( 231146 ) 2024/11/07 16:58:19 0 00 アマゾンは日本の物流にどのような影響を与えるのか(出典元: Bilanol / Shutterstock.com)
今やアマゾンは日本社会において欠くことのできない企業の一社であり、その社会的責任は極めて大きい。しかし、企業のエゴを突き通そうとすると、「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシスを加速させ、日本社会をさらに疲弊させかねないと懸念する。事実、都市部にあるタワーマンションでは、配達に多大な手間と時間がかかるため、タワマン地獄として問題視されている。政府が「物流革新」政策に本腰を入れて推し進める中、アマゾンは善良なる仲間なのか、それとも日本社会に害を及ぼす存在なのか。今、その真価が問われている。
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筆者が2024年に入ってから出演したニュース・情報番組には、視聴者から、宅配に対するさまざまな不満が寄せられていた。置き配を指定していないのに、勝手に置き配されてしまう件。在宅していたのに、勝手に不在扱いにされて、不在票だけが残されている件──。
先日、友人からもこんな話を聞いた。Amazonで商品を購入した際、本人の承諾なく購入商品が置き配されていたのだが、驚くのはその場所。友人が住むマンションのオートロック前に置き配されていたのだ。
常識的に考えれば、これは置き配ではなく、単なる放置である。ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の宅配大手3社のドライバーであれば、ミスと言うのもおこがましいこういった不始末はほとんど起こさないだろう。
なぜ、このようなことが発生してしまうのか?
根本的な原因は、アマゾンの自前物流にある。宅配大手3社のうち、アマゾンはヤマト運輸、佐川急便からはすでに見限られており、今やアマゾンの配送を担うのは、日本郵便だけである。こういった背景もあり、アマゾンは自前物流網を強化している。
アマゾンにおける自前物流の主流を成すのは以下の3つである。
・Amazon Flex アマゾンから業務委託を受けた貨物軽自動車運送事業者(軽バン配達員)が配達を行う。その大半は個人事業主と推測される。 ・Amazonデリバリープロバイダ アマゾンから業務委託を受けた運送会社が配送を行う。実配送は運送会社社員が行うこともあれば、さらに個人事業主の軽バン配達員が下請けとして実配送を担うケースもある。 ・Amazon Hub デリバリーパートナープログラム 街の飲食店や事務所で働いている人が、空き時間を利用して配送業務を行う。
先述の不始末の多くは、大手宅配3社のドライバーではなく、個人事業主の軽バン配達員、アマゾンで言えば、Amazon Flex、あるいはAmazonデリバリープロバイダの下請けとして働く軽バン配達員が、起こしているものと思われる。
では、問題は個人事業主の軽バン配達員にあるのだろうか。
以前、筆者の自宅に、違う人宛ての商品をアマゾンから誤配されたことがあった。アマゾンに連絡したところ、誤配された商品は捨ててくれと言われた。
調べてみると、よほど高価な商品でない限り、「誤配=誤配先での廃棄」というのがアマゾンの第一対応であり、希望者のみ日本郵便で回収を行うらしい。「誤配したドライバー当人に回収させればいいじゃないですか?」と聞く筆者に、カスタマーセンター担当者は、さらに驚くべきことを言った。
・配達ドライバーとの契約上、誤配回収は契約外行為になるので、行わせることができない。
同様に、誤配に関する事情聴取なども、契約外行為なので行えない。
「ということは、誤配をしたドライバーは、自分自身が誤配をした事実すら知らされないということですか?」、驚いて尋ねる筆者に、カスタマーセンター担当者は「その通り」だと答えた。
そうなると、冒頭に挙げた「マンションのオートロック前に置き配をした」ドライバーも、そのミスをフィードバックされないのだろうか? 誰しも、誤りは犯すものである。誤った行動から学び、成長するのが人である。その成長の機会を与える責任がアマゾンにはあると思うのだが、アマゾンの考え方は違うのだろうか?
それだけでない。アマゾン配達員が受けるアマゾンからのプレッシャーも問題視されている。
こんな話をご存知だろうか。「マンションの宅配ロッカーを、アマゾンの配達を担う軽バン配達員がキープしている」という話だ。いわく、暗証番号式の宅配ロッカーについて、仲間内で暗証番号を共有することでキープしているというのだ。
アマゾンは、配達員に対しシビアな効率性を求める。不在持ち帰りが多いアマゾン配達員は評価が下がるし、歩合制報酬(注)で働くアマゾン配達員の場合は、収入も減ってしまう。これをを恐れる一部の不埒なアマゾン配達員が、宅配ロッカーをキープしているのだ。勝手に置き配されてしまうケースも、同様の理由と考えられる。
注)
軽バン配達員は「配送した荷物1つ当たり」の歩合制報酬で働いている人が多いが、最近ではAmazon Flexを含め時間制報酬の採用が増えている
さらに言えば、アマゾン配達員は、不在持ち帰りの割合が基準を超えると、クビにされるという話も聞かれる。この話が本当なら、割合の基準も不明な中で、アマゾン配達員は目に見えぬプレッシャーを常に感じながら働かざるを得ない。
当然ながら、宅配ロッカーを不正にキープするというのは、非常識だし、倫理観に欠けた行為である。
だがこの背景には、軽バン配達員等に対するアマゾンの冷淡な態度や過剰なプレッシャーがあり、勝手な置き配や宅配ロッカーの占拠といったモラルハザード(倫理観の欠如)の温床となっているのだろう。アマゾン配達員によるユニオン系労働組合とアマゾン側の主張の応酬を見ていると、筆者の推測は間違っていないと思う。
アマゾンのこういった行動や態度は、どういった課題を引き起こすのか?
