( 234081 )  2024/12/16 17:28:26  
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アサヒの「未来のレモンサワー」が人気 

 

 レモンスライスが浮かび上がってくる斬新な缶チューハイとして、話題になっているアサヒビール(東京都墨田区)の「未来のレモンサワー」。これまでECサイトでの試験販売や首都圏・関信越エリア(1都9県)のみで展開していたが、12月17日から東海・北陸・近畿(2府11県)でも販売する。 

 

 SNSを見ると「こんな缶チューハイ、見たことがない」「早く全国展開してほしい」といったコメントがあるが、そもそもなぜ、本物のレモンが入った商品を手掛けようと思ったのか。開発のきっかけや今後の展開について、同社マーケティング本部新ブランド開発部担当課長の山田佑氏に聞いた。 

 

 未来のレモンサワーの特徴は、缶の中に本物のレモンスライスが入っていること。フタを開けると、レモンの香りが広がり、スライスレモンがふんわりと浮かび上がる。味わいや香りに加え、視覚や食感も含めた五感で楽しめる新しいタイプのレモンサワーだ。 

 

 これまでアサヒビールには「果物などの固形物を入れたチューハイがほしい」といった声が届いており、ナタデココや果物を加工したつぶつぶを入れたものは手掛けたことがあった。だが、果物自体を入れたものは難易度が高く、発売には至っていなかった。 

 

 そんな中、2021年に「スーパードライ 生ジョッキ缶」(以下、生ジョッキ缶)が登場。フタがフルオープンで、開けると「もこもこ」と泡が出る、今までにない缶ビールとして大ヒット商品となった。 

 

 同社は「生ジョッキ缶の技術を応用したRTD(Ready To Drink:フタを開けてすぐにそのまま飲める飲料)で、居酒屋でグラスに果物を入れて提供されるような商品をつくれないか」と考えた。 

 

 通常の新商品は着想から1~2年で発売に至るが、未来のレモンサワーについては想像以上に難航したこともあり、3年半の月日を要した。マーケティング本部と開発部が連携し、メンバー数は各部門のメイン担当だけでも80人以上。RTD開発史上、最大の人数が携わっている。 

 

 

 具体的にはどのような点で苦労したのだろうか。山田氏は「缶の中に本物のレモンを入れるアイデアまでは良かったが、実際に着手するとレモンの調達場所や品質保守、安定した供給体制の整備など、各工程で初めての取り組みばかりで課題が山積みだった」と振り返る。 

 

 原材料の調達では、担当者が各地のサプライヤーと交渉を重ねた。特に日本の品質に対応してくれるような海外のサプライヤーを探すのに苦労したという。 

 

 レモンについては、同社としてポストハーベストフリー(PHF:収穫後の農薬不使用)で防カビ剤を使わないことを基準としていた。そのうえで、品質を担保するには調達先でレモンをスライス後に乾燥させ、ドライフルーツにする必要があったという。 

 

 缶の中で浮かび上がらせるために、レモンスライスの厚さについてはミリ単位で試行錯誤を重ね、最終的に5ミリに設定。それを1分間に約600個のペースで缶に入れる独自ロボットについても、ゼロベースで開発した。 

 

 ちなみに、レモンスライス(輪切り)になるまでも紆余(うよ)曲折あり、くし型や半月型も検討したという。「居酒屋だとハーフカットでレモンを自分で絞るタイプが多いが、レモンが大きいと缶の中に入らず、味わいも染み込まない。試行錯誤を重ねた結果、レモンスライスに落ち着いた」 

 

 未来のレモンサワーはこうして生まれたわけだが、発売前の2023年5月にアサヒビールのECサイトで試験的に販売した。6缶1セット1980円で販売し、約2000セットが2週間で完売した。 

 

 その後販売体制を整え、2024年6月に首都圏・関信越エリアに絞って販売すると、売り切れる店舗が続出。8月、再び同エリアで展開すると、「五感で楽しめるレモンサワー」「浮き上がるレモンが衝撃的で、香りも良く、おいしい」など、好評を得た。 

 

 直近では11月19日から首都圏・関信越エリアで扱うほか、12月17日からは東海・北陸・近畿の2府11県でも、初めて販売する。 

 

 

 未来のレモンサワーの価格は1缶298円と、一般的な缶チューハイと比較すると高い。それでも売り切れが続出する理由として、山田氏は「チューハイの価値基準をフレーバー展開やアルコール度数、果汁割合といったものから、本物の果物が入っているか・入っていないかといった点にシフトでき、それを体験した人に『良いものだ』と受け取ってもらえた点が要因ではないか」と分析している。 

 

 本物のレモンが入っている、五感で楽しめる点に対してSNSなどを通じて関心を持ってもらい、発売前に行った試飲イベントで顧客が実際に価値を体験。発売後に店頭で手に取ってもらう「話題化」→「体験」→「購入」の流れがつくれた点も良かったとのことだ。 

 

 今後については、12月に初めて販売するエリアでの反応をしっかり見つつ、全国展開に向けて製造ラインの確保や増強といった課題感やブラッシュアップすべきポイントを見極めたいとしている。フタを開けるとレモンが浮かび上がるように、未来のレモンサワーの売り上げがどこまで伸びるのか、全国展開の成否とともに注目が集まる。 

 

(熊谷ショウコ) 

 

ITmedia ビジネスオンライン 

 

 

 
 

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