( 234671 )  2024/12/17 17:34:25  
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日本銀行 植田和男総裁 Photo/gettyimages 

 

日銀の金融政策決定会合(以下、決定会合)が、12月18・19日に行われる。筆者はここで0.25%の利上げが実施される可能性が極めて高いと考えている。 

 

前編『悩める日銀・植田総裁は「利上げ」を虎視眈々と狙っている…!次の決定会合で可能性高まる「利上げ」と「住宅ローン」のヤバすぎる関係』で説明してきたように、すでに民間の金利はジリジリと上昇しており、住宅ローンでは借入れている変動金利型の金利の引き上げが行われている。一段の利上げとなれば、物価高に加え住宅ローンの返済額増加という負担が襲いかかることになる。 

 

日銀が12月決定会合で利上げを行うと考える理由を説明しよう。その背景には2つの要因がある。 

 

植田総裁は本来、早期に利上げをしたいと考えている。ただし、植田総裁は9月の決定会合後の会見で、(次の利上げを判断するまでには)「時間的余裕はある」と発言し、追加利上げを急がない姿勢を示していた。 

 

ところが、10月の決定会合後の会見では一転して「『時間的余裕はある』という表現を使うのをやめた」と発言し、「今後は、政策決定は会合ごとに判断する」とした。 

 

植田総裁の発言が変容したのは、政治的な圧力が背景にあったものと考えられる。 

 

植田総裁は、政治的な圧力から解放された Photo/gettyimages 

 

9月に行われた自民党総裁選の前後、次期総裁の有力候補とされていた石破茂氏が追加利上げに否定的な考えを持っていることが報道された。そこで、植田総裁は石破政権発足を見据え、石破政権からの利上げを牽制する政治的な圧力を、「時間的余裕はある」と発言することで、かわそうとしたのだろう。 

 

しかし、その状況は10月27日に行われた衆議院選挙で大きく変化した。自民党が大敗、公明党との連立政権は過半数を維持できなかった。これを受けて、植田総裁は10月30・31日に行われた決定会合の会見で、前月の「時間的余裕がある」という発言を訂正したのだった。 

 

発言を翻した理由について総裁は、「10月初めに発表された米国の9月雇用統計が上振れたことなどから、米国経済の下振れに関わるリスクは低下したと判断した」と述べているが、明らかに政治状況の変化が要因にあるだろう。 

 

なぜなら、総選挙前の10月24日の主要20ヵ国(G20)財務相・中央銀行総裁会議閉会後の記者会見では、「時間的な余裕はある」と述べ、追加利上げを急がない考えを改めて強調していたのだから。 

 

つまり、10月24日から植田総裁の変節が明らかになった10月31日の記者会見までに、変節を誘引する出来事と言えば、10月27日の自民党大敗しかないのである。 

 

自民党の大敗で日銀への政治的圧力が弱まると考えた植田総裁は、10月31日の会見で『時間的余裕はある』という表現を使うのをやめた」と発言したのだ。 

 

 

筆者が次期政策決定会合で利上げが行われると考える2つ目の理由は、市場の動向だ。 

 

7月31日の0.25%の利上げ実施にもかかわらず、長期金利(10年物国債金利)は大きく低下し、一時0.80%を割り込んだ。その後は、ジリジリと上昇しているものの、“利上げ効果はなかったに等しい”。 

 

一方で、為替は一時140円割れまで円高が進んだが、その後は155円台まで円安進行が進み、再び、輸入物価高の兆候が見え始めている。 

 

植田総裁としては、ここで円安抑制のために利上げを行い、物価高の歯止めとしたい。そう考えても不思議ではないだろう。衆議院で過半数割れとなり、政策運営が難しくなった石破政権にとっても、日銀が物価抑制のために利上げを行うことは好意的に受け入れられると見ているのだろう。 

 

そもそも、植田総裁は利上げの条件について、「日銀の経済・物価見通しがオントラック(想定通り)であること」をあげている。 

 

「時間的余裕はある」と発言した9月の決定会合ですら、「経済・物価見通しはオントラック」だと言っていた。つまり、植田総裁としては、なるべく早く利上げをしたいのだ。にもかかわらず、「時間的余裕はある」と発言したこと自体が矛盾していたのである。 

 

日本銀行 Photo/gettyimages 

 

米国では、FRB(連邦準備制度理事会)が11月に0.25%の利下げを実施した。2会合連続での利下げだ。それでも、円安・ドル高傾向に変化は見られない。 

 

11月には決定会合がなかった日銀が、12月の決定会合で利上げを実施しなければ、円安は一段と進むことになるだろう。 

 

だが、日銀の利上げは国民生活を苦しめることにもなる。住宅金融支援機構の24年4月の調査結果によると、今や住宅ローンの変動金利型の利用者は、住宅ローン利用者の76.9%にのぼっている。 

 

つまり、住宅ローン利用者の約8割の人が今後、金利のローン引き上げを見舞われ、返済額が増加することになる可能性がある。これは、個人消費を冷え込ませる一因にもなるだろう。 

 

すでに、筆者の周りには低金利の00年代に変動金利で住宅ローンを組んだ友人から、「7月の追加利上げの影響で、来年1月に金利の見直しが行われ、毎月の支払いが3000円ほどアップする」という悲鳴が聞こえている。 

 

それでも、金融正常化はやれるときにやらねばならぬと、植田総裁はそう覚悟しているだろう。 

 

物価高も厳しい、住宅ローンの金利上昇も死活問題。日本にとって、これまでの量的緩和のツケは、こうして庶民に付け回されるのだろう。 

 

さらに連載記事『その時、現場は凍り付いた…!植田日銀総裁に「経済学の大天才」が噛みついた!その「空気よまない直言」のヤバすぎる中身』では、これまでの金融緩和の影響を受けて日銀や識者の間でどのような議論が行われているのかを紹介している。ぜひ、参考としてほしい。 

 

鷲尾 香一(ジャーナリスト) 

 

 

 
 

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