( 233816 ) 2024/12/16 04:09:54 0 00 閉店した「イトーヨーカドー春日部店」(写真:時事)
漫画『クレヨンしんちゃん』に登場する「サトーココノカドー」のモデルでもあり、地元市民に長く親しまれたイトーヨーカドー春日部店が閉店したことが、ネット上でも話題になっていた。
そこでは、しんちゃんゆかりのスーパーの閉店を惜しむ声とともに、最近、何度となく話題となってきたイトーヨーカドーの大量閉店を踏まえて、「ヨーカ堂は大丈夫?」といった声も多かった。
■ヨーカ堂は何をしようとしているのか
確かにセブン&アイ・ホールディングスに関しては、現在進行中のカナダ大手コンビニ企業からの買収提案はさておき、一部株主からコンビニ以外の事業の収益性の低さが指摘され、百貨店「そごう・西武」のアメリカファンドへの売却や、低採算のイトーヨーカ堂の再建に取り組む計画が進んでいた。
今回の春日部店の閉店も、ヨーカ堂の店舗網再構築計画の一環だが、事業計画を知らない一般消費者からすれば「ヨーカ堂の経営は大丈夫なのか」「自分の家の近くにある店舗は存続するのか」と心配になるのだろう。
ということで、「サトーココノカドー閉店」を機に、いまヨーカ堂は何をしようとしているのか、少し振り返ってみることにしよう。ちなみに、セブン&アイ回りのさまざまなM&Aに関する話題はいったん置いておく。
ヨーカ堂の業績の推移は、売上高、営業利益率ともに全盛期の1990年代から右肩下がりで落ち込んできた。
2024年2月の決算データでは、営業収益8149億円、経常損失2.7億円、事業再構築に係る費用(閉店、改装、事業転換など)を含めた最終損益は379億円の赤字であるが、財務安定性を示す純資産は5051億円あって、純資産比率は72.4%というのが現状だ。
注目はこの純資産比率が、スーパー業界ではいまだにトップクラスにあるということ。右肩下がりが続いたとはいえ、大きな赤字が続いたわけでもないので、自己資本はほとんど毀損していない。過去の蓄積があって、時間的余裕はまだ十分にある、という状況だ(大量閉店を経ても耐える体力があるということ)。
■スーパー業界でトップクラスなのにダメ出しされるワケ
では、なぜこんなにダメ出しをされるか、といえば、セブン&アイがグローバルコンビニ大手であり、世界基準で比較されると、セブン-イレブンのお荷物的な存在になるからである。
ヨーカ堂はグループのスーパーストア事業を統合して、再構築される計画だが、スーパーストア事業全体での今期の業績予想は、営業収益1兆4390億円、営業利益135億円。営業利益率は0.9%と低いが売り上げとして国内トップクラスのスーパーであることは間違いない。
今後の改善の進捗次第ではあるものの、イトーヨーカ堂を軸としたスーパー事業体は、十分に生き残れる経営資源を持っているということは確かなのである。とはいえ、なぜ今、大量閉店せねばならない状態になってるのだろうか。それを知るためには、今回一気に閉店となった店舗群をみるとその背景がわかってくる。
セブン&アイHDのスーパーストア事業の改善策の柱は、①首都圏特化、②アパレル撤退と食品特化、③グループスーパー再編、となっている。つまり、首都圏中心の食品スーパーとしてグループ内スーパーの経営資源を結集する、ということになる。
首都圏特化に関しては決算説明資料によると、「首都圏でも採算性・戦略適合度の低い店舗は戦略的撤退」としている。では実際どのような店舗が閉店対象となったかは、次のとおりだ。
■イトーヨーカドーの閉店対象となったのは?
