( 234641 )  2024/12/17 16:59:06  
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北陸新幹線(画像:写真AC) 

 

 北陸新幹線大阪延伸で与党整備委員会が国会内で開かれ、松井孝治京都市長、西脇隆俊京都府知事が「小浜・京都ルート」への懸念を伝えた。 

 

「事実上の反対」 

 

と受け止める声もある。 

 

「京都の地下水は酒造りだけでなく、京料理や染色に欠かせない。(小浜・京都ルートは)生活や産業、文化を支えてきた水に対する懸念が残る」。 

 

与党整備委員会のヒアリング終了後、報道陣に囲まれた松井市長は地元の不安を伝えたことを明らかにした。松井市長と並んで報道陣に対応した西脇知事は 

 

「(整備には)府民の理解と納得、関係市町の協力が不可欠。施工上の課題に慎重な調査と地元への説明が必要なことを申し上げた」 

 

と述べ、懸念解消に努めるよう求めたことを説明した。 

 

 この日の与党整備委員会は、国土交通省と鉄道建設・運輸施設整備支援機構が示した京都市内の駅設置候補3案など詳細ルートについて、松井市長と西脇知事、吉村洋文大阪府知事から意見を聞くのが目的。既に福井県の杉本達治知事、JR西日本の長谷川一明社長から意見聴取を済ませている。 

 

 しかし、松井市長、西脇知事は詳細ルートについて明確な回答をしなかった。地下水への影響などに対し、現時点で十分な判断材料がないと考えていることが背景にあるようだ。さらに、松井市長は市財政の厳しさを示しながら、詳細ルートの決定について 

 

「慎重に慎重を重ねて精査してほしい」 

 

と訴えた。 

 

 吉村知事は大阪への早期延伸が第一としながらも、2016年に試算された事業費2.1兆円が最大5兆円以上に増える新たな試算が示されながら、開通効果を金額に換算する便益が公表されていない点を取り上げ、 

 

「費用対効果を示すべき」 

 

などと主張した。 

 

北陸新幹線京都駅周辺のルート案(画像:国土交通省) 

 

 小浜・京都ルートは福井県敦賀市の敦賀駅から同県小浜市へ西進したあと、地下トンネルを通って京都府内を南下する。停車駅としては小浜市で東小浜駅周辺、京都市内で下京区の京都駅周辺地下2案、南区の桂川駅周辺地下の計3案が示されている。その後は京都府京田辺市の松井山手駅付近に駅を設置して大阪市淀川区の新大阪駅へ向かう。 

 

 しかし、トンネル工事による地下水など環境への悪影響が京都府内で不安視され、環境アセスメントが大幅に遅れたことなどから、敦賀駅から滋賀県米原市の米原駅へ接続する 

 

「米原ルート」 

 

への転換を求める声が上がっている。 

 

 小浜・京都ルートか米原ルートかの論争は北陸地方で浮上した。北陸地方は古くから関西との結びつきが強く、できるだけ早く大阪延伸を実現させたかったからだ。福井県は小浜・京都ルートを強く訴えるが、石川県では県議会や加賀市、小松市など県南部の地方自治体などが米原ルートへの転換を訴えている。 

 

 

酒造業者が集積する京都市伏見区(画像:高田泰) 

 

 こうしたなか、松井市長や西脇知事はルートの是非に関して明確な意思表示をしてこなかった。西脇知事の就任は2018年、松井市長は2024年。2016年に選定された小浜・京都ルートは就任前からの決定事項で、口を挟みにくい一面もあったのだろう。 

 

 だが、京都府内の不安はトンネル工事の地下水への影響、大量に発生する建設残土、残土に含まれる重金属問題、ばく大になると見られる地元負担など多岐にわたる。小浜・京都ルートに対する反対の声は沿線住民だけでなく、地方議会の議員や経済界からも出ている。 

 

 12月に入っても京都府酒造組合連合会が地下水に影響がないルートにするよう国などに働きかけを求める要望書を京都府市に提出したほか、府議会にはルート再考を求める請願が元自民党府議から提出された。 

 

 石破茂首相は衆議院本会議で日本維新の会の前原誠司共同代表の代表質問に「速達性や利便性などを考慮し、小浜・京都ルートに決まったと承知している。ルートを絞り込んだうえで1日も早い全線開業を目指す」と答えたが、京都府内で反対の声は高まる一方。松井市長と西脇知事が懸念を伝えたのは、地元の声を受け止めた側面もあるとみられる。 

 

北陸新幹線停車駅候補2案が出ている京都駅(画像:高田泰) 

 

 整備新幹線のルートは与党の判断に基づき、国が決定する。着工条件は 

 

・安定的な財源見通し 

・収支採算性(営業主体の収支改善効果が30年平均でプラス) 

・投資効果(費用便益比が1を超す) 

・営業主体となるJRの同意 

・並行在来線経営分離についての沿線自治体の同意 

 

である。だが、松井市長は12月の定例記者会見で地下水への影響、建設残土処分、工事による交通渋滞、地元の財政負担という四つの懸念を挙げ、 

 

「説得力のあるデータや根拠で安心できると確信を与えていただかなければ、私は同意できない。駅を造る当該市の市長がどういう判断をするか、想像してほしい」 

 

と述べた。 

 

 懸念が解消されなければ反対に回る可能性があると受け止めてもおかしくない厳しい発言だ。地元の自治体が反対の立場を取れば、事業の推進は難しい。年内に詳細ルートを決め、2025年度に着工したい意向を持つ与党整備委員会には、高いハードルになる。 

 

 しかも、トンネル工事には道路の陥没や井戸の水枯れなど想定外のトラブル発生が少なくない。特に深さ40m以上の大深度地下工事となると、 

 

「掘ってみなければ影響はわからない」 

 

と考える専門家もいる。地元の財政負担軽減には財務省の抵抗が予想される。松井市長や西脇知事を納得させられる説明ができるのだろうか。与党整備委員会はあらためて会合を開き、対応を協議するもようだが、自民党国会議員のなかには 

 

「京都府市が事実上、反対に回ったように見える」 

 

との声も聞かれた。大阪延伸を巡る混迷はさらに深まり、出口が見えない。 

 

高田泰(フリージャーナリスト) 

 

 

 
 

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