( 234131 )  2024/12/16 18:30:23  
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 日本経済は回復の兆しがあると言うものの、実感が湧いている人は少数だろう。一部の富裕層や大企業といった“勝ち組”は果実を得られているかもしれないが、多くの国民や中小・零細企業は物価高や原材料費の高騰などに頭を抱える。11月の倒産は800件を超え、2024年は12月分を残して2015年以降で最多という異常事態だ。経済アナリストの佐藤健太氏は「高い税金や社会保険料が要因の企業倒産が見られ、値上げラッシュの再燃も国民生活に大打撃を与える。もはや“人災”といわれても仕方ないのではないか」と指弾する。 

 

「日本経済は、33年ぶりの高水準の賃上げ、名目100兆円超の設備投資、名目600兆円超のGDPを実現するなど前向きな動きが見られる。この好循環を後戻りさせることなく、デフレ脱却を確かなものとし、新たな経済ステージへの移行を実現していく必要がある」。石破茂政権が2024年度補正予算案を国会に提出した12月9日、加藤勝信財務相は財政演説で「わが国の経済は回復に向けての兆しが見られており、これを確かなものとし、成長型経済を実現する好機を迎えている」と強調した。 

 

 国内景気が回復基調にあるのは、全体としてはたしかなのだろう。内閣府が発表した7~9月期のGDP(改定値)は物価変動を除いた実質の伸び率が前期比プラス0.3%、年率換算ではプラス1.2%となった。2期連続のプラスで、経済協力開発機構(OECD)は日本が2025年に経済成長率1.5%とプラス成長に転じると予測。日本銀行は来年1月にも追加利上げに踏み切るとの観測が浮上する。 

 

 経済は「生き物」で、山があれば谷もある。30年近くも上がらなかった日本人の給与が上向き、その結果として消費の活発化が経済の好循環につながっていけば国内景気は回復していくだろう。だが、足元はとても楽観視できるような状況ではない。 

 

 帝国データバンクによると、2024年11月の倒産件数は834件と31カ月連続で前年同月(773件)を上回った。11月としては2013年以来の800件超えだ。2024年1―11月の累計は9053件となり、2015年以降で最多という。11月27日には東証グロース上場の電解銅箔メーカー「日本電解」(茨城)が民事再生法の適用を申請。その翌日には日本の繊維産業の中心だった東証プライム上場の「ユニチカ」(大阪)が私的整理手続きを発表した。2024年の企業倒産は1万件を超える可能性が指摘されている。 

 

 

 原材料費や物流費の高騰などは企業経営を直撃し、値上げラッシュの再燃が国民生活にダメージを与え続ける。1―11月の「物価高倒産」は877件に上り、過去最多の2023年(775件)を上回る。政府は一般会計総額が13.9兆円の補正予算を成立させ、物価高の克服や経済成長に繋げていきたい考えだが、2025年も物価上昇は続くと見込まれている。 

 

 12月6日に帝国データバンクが発表した今冬賞与の動向調査によれば、ボーナスの1人あたり平均支給額が「増額」する企業は23.0%だった一方で、「賞与はない」企業も12.8%に上った。インバウンド需要などの恩恵を受ける企業は良いものの、人手不足から争奪戦を強いられる業界は不安が尽きない。中小・零細企業は価格転嫁が難しく、過剰債務から危機に陥るケースがみられている。 

 

 日銀が来年早々に追加利上げに踏み切れば、利払いコストの増加に苦しむ経営者が相次ぐだろう。企業倒産は失業者を生み、将来不安につながる。消費力が減退していけば現在は“勝ち組”の企業にも影響が生じる可能性がある。人手不足や物価高、経営者の高齢化、後継者の不在といった問題が日本に牙をむく。 

 

「経団連終わってる。日本の最高税率は55%で主要国ではダントツ。最高相続税も55%とダントツ。合わせると実質80%。中国よりも高い税金。日本から富裕層は居なくなり、海外で起業する人が増えるだろう。頑張って成功した人に懲罰的重税、正気か」。楽天の三木谷浩史・代表取締役会長は12月9日の「X」(旧ツイッター)で、経団連が富裕層に対する課税強化などの政策提言を発表したことに反発した。日本は個人や法人の所得に対する税率が高いとされ、日本型の「重い負担」を敬遠する個人や企業は少なくない。 

 

 東京商工リサーチによると、税金や社会保険料の滞納が一因の企業倒産は急増しており、2024年1-11月で165件に上る。年間最多だった2018年(105件)を大きく上回っている状況だ。国会においては、給与収入が103万円を超えると所得税がかかる「103万円の壁」見直しに向けた議論が盛んになっているが、個人や企業の税金だけでなく、従業員と折半する企業の社会保険料負担も重くのしかかる。 

 

 

 こうした状況下にありながら、国は物価上昇に苦しむ人々や企業の声に耳を傾けているのかは疑問だ。国会で審議されている2024年度補正予算案には、先端半導体の国産化を目指す「ラピダス」などの支援に約1兆5000億円を計上している。債務保証などを合わせて4兆円超を投じる方針といい、半導体支援に巨費が垂れ流されている状況にある。 

 

 その一方で、政府は12月から「ガソリン補助金」の段階的縮小を決めた。ガソリン価格の上昇を受けて2022年にスタートし、これまで1リットルあたり10円程度の補助が行われてきた。だが、12月19日からは5.1円に縮小され、2025年1月中旬以降は残る5.1円の補助も消えるというのだ。 

 

 年末年始に帰省したり、旅行したりする人は多いが、そのタイミングで国民は1リットルあたり10円程度の負担増となる。与党が衆院で過半数割れした今、国民民主党が主張しているガソリン税の一部を軽減する「トリガー条項」凍結解除が実現するものと期待したいが、なぜ車の利用頻度が多い時期に国がこうした判断をしたのかナゾでしかない。 

 

 帝国データバンクによると、2024年の値上げは1万2520品目に上り、年間の平均値上げ率は17%となった。2025年もコストプッシュ圧力が継続するとみられるという。2025年1―4月の値上げ品目数は3933品目、値上げ率は17%になる見込みだ。原材料高が主要因であるのは間違いないが、政府は一体なにをしているのかと言いたくもなる。値上げラッシュの再燃は国民にさらなる大打撃となるだろう。 

 

 わが国は残念ながら、高齢化と人口減少が同時に進み、かつての勢いを取り戻せないばかりか、国力そのものが失われていく危機が到来すると予測されている。そうした中で国は半導体産業への支援を中心に巨費を投じるものの、国力の源泉である国民の悲鳴にどれだけ耳を傾けているのか。国会中継を眺めていても、石破首相から将来も見据えた羅針盤が示されることはない。個人も企業も「勝ち組」と「負け組」の差がはっきりしてきた今、楽天・三木谷氏のメッセージが妙に響く。 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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