( 234751 )  2024/12/17 18:43:47  
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ポッカサッポロフード&ビバレッジの吉川和彦さん。マーケティング本部ブランドマネジメント部マネージャーとして「ポッカレモン100」のリニューアルを担当(筆者撮影) 

 

 ポッカレモン100が機能性表示食品として9月にリニューアルした。ポッカレモン100に含まれるクエン酸に、高めの血圧(収縮期血圧)を下げる機能が確認されたそうで、ポッカレモン100の内容や成分の変更はないという。約70年前に発売されたロングセラー商品に眠っていた潜在的な能力を見出したのである。 

 

■果汁100%のポッカレモンは1972年に誕生 

 

 ポッカレモンとは、ポッカサッポロフード&ビバレッジが販売する、レモン果汁を主力商品とするブランドで、1957年の発売以来、長年にわたって日本の食卓に親しまれてきた。発売当初は天然レモンの香りを付けた合成レモン果汁であったが、1972年に果汁100%の商品へとリニューアルした。 

 

 1990年の入社以来、長きにわたってポッカレモンに携わっている、マーケティング本部ブランドマネジメント部マネージャーの吉川和彦さんに話を聞いた。 

 

 「入社して4年後に商品開発室でポッカレモンを担当することになり、1990年代(当時ポッカコーポレーション)は売り上げのほとんどがポッカコーヒーをはじめとする飲料でした。上司から『レモンカテゴリーは商品開発の仕事がなくてごめんね』と言われました。当時は缶コーヒーが花形の部署でしたね」(吉川さん) 

 

■「どうあるべきか」を常に考える 

 

 しかし、ポッカの創業者であり、ポッカレモンの生みの親である谷田利景氏にとっては思い入れのある部署だったようで、頻繁に訪れては「社会に対してポッカはレモンを通じてどう貢献していくのか」と、社員1人ひとりに問いかけた。とかくサラリーマンは目の前のことに追われがちだが、「どうあるべきか」という視点こそが谷田氏の経営哲学であり、ポッカのDNAだった。 

 

 「商品はどうあるべきか?  事業はどうあるべきか?  社会は、人間はどうあるべきか? など、谷田はことあるごとに問いかけてきました。そのおかげで、『どうあるべきか』を徹底的に考える習慣が身につきました。当時はポッカコーヒーの全盛期でしたが、ポッカレモンなどの食品の分野においても成長させていかねばらないという問題意識を持つ上司もいました」(吉川さん) 

 

 

 当時、ポッカレモンの消費をより拡大するために、吉川さんはポッカレモンの商品とその展開はどうあるべきかを考えた。そして、消費者や飲食店へのヒアリングを重ねながら販路拡大のアイデアを立案した。 

 

 その1つが1990年代からの100%レモン果汁調味料としての用途別提案「ポッカ100レモン〈調味料宣言〉」として社内の位置づけを変更させるリポジショニングである。1994年に発売された70ミリリットルの「食卓レモン」を唐揚げなどの揚げ物や焼肉、サラダにかけて食べるというスタイルを提案し、スーパーでも飲料の棚から調味料の棚へ移設してもらうように働きかけたのだ。 

 

 「スーパーの調味料棚は、飲料棚よりもお客様の立ち寄り率が高いと言われています。調味料棚を確保したことで売り上げを伸ばすことができました。さらに、1995年に『焼酎用レモン』(現在は「お酒にプラス レモン」)を発売しました。その頃、段階的に行われてきた規制緩和によってお酒のディスカウントショップが増えていたこともあり、よく売れましたね」(吉川さん) 

 

 各売り場でポッカレモンが売れるのは、美味しくなるだけではなく、健康にも良いというイメージを抱くからだろう。吉川さんはレモンそのものの価値を高め、伝えていく必要があると考えて、社内外の研究者とともにレモンに含まれるさまざまな成分とその効能について研究を重ねた。 

 

■ビタミンC以外の成分に着目 

 

 そこで着目したのは、今や世の中にすっかり定着したクエン酸である。レモンに多く含まれるクエン酸に、カルシウムを溶けやすい形に変える「キレート作用」があることが2000年頃に発表され、ビタミンC以外の新しいレモンの価値が広がるきっかけとなった。2001年に発売されたのが、そう、レモン1個分の果汁が入った「キレートレモン」である。 

