( 235026 ) 2024/12/18 03:34:16 0 00 フリード公式サイトより筆者スクリーンショット
2008年、「最高にちょうどいいHonda」というキャッチコピーとともにホンダ「フリード」がデビューした。
狭い日本の道路事情に最適化されたコンパクトミニバンとして、多くのユーザーに支持され2021年6月末時点で、100万台を突破。16年にわたって進化を続けてきた。
そして2024年6月に発売された、3代目フリードは日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。ミニバンとして初の快挙を成し遂げた。
フリードはなぜこれほど評価されたのか? その答えは、単なる機能性やデザイン性を超えた「こころによゆう」を生む設計思想にある。ホンダが描く「ちょうどいい」の哲学は、どのようにフリードに反映されているのか。
抽象的な話をする前に、まずはフリードの車内を改めて見てみよう。
乗り込むと思わず「おお」という声が漏れてしまう。シートに座ると、車の中というよりはインテリアショップに展示してあるソファに腰掛けているような気持ちになるのだ。
シートの座り心地はよく、ダッシュボード前方にはグレージュのファブリックが貼られており、メーター周りやナビ画面を包み込んでいる。目を三角にして走りこむというよりは、リラックスして運転できる。そんな雰囲気だ。
運転席から振り返ると、そこには4.3メートルの全長からは想像できないほど広大な空間が広がっている。2列目は3人掛けのシートと2人掛けの2パターンが選択でき、このモデルは2人掛けの左右独立シート。それぞれのシートにアームレストが備わっているので帰省時の長距離でも家族全員が不満を感じないだろう。
また、このモデルでは中央に3列目への通り道がある。後部座席に座る子どもにジュースをあげる際など、何かと補助が必要なシーンに役立ちそうだ。
「新型フリードのすべて」(三栄書房、2024年)というムック本に載っている開発者インタビューによると、フリードの開発チームには、子育て中の現役世代が多く参加しているという。
その実体験から生まれたのが「こころによゆう」というテーマだ。子育てで感じる日々のストレスを軽減し、家族全員が心地よく過ごせる空間を提供することが目指された。そこで上述のように、3列目までもが余裕を持って座れる広大な室内空間から開発がスタート。
例えば、ライバル車種であるトヨタ「シエンタ」の3列目シートは緊急用といった小さな仕立てになっている一方、フリードは長時間の乗車でも快適さを保てる設計になっている。
内装素材にも細かな工夫が施されている。室内のプラスチックにはシボ加工が施されており、車内で子どもが内装を蹴っても傷がつきにくい。
またシートのファブリックは汚れにくい撥水撥油コーティングがされ、子どもがジュースをこぼしたとしても心理的なストレスが軽減される。これらの工夫は、単なる機能的な利便性を超え、「こころのよゆう」を感じられる車作りを実現している。
ホンダの凄さをデザイナー視点でさらに深掘りしてみよう。
デザイナーの間では知られているが、一般的にあまり有名でない点に、ホンダ車のデザインプロセスがある。ホンダは「どのように人を座らせるか」という設計を最初に行うのだ。
車の設計には2つの方法がある。一つは外観スケッチを書き、形状に合わせて全体を設計する方法。
そしてもう一つがホンダのように、車全体の大まかな枠組み(パッケージ)を先に作り、その上に外装デザインを構築する方法だ。そうすることで、枠にはまらない自由な空間の形を提案できると考えているからだ。
そのため「運転席のここに収納があった方が使いやすい」とか「女性でも簡単に自転車を載せられる」といった、空間の使い方が最初に決まる。これがホンダの車の強さなのだ。
なぜこのような体制が取られているかというと、ホンダの車作りの基本思想に「マン・マキシマム、メカ・ミニマム(MM思想)」があるからだ。人が乗る居住空間を最大に(マン・マキシマム)、エンジンなどのメカは最小に(メカ・ミニマム)するというスローガンであり、1967年に発表したN360以来、受け継がれている。
そして、この「マン・マキシマム、メカ・ミニマム」という設計思想をガッツリと取り入れている車こそがフリードなのだ。
完璧な車は存在しない。しかし、もし私が子どもを育てながら、週末の買い物や家族旅行、趣味のキャンプにも使える積載量と優れた燃費性能を求めるなら、このフリードを選ぶだろう。
WLTCモードで25.6km/Lという高燃費を実現したハイブリッドシステムを搭載し、多用途性、価格、そして日本に最適化されたサイズ感など、すべてにおいてバランスが取れている。まさに、日本の家族の日常に寄り添う「ちょうどいい車」であり、フリードが2024年日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したのも納得できる。選考委員であるモータージャーナリスト河口まなぶ氏も、「今の日本に求められる自動車を実現した一台」と絶賛している。
16年にわたる進化を経て、多くの人々に支持され続けるフリード。その存在は、日本独自のモビリティとして、これからも多くの家庭を支え続けるだろう。
山中将司
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