( 233181 ) 2024/11/13 16:11:50 0 00 兵庫県知事選挙現地ルポ/「民意って何?」が今、問われている(オフィス・シュンキ)
兵庫県知事選挙が10月31日に始まり、届け出順に清水貴之(しみず・たかゆき)氏、稲村和美(いなむら・かずみ)氏、斎藤元彦(さいとう・もとひこ)氏、大沢芳清(おおさわ・よしきよ)氏、福本繁幸(ふくもと・しげゆき)氏、立花孝志(たちばな・たかし)氏、木島洋嗣(きじま・ひろつぐ)氏の無所属7人の争いとなりました。11月17日に投開票に向けて、選挙戦もいよいよ終盤戦に突入しています。
この選挙は、今年3月に前知事である斎藤候補が職員らに「パワーハラスメント」と取られる行為や地方への視察の際、特産物などの提供を求めることなどを行っていたとする内部告発文書に端を発しています。この文書の作成者を特定するために兵庫県側は前知事の指示で動いたのですが、4月に入って作成者と判明した職員が実名で「公益通報」を行ったことで事態は複雑化。最初の文書を「公益通報」とみなさなかった兵庫県側は職員に処分を科しましたが、この対応が正しかったかどうかが県議会で問われ、事実を明らかにするために「百条委員会」が設置されますが、その最中に当該の職員が自死する事態が起こったことで、前知事の「道義的責任」がいわれることになり、ついには「百条委員会」の結果を待たずに、議会で出された「不信任決議」が全会一致で可決されたことから前知事が「失職」を選んだ、というのが経緯となります。前知事の任期は来年7月まででしたが、失職によって知事選は本来の予定よりも約9カ月前倒しで実施されることになりました。こうした一連の騒動が兵庫県のみならず日本全国に大きなニュースとなって広まりっている中での選挙戦。筆者は前回と同じく「住民目線」での取材を心掛けて臨むことにしました。
この選挙の特色は政党色の薄さです。清水氏を兵庫維新の会および自民党神戸市議団が政策協定書を交わした上での支援、稲村氏を立憲民主党と国民民主党兵庫県連が支援、大沢氏を日本共産党が推薦していますが、自由民主党、公明党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党を始めとしたほとんどの国政政党が基本として「自主投票」としており、街頭ではほぼ政党名がでてきません。その代わり、候補者やその支援者が「個人」として街頭演説や討論会などで声を張り上げ続けることになっています。筆者は2021年夏に行われた前回の選挙を取材した際には「有権者置き去り?」の感触をもったのですが、今回は正反対。これほど、住民に近い選挙は見たことがない、といい切れる選挙が目の前で展開されています。
清水貴之(しみず・たかゆき)候補(筆者撮影)
元参院議員の清水候補は県組織の代表経験もある日本維新の会を離党し、無所属での立候補です。兵庫維新の会代表の片山大介氏をはじめ、先の衆議院選挙で当選した兵庫県下の日本維新の会所属国会議員の方らが勢ぞろいした応援弁士の中で最も注目を集めたのは自民党所属の岡田ゆうじ神戸市会議員でした。清水候補は「団体とか、組織とかのない選挙がやりたかった。維新がどう、自民がどう、公明がどう、とかいうのでなく、党や会派を超えて兵庫県の混乱を抑えるのが第一です」と、無所属で立候補した理由を選挙初日の第一声としました。その上で、まずは政策よりも県職員らとのコミュニケーションの改善が大切だ、と訴えました。チラシやボランティアジャンパーには『青い色』を採用。候補の名前をもじって『清い水』をイメージしたもの」ですが、維新カラーは『緑』。清水候補自らが羽織っていた『白』のジャンパーと合わせ、10年以上「日本維新の会」の国会議員として活動されてきた清水候補の無所属での出馬への違和感の象徴のようにも思えました。
稲村和美(いなむら・かずみ)候補(筆者撮影)
元尼崎市長の経歴をもつ稲村候補の陣営には代表世話役となった自由民主党の県議や西宮市、小野市など兵庫県下の中核都市の市長、無所属の県議などが顔を並べていました。稲村候補は街頭演説で「今の県政の混乱と停滞、もういい加減終止符を打ちましょう。対話と信頼、リーダーと職員との信頼を回復しなければいけません」「なによりもやりたいのは、風通しの良い県政を作ることです」と、政策を語る以前に県職員の方との信頼回復を前面に出して訴えました。中盤には、期日前投票所にもなっている市役所前でも街頭活動を行いました。期日前投票のために訪れていた20代のある男性は「前回は斎藤さんに投票したけど、今日、投票に来たら稲村さんがいた。いろんなきちんとした組織が推薦されているし、今回は稲村さん」と演説を聴きながら語ってくれましたが、「期日前投票所」の前での街頭活動は、『誰に投票するか』を決めかねている有権者には有効になる、を目の当たりにした瞬間ともなりました。
斎藤元彦(さいとう・もとひこ)候補(筆者撮影)