課題の1つは、今後、ラストワンマイル配送(※物流センターから最終配達先への配送を担う、比較的短距離の配送のこと)の担い手として期待される貨物軽自動車運送の発展と拡大に冷や水をかけかねないことだ。
現在、「物流の2024年問題」によって長時間労働ができなくなった(=収入が減った)トラックドライバーが独立起業したり、あるいは副業、あるいは多種多様な働き方を求める人たちが、軽バン配達に流入することでその数が増えている。
(貨物軽自動車を除いた)事業用貨物自動車の保有台数は、2021年で100万4000台と、2016年比で6.2%増加した。一方で、事業用軽貨物自動車は2016年から2021年で31.4%も増え、現在は28万8226台となっている。
対して、宅配便の取り扱い個数は、2016年に40億1900万個、2021年には49億5300万個である。増加率は23.2%であり、事業用軽貨物自動車の増加率と比べ、8ポイントのかい離がある。
一見すると配達員が過剰に増えているように思われるが、実は、国土交通省が集計している宅配便取り扱い個数には、アマゾンやヨドバシドットコムなど、一部のEC・通販事業者が行う自前物流の取り扱い個数は含まれていない。
だからこそ軽バン配達員への期待は大きい。EC・通販のマーケットは今後も拡大し続けることが予測されることから、ラストワンマイル配送の担い手として期待される貨物軽自動車運送事業は、戦略的に大切に育成することが必要である。
にもかかわらず、軽バン配達員における仕事の選択肢の中で間違いなく大きなウエイトを占めるアマゾンが、軽バン配達員を酷使し、使い捨てにすることを続けていれば、いずれ軽バン配達員の成り手は減っていくだろう。
あえて厳しい言い方をすれば、この成長分野をアマゾンに潰されてはたまったものではないのだ。
政府が推し進める「物流革新」政策では、2024年度中に再配達率を現状の11%台から6%へと半減させることを目標として掲げている。そのための施策として、置き配の推奨や、宅配ボックスの拡大などのさまざまな施策に取り組んでいる。
だが、もし冒頭で述べたように「置き配を指定したら、マンションのオートロック前に置かれてしまった」などということが増えたら、むしろ置き配を嫌がる人は増えるだろう。つまり、再配達の削減や置き配の拡大といった物流クライシス対策には、配達ドライバーの質の向上が必須なのだ。
少なくとも、配達員にミスを知らせないといった今のようなやり方をしていたら、アマゾンの配達を担う軽バン配達員の質が向上するわけがない。
また、アマゾンが日本市場における配達に関する各種実績データを非公表にしていることも大きな課題だ。なぜなら、政府の物流革新政策のかじ取りにもミスが生じる可能性が高いからである。日本におけるアマゾンの自前物流規模は、予想以上に大きいかもしれないのだが、これが分からない。
米国におけるアマゾン自前物流による2022年の配送件数は約59億個だった。これは、米国宅配大手のUPS(約53億個)、FedEX(約33億個)を上回る。また2023年、アマゾンの当日および翌日配送件数は、米国内で40億個以上、全世界で20億個以上、総数は70億個を超えたという。
となると、日本国内でもアマゾンによる自前物流の取り扱い個数は、ヤマト運輸(2023年:22億9600万個)には及ばずとも、佐川急便(2023年:13億7300万個)、日本郵便(9億8000万個)を超えている可能性も否定できない。
これだけの配送規模を持つアマゾン自前物流の実績データが隠され、「物流革新」政策に反映されていないとすれば、当然政策のミスリードを起こす(あるいは、「起こしている」)可能性がある。
アマゾンは、政府が開催する、物流関係の研究会やワーキンググループにこれまで出席してこなかった。2023年あたりから、出席者名簿に名前を見るようになってはきたものの、その発言等は非公開になっている。
アマゾンが、その巨大なビジネス規模や、日本社会への影響を意図的に隠すことで、規制や世論の反発などをかわそうと考えているのではないかと邪智するのは、筆者だけではあるまい。
実は本稿執筆にあたり、筆者はアマゾンへの取材を申し込んだが、完全に無視されている。だから、本稿は筆者の推測だらけである。
本稿の指摘に対し、間違いがあるというのであれば、ぜひアマゾンは(筆者の取材に応じなくとも)世間に対し、その証となる数字とともに反論してほしい。
アマゾンは、日本社会にとって善良なる仲間なのか、それとも自らの欲望のままにマーケットを食い荒らすイナゴなのか?
2019年、アマゾンは「世界で最も影響力のある経済的・文化的勢力の1つ」に選ばれたが、その影響力が日本社会にネガティブに作用する存在でないことを、切に願う。
執筆:物流・ITライター 坂田 良平
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