( 231861 )  2024/11/09 17:09:31  
00

マイワシ(写真:筆者提供) 

 

 「水産資源の話を聞いて、日本が魚をとりすぎて魚がとれなくなっていることにびっくりした」 

 

【画像でわかる】中国など外国船の影響で魚が獲れないのは本当か 

 

 「魚の漁かく量が減っているのを自分たちは関係ないと大人がいいわけしているのにもびっくりした」 

 

 2024年の夏、「くしろ・あっけし海の未来調査隊! 2024」(日本財団が推進する海と日本プロジェクトの一環)というイベントで、30人ほどの小学5、6年生に会いました。沿海調査エンジニアリングの大塚英治社長が総合講師となり、北海道放送(HBC)、東海大学そして地元の皆さんと、北海道の釧路と厚岸で水産資源の話をしました。 

 

 日本の海では、サケ、スルメイカ、シシャモ、サンマ、サバをはじめ、ほぼあらゆる魚種で資源量も漁獲量も減少が止まりません。身近なはずの水産資源の実態について、あまりにも知らなかった現実に触れて、子供たちからは冒頭のようなコメントが出ました。 

 

■よくある「特に外国船・中国が悪い」という反論 

 

 イベントの終了後、小学生の皆さんは、それぞれの地元に帰り、家族や親戚に話したり、学校での発表をしたりしたそうです。ところが、あるお子さんのお母さんから事務局にこんな連絡が入りました。 

 

 「娘が今回一番興味を持ったのが、資源管理についてのお話だそうです。帰宅後も熱く語ってくれました」 

 

 しかし、帰省中に親戚たちにその話を伝えると「そんなわけない!」「ちゃんと考えられてとってるはずだ」「それは偏った意見だ」などと言われてしまったそうです。 

 

親戚の方々には悪気はなく、一般的に水産資源管理の話をすると3点セットのように「特に外国船・中国が悪い」「魚が減ったのは海水温上昇のせい」「クジラが食べてしまう」という反論が来るものです。筆者はデータと根拠をお送りしました。 

 

 筆者の記事はヤフーニュースにも掲載されていますが、同じようなコメントが繰り返し出てきます。マスコミもそのように報道しているという面があるのですが、誤った情報を基に対策をしてもよくなることはありません。 

 

 次のグラフは世界と日本の漁業と養殖の合計生産量の傾向を示しています。違いが一目でわかります。世界全体では、過去最大の更新が続くのに対し、日本では2023年に372万トンとさらに生産量(漁獲量と養殖量の合計)は過去最低を更新しています。 

 

 

■外国の影響がない瀬戸内海の漁獲量も減少 

 

 次のグラフは、外国船が侵入してこない瀬戸内海の漁獲量が、日本全体の漁獲量の減少傾向とほぼ同じであることを示しています。魚が減っていくことを外国のせいにばかりしてはいけないのです。これ以外にも北海道のスケトウダラのケースで明確なエビデンスがあります。 

 

 次のグラフは世界の海水温。世界で日本の海の周りだけ海水温が上昇しているわけではありません。また海水温上昇は100年で0.5度くらいです。5度とかではありません。海水温上昇は、皆さんの感覚よりはるかに幅は小さく、かつゆっくりです。温度の上昇スピードが少し早い北大西洋のほうが、日本が属する北太平洋より、資源状態は圧倒的に良好です。 

 

 次の図はミンククジラの推定資源量です。クジラの中でも数が多いミンククジラの数は、北太平洋より北大西洋のほうが10倍弱も多いです。しかしながら、クジラが多くても北太平洋より、北大西洋のほうが、サバ、ニシン、マダラ、クロマグロをはじめ資源量が多く、サイズが大きいのが現実です。 

 

■科学的根拠に基づく「数量管理」ができていない 

 

 次の表は、2022年と2012年と、2022年と2021年の生産量を比較したものです。日本で効果がある資源管理ができているのは、ホタテガイくらいで2割弱しかなく、他は大幅に減少しています。多くが週1日漁を休むといった科学的根拠に基づく「数量管理」を行っていない資源管理の結果です。 

 

 マイワシの生産量は10年前に比べて大きく増えていますが、周期があるためそう遠くないうちに減少に転じてしまいます。マイワシは大きな資源変動がある8年前後の寿命の魚です。0~1歳のマイワシを大量に獲ってしまえば「成長乱獲」が起きるだけでなく、価値が低いためほぼ食用ではなく、飼料などに使われる「フィッシュミール」に回っています。 

 

 イベントで子供たちが見学した釧路港では9割以上が丸のままフィッシュミールになっています。大きくなれば、鮮魚・缶詰・加工品などさまざまな用途に使えます。大きくなったマイワシから、可食部を取って、頭・骨・内臓などをフィッシュミールに回す。ノルウェーのニシン漁業で行われている例を基にした説明に子供たちは高い関心を示していました。 

 

 

■体験の重要性 

 

 日本の水産資源管理の実態に対して、「そんなわけない!」「ちゃんと考えられてとっているはずだ」「それは偏った意見だ」といった考えを持っている方は、少なくないと思います。こういった先入観は、北海道だけでなく全国に蔓延していることでしょう。この先入観こそが、日本の水産資源を回復させるにあたっての元凶であると思料します。 

 

 2023年の9月にノルウェー大使館からの招待で、ノルウェーを訪問する機会がありました。その際にノルウェーシーフードのアンバサダーに就任されたフレンチの三國清三シェフも同行されました。 

 

 道中で日本の水産資源管理に関する問題点を説明したところ、三國シェフから上と同じようなコメントがありました。しかしながら、数々のノルウェーでの現場を訪問されると、考えが180度変わったようで、今度はお仲間に話をしてほしいとなりました。その後はさらに広げていきたいというご意向です。 

 

 かつて北海道の実家が漁業を営んでおり、資源管理はされていたというご理解であったと思います。ところが、ノルウェーの現場や、過去の写真などを見るとノルウェーと日本の違いは資源管理にあると気づかれたはずです。ノルウェーも1960年代前後にニシンの資源を乱獲で崩壊させてしまいました。しかし、補助金を使って減船を実施し、合わせて約20年間漁獲を我慢することで、今では資源は大幅に回復しています。 

 

 皆さんにノルウェーの現場を見ていただくというのは容易ではありません。しかしこのような発信を通じて、微力ながら少しでも多くの方に水産資源管理の問題点とその解決方法について気付いていただけたら、それが筆者の望外の喜びです。 

 

片野 歩 :Fisk Japan CEO 

 

 

 
 

IMAGE