斎藤候補は選挙初日に神戸市中央区の西元町で出陣式を行いました。この西元町は神戸市の繁華街の中でも決して栄えているわけではない商店街です。まして、政党の支援がないことなどから弁士は斎藤候補ひとりだけ。しかし、大手メディアなどの報道によると300人以上の人が集まったといいます。公園を埋め尽くした聴衆と候補だけの出陣式で「本当にうれしく思います。ひとりからのスタートですから」と第一声を上げ、1000億円を超える県庁の建て替え計画の凍結など知事時代の実績を語ることから始めました。中盤の街頭演説では「大変厳しい選挙戦です。私は組織や政党の支援がない中での選挙戦になっています。大変厳しい選挙戦となっています」と、二度「大変激しい選挙」を口にする場面も。しかしここでも、数百人ほどの聴衆が集まっていました。スクランブル交差点で信号が変わるのを待つ若いカップルが目の前に出来ている『人の集まり』をみて「誰が来るの?」と不思議そうに言いあっているのに出会った筆者が「斎藤さんだよ」と伝えると、このカップルが急いでその集まりに入っていったのをみて「前知事」の肩書きを告げなくても分かる、今の斎藤候補の立ち位置を改めて感じもしました。
大沢芳清(おおさわ・よしきよ)候補(筆者撮影)
大沢候補は初日の夕刻、神戸市垂水区の路上で、手に持ったメモを読み上げながらの演説していました。「まず第一に県政を正常化します」と宣言したあと、「私は病院の院長をしております。その職場の経験から、ひとりひとりの職員を信頼し、職員が本来の力を発揮できる、そういう職場をつくります」と立候補した理由を訴えていました。
福本繁幸(ふくもと・しげゆき)候補(筆者撮影)
今夏の東京都知事選についでの出馬となった福本候補には三宮の交通センタービルの前で演説されている姿をなんどもみる形となりました。「私も阪神淡路大震災に病院に勤務している時にあった。県民の方には防災の意識を持っていただき、行政は耐震基準を満たした支えられる施設づくりをやっていきます」と訴えました。
立花孝志(たちばな・たかし)候補(筆者撮影)
立花候補には初日、三宮センター街東口で声を聞きました。「今回の選挙、僕に投票しないでください。斎藤さん(候補)を応援するためだけに出馬していますから」と、集まった聴衆の方に念押ししながらの演説で、出馬した理由を何度も、形を変えて話されていました。
木島洋嗣(きじま・ひろつぐ)候補(筆者撮影)
10月27日に行われた衆議院選挙に兵庫1区から出馬し落選したばかりの木島候補は「さんきたアモーレ広場」などで演説を聞きました。木島候補は「関西州を作りたい。兵庫県と大阪府を一緒に管轄する知事を選べるようにしたい」と、道州制を前提とした政策を中心に話をしていました。
斎藤氏の事務所に貼られた付箋(筆者撮影)
「市民目線」で今回の選挙を歩いた時、もっとも目を引くのは斎藤候補のところに集まる人の数でした。筆者は斎藤候補が知事失職当日の9月30日に駅立ちを始めたことがニュースで流れたのを見た際、「なんで、これだけバッシングされてるのに駅立ちをするんだろ?」と素朴な疑問がわきました。しかし、斎藤候補が立った駅で出会った支持者らが連絡先を交換して自発的に応援ボランティアチームを立ち上げる瞬間もみることになりました。また、別の日の朝のあいさつの場には握手や写真撮影を求める女性が大半を占める行列ができていました。この自然発生的な人の集まりは、どの場所でも倍々ゲームのように膨らんでいったのです。
同候補の事務所へ行くと、訪れた県民の声が書かれた青い小さな付箋が壁いっぱいに貼られていました。その数は1000枚に届こうという勢いになっています。選挙が始まって12日間に、公式には位置も含めて知らされていないという事務所に少なくともこれだけの人数の県民が訪れているのは事実としてあるのです。
この間、大手のテレビ、新聞、メディアの報道は過熱し、そのほとんどが前知事を糾弾する内容に終始しましたが、前知事はそれでも出直し選挙立候補を目指し、この活動がSNSなどで拡散され人の輪を広げ、前知事の印象を少しずつ変えていった様子が伺えました。立候補者の中でも、立花氏はテレビ報道は悪だとし、「前知事は犯罪も違法行為もしていません」という主張で斎藤氏を後方支援します。
ただ一方で、選挙の発端となった内部告発文書の問題の真相究明は道半ばにあります。これに対し、清水氏は「初期対応がおかしかった。処分の判断には第三者の目を入れるべきだった」とし、稲村氏は「混乱に終止符を!対話を通じて信頼を回復し、風通しの良い兵庫県政へ」をキャッチフレーズに知事や議員も対象に含むハラスメント防止条例の制定などを公約に掲げます。大沢氏も「知事と幹部職員が告発をつぶそうとしたことは大きな問題」と指摘して「職員が県民の声を聞き、県民のために力を発揮できる県政にしたい」と訴え、それぞれ県政刷新の必要性を強調しています。
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