( 235051 )  2024/12/18 03:53:25  
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(写真:ブルームバーグ) 

 

 LINEヤフーがフルリモート勤務を廃止すると発表しました。4年前、コロナ禍のさなかの2020年、ヤフー(ヤフーは2021年にLINEヤフーに統合)は当時の採用情報Twitterで、「今日はオフラインの世界最後の日。明日からヤフーは仕事環境をオンラインに引っ越します」と宣言してビジネス界隈で話題になりました。 

 

 「この先コロナが終息しても、ずっとリモートワーク。今と同じく、面接もずっとオンラインですよ」とも投稿していて、それを魅力と感じてヤフーに転職した人もいたようです。 

 

 その後もこのフルリモートを継続していたのですが、LINEヤフーは来年2025年4月からは事業部門は週1回、開発部門を含むコーポレート部門は月一回の出社を求めるという形に制度を変更すると発表したのです。 

 

 このニュースの発表を受け、ネットでは「ずっとフルリモートワークをちゃぶ台返し」として制度変更を悲しむ声が多々上がっています。 

 

■勤務地は国内のどこでもOKで移住した社員も 

 

 ヤフーのこれまでの制度では勤務地を国内のどこでもOKとしていて、交通費の上限も撤廃しました。会社の要望に応じて出社する場合は新幹線ないしは航空機の料金は会社が支払う制度です。この制度を利用して沖縄県に移住して、月1回程度の出社であとは海を見ながら仕事をこなす社員がいるという話も話題になりました。 

 

 ちなみに可能性としては世界中を旅して仕事をこなすノマドワークもありかもしれませんが、就労VISAの問題があります。たとえ自腹で海外航空券を購入していたとしても働き方としてはグレーゾーンのため、この記事で取り上げることはしません。 

 

 さて、これまで沖縄や北海道、軽井沢や金沢などに移住して仕事をしてきた人や、関西、九州など地元に戻りながら東京本社のLINEヤフーに勤務をしてきた人は来年4月からどうなるのでしょうか?  事業部門勤務であれば月4回の長時間通勤を義務付けられることになるのですが、それは何のためなのでしょうか?  ビジネスの複数の側面から解説してみたいと思います。 

 

 

 まず最初に世界の趨勢を整理しておきましょう。GAFAの状況を整理すると、どこもフルリモートを廃止しています。グーグル、アップル、アマゾンは週3回の出社を義務付ける制度に変更していて、これが大手IT企業のある種の基準となっているようです。 

 

 メタのザッカーバーグCEOはさらに踏み込んで「週の大半をオフィス勤務するように」としていますし、イーロン・マスク率いるXとテスラは「最低週40時間のオフィス勤務を要求」していてこれに従わない場合は辞職を求めています。 

 

 そもそも雇用契約としてこのような制度変更はどうなのかという疑問がわく方もいらっしゃるかもしれませんが、GAFAの場合は出社とリモートワークに関する細かいルールが設定されていて、制度変更含めて基本的には合法的(アメリカなので裁判での係争は可能ですが)に制度が設計変更されています。 

 

■フルリモート廃止が世界の趨勢になぜなった?  

 

 GAFAにしてもLINEヤフーにしても、根本的にはビジネスをやっている組織なので、経営の前提が変化すれば経営者が制度を変えようとするのは当然のことではあります。 

 

 イーロン・マスク氏の40時間出社強制はオーナーとしての強権発動の側面が強いと思われます。裁判で係争になるケースも増えますが、経営スタイルとしてそれらの摩擦を乗り越えてでもオーナーにとって理想的な会社組織に持っていくという哲学に基づいた行動です。 

 

 前の経営者との約束を反故にしてでも前に進む、それに伴う訴訟や賠償のコストは織り込むというスタイルであり、これはこれでひとつの極端なやり方だと考えるべきでしょう。 

 

 さて、世界の趨勢をこのように整理したうえで、頭に浮かぶいくつかの疑問を整理しておきましょう。 

 

・なぜフルリモート廃止が経営の前提として世の中の趨勢になってきたのか?  

・LINEヤフーの場合、今後週1回よりも状況がエスカレートする可能性はあるのか?  

・制度変更を嫌って優秀な社員が去っていくリスクをどう考えるべきか?  