 

 「1990年代にブームとなったはちみつレモンのようなマイルド路線と差別化を図るべく、レモン1個分の果汁をマストとして、レモンらしさをとことん追求しました。今思えば、かなり尖った商品だったと思います。社内でも賛否は分かれましたが、今では主力ブランドまで成長しました」(吉川さん) 

 

 

 「キレートレモン」はリニューアルを重ねて、現在はクエン酸2700ミリグラム入りの「キレートレモン クエン酸2700」のほか、一時的に自覚する顔のむくみ感を軽減するレモン由来モノグルコシルヘスペリジンが入った「キレートレモン MUKUMI」などラインナップを増やしている。 

 

 一方、ポッカレモンは2000年代に入っても売り上げは順調に推移していったものの、似たような商品やより安価なPB商品などが市場に広く流通するようになっていた。発売50周年を迎えた2007年にポッカレモン事業のブランドを「ポッカレモン100」に刷新したが、競合他社と差別化するまでには至らなかった。 

 

 「ポッカレモンはロングセラーゆえに変われないことが課題でした。2010年頃からは、食育などさまざまな活動を通じてレモンの価値を広めてきましたが、今回のリニューアルにより機能性表示食品として商品そのもので価値を訴求できるようになった」(吉川さん) 

 

■高めの血圧を下げる効果を調査 

 

 規制緩和による、機能性表示食品制度が始まったのが2015年。当時、吉川さんはレモンのさらなる価値向上をめざすべく、異動先のサッポロホールディングスでレモンの摂取とむくみや血圧などとの関係について研究していた。 

 

 2018年に臨床試験がはじまり、その翌年に日本で初めて顔のむくみと脚のむくみ、とくに顔のむくみを低減するという機能性表示食品をめざして申請した。が、消費者庁からは、「健康の維持増進に資するのか?  有効なのか」という問い合わせがあった。 

 

 「そこで顔のむくみにどれだけ多くの人が悩み、経済損失を生んでいるのかを調査して、データにまとめて報告しました。しかし、その後も都合5回ほど問い合わせがあり、その都度対応策を実施しました。結果、丸1年かかりましたが、2020年にやっと申請が受け付けられました」(吉川さん) 

 

 そして、2年後の2022年に前出の「一時的に自覚する顔のむくみ感を軽減する」という機能性を表示した「キレートレモンMUKUMI」が発売された。 

 

 血圧については、2000年代前半にポッカレモン100のユーザーとの座談会の中で「ポッカレモン100を使っているおかげで体の調子がいい」という意見が吉川さんの心にずっと引っかかっていたことをきっかけに研究がはじまった。 

 

 「まずは2016年に恵比寿の本社と大阪の近畿本部の社員約100名を対象に、ポッカレモン100を1日30ミリリットル摂取してもらい、血圧のデータ収集を行いました。毎日社内で摂取できるように専用の冷蔵庫を用意したり、データの入力を促したりするのが大変でしたが、高めの血圧を下げる効果がありました」(吉川さん) 

 

 

 2019年に「ポッカレモン100」摂取終了後の経過観察も含めた16週間にわたる臨床研究でも同様の効果を確認することができたため、2023年12月に機能性表示食品の申請を行った。今年5月に受理され、これがポッカレモンのリニューアルを方向づけるものとなった。 

 

 吉川さんが入社して34年。ポッカレモンとは遠い部署へ異動したこともあったが、レモンに関する知識とレモンを軸とした商品開発の経験は社内随一の存在である。また、谷田利景氏から直に薫陶を受けた、創業者のDNAを受け継ぐ一人でもある。そんな吉川さんが描くポッカサッポロのレモン事業の将来像とはどんなものなのだろうか。 

 

 「レモンのさらなる可能性を拓いて、1日1個、毎日レモンを摂る習慣を日本社会に浸透させたいですね」(吉川さん) 

 

 筆者も健康が気になる年齢でもあるので、早速、今日から夕飯のおかずにレモンをちょい足ししたり、お酒に加えたりしてみようと思う。 

 

永谷 正樹 :フードライター、フォトグラファー 

 

 

 
 

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