大きく変わった。
前述したように、2012年の野党第1党・民主党と、野党第2党・日本維新の会の議席差は、わずか三つだった。「野党第1党と第2党の入れ替わり」は、この時点では一定の現実味があった。
しかし、維新の衆院選での議席数は、実はこの選挙がピークだった。
維新はその後、2014年44議席→2017年11議席(野党第2党は希望の党の50議席)→2017年44議席、そして今回の38議席となる。立憲との議席差は、110議席と大きく広がった。
自民党と野党第1党たる立憲民主党の議席差が大きく縮まり、一方で野党第1党の立憲と第2党の維新の議席差は大きく広がった。
少なくとも立憲が「1強多弱」から抜け出し、自民・立憲を軸とする「2強多弱」時代が幕を開けたのは間違いない。
これを認めたくない識者やメディアは、28議席と議席を伸ばした(それでも維新よりさらに10議席少ない)国民民主党の「躍進」にすがっている。だが、国会が動き出せば、そんな状況は大きく変わるだろう。
国会を動かすリアルな力は、あくまで「議席数」だ。
議席を大きく増やした立憲には、衆院の常任委員会や特別委員長のポストが、多く与えられる。
本会議の議事日程などを決める議院運営委員会や、国会の「花形」と呼ばれ、予算案の扱いを決める予算委員会で立憲が委員長を握れば、自民党はこれまでのように「多数の横暴」で議事を押し通すのは難しくなる。
立憲が委員長を握った委員会では、これまで自民党にたなざらしにされてきた野党提出の議員立法が審議される可能性も出てくる。
例えば、立憲が衆院法務委員会の委員長を握れば、選択的夫婦別姓を導入する民法改正案が国会で審議され、野党に加えて自民党の一部からも賛同者が出て成立する、といったことも、可能性としては起こり得るのだ(さすがに自民党はそれを避けようとするだろうが)。
自民党は「国民民主党を抱き込んで連立の枠組みを拡大すれば、これまで通り与党の思うがままに国会運営ができる」という状況ではなくなっている。
そんな「古い政治」は通じない。いやでも立憲を中心とする野党勢力の主張に耳を傾け、丁寧な国会運営をせざるを得ない。
国会の風景が変わるのだ。
■ 「政権を担える勢力」としての使命は大きくなっている
だからこそ、立憲の責任は重大である。
実は筆者は、今回の選挙結果を受けて「自民党の下野、立憲への政権交代」まで起こすことは、まだ必要ないのではないかと考えている。
148議席という数は、安定した政権政党となるには、正直まだ心もとない。
それに、立憲が理念も基本政策も違い、政権運営への責任感も持たない中小政党を無理やり結集させて、一時的に過半数を得て政権を奪取したとしても、衆参で「ねじれ」となる国会を安定して運営するのは難しく、政権は早晩瓦解するだろう。
「非自民」勢力の目指すものがバラバラで、まともな政権運営ができなかった「平成の政治」を繰り返しかねない。
むしろ立憲は、国会の主導権を一定程度取り戻したことを、いかに政治的に有効に使うかを考えるべきだ。
政権監視と批判はもちろん重要だ。それが野党の役割だからだ。
自民党の石破政権は、裏金事件への対応をはじめ、批判されるべきことを山ほど抱えている。「批判ばかり」とやゆされても、ここは決して手を緩めてはいけない。
だが、立憲は今回の選挙の結果「自民党に代わる政権の担い手として期待される存在」であることを、明確に認知された。その期待に応える使命は、以前にも増して大きくなっている。
■ 有権者の批判は「変えられない立憲」にも向かう
立憲は今回の選挙で「政権に協力して自分たちの政策を取り入れてもらう」のではなく「国会の論戦を通じて政権と五分に渡り合い、自らの政策を実現させる」ことが不可能ではない立場を得た。この機会にぜひ「熟議の国会」を取り戻してほしい。
国会での質疑。議員立法の提出。あらゆる手を尽くして、自民党とは違う立憲自身の「目指す社会像」を、国会という「表」の場で示してほしい。
弱肉強食の新自由主義の社会を終わらせ、格差是正で「ぶ厚い中間層」を復活させる、という党の理念に沿って、自民党を揺さぶってほしい。
そして、野党であっても「国会を通して」政権与党に譲歩を迫り、政治を一歩でも前に動かせることを見せてほしい。
「有権者の一票で政治は変わり得る」ことを形にするのが、野党第1党として躍進を果たした立憲の責務である。
今回の選挙で自民党が比較第1党を得たのは、民意は自民党に「即刻下野せよ」とまでは考えなかった、ということだろう。
だが「与党過半数割れ」という歴史的な結果は「自民党政治に大きな変化を起こしたい」という有権者の意思の表れでもある。にもかかわらず石破政権は「さて選挙も終わった、ここからはまたいつも通りの政治だ」とタカをくくっているようにさえ見える。
有権者の一票によってこれだけ劇的な選挙結果がもたらされたにもかかわらず、政治に何も変化が起きなかったとしたら、その時こそ有権者は本当に政治を見捨て、投げ出してしまうだろう。
その批判は「変わらない自民党」だけでなく「変えられない立憲」にも向かうはずだ。
野田佳彦代表はじめすべての党関係者は、そのことをゆめゆめ忘れてはいけないと思う。
尾中 香尚里
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