( 233721 )  2024/12/16 02:24:35  
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軽EVの一充電距離を見て「短すぎる」と騒ぐ人がいるが、実際のところ、世界的にも1日のクルマでの移動距離は多くが50km前後とされている。 

 

日本の電気自動車(EV)販売を牽引するのが、日産サクラと三菱eKクロスEVだ。両車をあわせた生産台数が、2022年5月の発売から2年5カ月で累計10万台に達した。 

 

日産の初代リーフは、2010年12月に日米で発売が開始され、2014年1月に世界累計販売台数が10万台に達した。 

 

生産と販売では、作ったというのと売れたという点で同列で比較するのは不都合だ。とはいえ、軽EVが国内での販売を目的に2年5カ月で10万台生産されたことは、日米欧を含め世界(グローバル)で販売を行ってきたリーフが3年2カ月で10万台を売ったのに比べ、どれほど短期間に人気を得たかを知ることに役立つ。そして、いかにサクラとeKクロスEVが、人々に喜ばれているかがわかる。 

 

世間、あるいはいくつかの報道などでは、「軽EVはたった180kmしか走れない」という。だが、それは一充電での走行距離であって、経路充電で急速充電すれば、もっと遠くへ行ける。180kmしか走れないのではなく、満充電すれば最低でも180km走れると解釈すべきだ。 

 

世界的に、1日のクルマでの移動距離は多くが50km前後とされている。だから、プラグインハイブリッド車(PHEV)のEV走行距離は、余裕を見て100km前後なのだ。たとえば、2代目アウトランダーで追加されたPHEV初代のEV走行距離は60.2kmであった。まさしく、1日のクルマでの移動距離の多数を占める50kmを視野に入れた性能といえる。 

 

EVにおいても100km前後が日常的な利用の中心であり、ただEVでは充電したバッテリーの電力を使い切れば止まってしまうので、その分のゆとりを見て150kmほど走れれば一般に事足りることになる。 

 

そのうえで、四季を通じ空調を使うことを考慮するなら、200km前後の基本性能をもっていれば、不安なくEVを使えることになる。サクラとeKクロスEVの一充電走行距離が180kmであるのは、日々の利用に適切な性能である。 

 

さらに遠出をするのなら、経路充電すればいい。経路充電しなくても、目的地に基礎充電(200V)の設備があり、一泊するならそこで寝ている間に充電すれば、経路充電の必要さえなくなる。 

 

これが、EVの基本だ。 

 

諸元で、一充電走行距離が300~400kmないと遠出ができないといういい方や考えは、急速充電に30分かかるという数字しか考えず、利用の実態を見過ごした解釈の誤りだ。 

 

 

サクラやeKクロスEVを所有し、あるいは利用している人たちは、単に日々の短距離で使うだけでなく、遠出もしているだろう。 

 

たとえばサクラに乗っている私も、都内(といっても23区の場所によるが)に住み、約8km先の瀬田の入り口から御殿場まで東名高速道路での往復を、航続距離が180km程度あるサクラなら、経路充電なしで済ませられる計算だ。 

 

事実、御殿場インターまでバッテリー電力の50%以下で到着でき、東京への戻りは、御殿場から大井松田まで下り坂が多く、電力消費が往路より少なくなるから足りることになる。そのうえで、取材先に普通充電の設備がもしあれば、仕事をしている間の数時間、200Vで充電すれば、まったく支障なく軽EVを利用できる。これが軽EVの実態だ。 

 

このことは、海外においても同様ではないか。 

 

ことに自動車先進国のひとつである欧州は、小型ディーゼル車が庶民の足として定着してきた。しかし、それに代わる適正な小型EVが十分に選択肢となっていない。大容量バッテリーを搭載した高価で大柄なEVばかりが数を増やしている。ディーゼル車から乗り換えができない庶民は困っているはずだ。 

 

理由は、EVへの移行が遅れたからだ。日産と三菱は15年近く前からEVを販売し、リーフやi-MiEVは小型車や軽自動車だった。性能と価格の調和をとったEVを販売する難しさと知見は豊富だ。そこから生まれたのが、サクラとeKクロスEVである。経営面でも、軽自動車を主体に運営するNMKV(日産・三菱・軽・ヴィークル)という会社が生まれ、効率よく軽EVを生産できている。 

 

中国は、EVの要となるリチウムイオンバッテリー製造で世界の先頭をいく。リン酸鉄を電極に使うバッテリーを有効活用し、低価格のEVを生産できるようにした。中国は、1990年代からバッテリーやEVに目を向けてきた。 

 

欧米が、中国製EVに追加関税をかけ、課税で競争力を削ごうとする姿勢はすなわち、経験や技術、生産性において、すでに中国に負けた証ではないか。 

 

広報車を借りていきなり遠出をして電欠をしたといった無謀な取材でEVを語るような媒体がいまなお消えず、消費者にEVの真価を適正に伝えない責任も大きい。 

 

サクラとeKクロスEVを、欧州やアジア地域に販売できれば、喜ぶ庶民は多いはずだ。 

 

EVは、使用実態と性能の適切な判断が不可欠である。エンジン車と違う移動手段であることをしっかり理解する必要がある。 

 

そのうえで、軽EVに限らず、適切な小型EVに自動運転が加われば、老若男女、健常者も障害者も、免許証を所持していても所持していなくても、万人のための個人の移動の自由が成り立つ。それこそが、電車やバス、航空機や船舶などの公共交通機関と異なる、クルマの存在意義であり、真価ではないだろうか。 

 

御堀直嗣 

 

 

 
 

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