このリストを見ると、「首都圏以外からの撤退」「首都圏は老朽化店舗を閉店」「計画通りに実施している」ということがわかる。
地方に関しては、首都圏、および一部3大都市圏に物流網を集約し、そこから離れた北海道、東北などを地域ごと閉めるというもので、必ずしも今、大赤字という店ばかりではないのだろう。
この地方撤退に関しては、多くをロピアが引き受けることになり話題となった。追加投資をすれば改善可能性がある店舗もあったのだろうが、渦中のヨーカ堂にその時間的余裕がない、ということだ。
それに比べて、首都圏の店は津田沼店を例外として、多くは引き受け先がすぐには決まっていない。これはそのほとんどが1970年代、80年代に出店した40~50年経過の老朽化店舗であり、ハードとして古いことに加えて、郊外の駅前の多層階店舗が多く、今のスーパーの立地や箱として適していない、ということが要因だろう。
これらの店ができた時期、モータリゼーション(車社会化)は進み始めてはいたが、公共交通網が充実している首都圏においては、地域住民の買物動線のハブは駅であった。
そのため、スーパーは、駅前一等地に狭いながらも場所を確保し、その代わり多層階にして、多様な商品群を品揃えするというスタイルが一般的だった。しかし、40~50年たった今、駅前の人通りは減っていないものの、食品以外のまとめ買い、というかつての総合スーパーのワンストップショッピングニーズは、郊外ロードサイドに増えたさまざまな商業施設に代替されるようになった。
幹線道路沿いに広い駐車場を持ち、カートで買い回りしやすく、物販以外にシネコンや子供の遊び場も備えた大型ショッピングモールに行くほうが、土日を楽しく過ごせる。これは、皆さんも体感していることであろう。
老朽化店舗にちょっと手を入れただけでは、もう勝てない、というのが現状だ。人口減少の見込みが少ない首都圏で閉店した店舗のほうが、引き取り手が決まらないのは、「古い総合スーパータイプの店は誰がやってもうまくいかない」と業界の大多数が思っているからでもある。
■首都圏駅前の一等地を押さえていたヨーカ堂
ただ、そんな環境変化に対して、ヨーカ堂はなぜ今まで手をこまねいていたのか、という疑問が残るだろう。これは、東京の老舗スーパーであるヨーカ堂が、首都圏駅前の一等地を数多く押さえていた、ということに起因している、と考えられる。
地方ではモータリゼーションの浸透は速く、2000年代には駅前の古いタイプの総合スーパーはかなり淘汰されている。バブル崩壊後にきた消費低迷と金融危機によって、多くの総合スーパー企業が経営破綻した時期があったが、衰退した地方駅前に店舗を多く配置していた企業から順に経営が成り立たなくなった。
その際たるものがダイエーだ。先行して全国の駅前、中心市街地を押さえて全国制覇したがために、そのほとんどが不採算店となり、転換が間に合わなかったのである。そして、地方出身でモータリゼーションを前提として、専門店チェーンと共存するモールを展開したイオンがスーパーの覇者となったのだ。
■モータリゼーションの影響が及びにくかった
その時代には、ヨーカ堂はラッキーな存在だった。早くからヨーカ堂が押さえていた、都内、神奈川を中心とした首都圏の一等地には、モータリゼーションの環境変化は長らく影響しなかったからだ。
しかし、郊外からの買物動線の変化が徐々に進行して、老朽化したヨーカ堂の郊外駅前店舗にも及んだ今、ついに撤退せざるをえなくなった、というのが客観的な事実といえる。
ヨーカ堂は、ほぼ最後の郊外駅前立地の総合スーパーだったのであり、そしてまだ、都内中心に90店舗以上が生き残っているのだから、逆に驚くほどだ。ただ、一連の店舗スクラップにより、低採算店はほぼ一掃されるので、ヨーカ堂を中心としたスーパーストア事業の収益性は一気に回復することになるだろう。
この改善効果が続くうちに、首都圏特化の食品スーパーとしての新たな形がつくれるのかが、今後の事業継続性を決めることになる。
ヨーカ堂について見てきたが、他にも残っている総合スーパータイプの店舗も似たような状況にある。ヨーカ堂と同様、東京発祥の西友も紆余曲折を経て、首都圏に残った総合スーパーの非食品売場をテナント化して、「食品+生活必需品」のスーパーとして生き残ろうとしている。
郊外型モールで生き残りの道を披いたイオンでも、M&Aした同業他社由来の都市型総合スーパーを持っており、その活性化を目指して「そよら」というショッピングモールへのリニューアルを行っている。
総合スーパーの非食品売場が縮小し、テナント化するというのは止められない流れだが、その場所を代わりに埋めることができる企業にとっては、都市部への出店チャンスが拡がるということでもある。この場所を取りに行っている代表的な企業が、ホームセンター最大手カインズと100円ショップ最大手ダイソー(大創産業)である。
■総合スーパーの非食品売場に進出するカインズ
これはカインズの最近数年分の新規出店をリストにしたものだ。カインズと言えば、地方、郊外に大型店舗を展開することで成長してきたホームセンターなのだが、近頃は総合スーパーをテナント化した商業施設への出店が増えていることがわかるだろう。
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