 それぞれについて考えてみましょう。 

 

 まず一番目のフルリモート廃止の動きから解説します。前提としてリモートワークに関する運用面の弊害については、2024年時点でほぼほぼ解決されつつあります。 

 

 

 2010年代の会社シーンと比較すれば、リモート会議は日常的に行われるようになりましたし、リモート出勤者の退勤管理も普通に行われています。仕事はチャットを活用して行われるので呼びかけに応じない社員がいればすぐに判明します。 

 

 導入黎明期の課題としては管理できるのかということと、社員を評価できるのかの2点が経営面の課題でした。SNSでテーマパークで遊びながら仕事をする社会人が話題になったことがありますが、アトラクションにライドするぐらいの短時間のサボりが技術的な限界で、仕事中に買い物に出かけたり映画を見に行ったりは難しい。まあ飲酒勤務は酔っぱらわない限りはばれないと思いますが(運輸業などを除く)、管理という面ではリモートワーク制度は整備が進みました。 

 

■リモートでの管理と評価の問題はクリアしたが… 

 

 評価の面でもそれぞれの社員に要求する業務や、求める能力が言語化されてきていて、それに対して半年でどこまで到達しているのかはリモートでも一定の評価方法が定着してきました。 

 

 以前、2010年代の会社シーンでは、出社していても仕事をしているふりをしているだけでネットサーフィンをしていてもばれないような会社もあったのですが、リモートワークが定着すると逆にずっとパソコン画面を注意して見ていないといけなくなり、むしろさぼりにくくなったという意見があるぐらいです。 

 

 もちろん出社時とは違って、服装がルーズでいいとか、姿勢はソファに寝転がってとか、全体的にだらける傾向にはあるようですが、だらけと生産性は別問題です。自宅だとうるさくて仕事に集中できないという社員の場合、積極的に出社を選べるなど制度にも柔軟性が加わりました。 

 

 このように管理と評価の問題がクリアされたことで、生産性という視点では実はリモートワークのほうが会社にとって都合がいい場合も散見されるようになりました。 

 

 ではそこまで進化したリモートワークがGAFAを中心に縮小の流れにある理由は何なのでしょうか?  一番大きな問題として挙げられるのは、コミュニケーション不足にともなうチームワーク力の低下のようです。 

 

 会社は人間の組織である以上、組織力というものは重要な経営要素です。日常的に顔を合わせてさまざまな摩擦が生じることで逆に結束が強まりチーム力が生まれるといった効果には社会学的には無視できないパワーがあります。 

 

 

 単純な例としては、何か近くでトラブルが起きている際に、自分の担当ではなくても手をさしのべて助けるかどうかは、その相手との心の距離感が関係してきます。日常的に同じ場所で働いていて顔をつきあわせているケースと、リモート画面では顔をつきあわせてはいるけれども異動後にチームメンバー同士が会う機会が少ないケースでは、前者のほうが協力度合は各段に強くなる傾向があります。 

 

 またコミュニケーションを通じて創造性が生まれる機会も重要です。職場における雑談にも重要性があって、これは生産性を妨げる要素ではなく、むしろ創造性を生むプロセスであると考えられます。部署が違う社員同士が喫煙所で言葉を交わすうちに、いいアイデアが生まれるという喫煙所効果は、ビジネスの現場では無視できないほど重要な要素なのです。 

 

■GAFAの週3回出社と比べると「微修正」 

 

 LINEヤフーの場合、事業部門で週1回、コーポレート部門では月1回と出社要求頻度が異なる背景としては、事業部門のほうがよりチームとしての結束力がビジネスとして重視される側面があるということだと考えられます。 

 

 では逆説的に専門社員の場合は結束力はそれほど必要ないので出社しなくてもいいということなのでしょうか?  たとえば法務部門の社員などは月1回の出社でいいというのは適正レベルなのでしょうか?  コロナ禍以前からリモートでの分業スタイルが定着している開発部門の社員などまったく出社しなくてもいいのではないのかと言われたらどう答えるべきでしょう?  

 

 GAFAの場合、チームの結束に加えて2番目の要素として重視されていることが企業文化の維持強化です。専門社員であればあるほど、放置すれば一匹狼に進化するのが自然です。一方でビジネスを遂行する大組織としては組織文化は重要な要素ですし、それが顧客から見ればブランドとして機能します。そのためだけの目的でも専門社員もGAFAでは週3回職場で顔を合わせるという制度には一定の意味があるのです。 

 

 このようにフルリモート廃止の理由を整理していくと、次の考察としてLINEヤフーの制度改正はそれでも世界の趨勢と比較すればフルリモートに極めて近い制度への微修正にすぎないことがわかります。週3回勤務が世界の趨勢なのに、月1回で済むのですから、沖縄の先島諸島から勤務している本社勤務社員のような人にとっての影響は軽微に見えます。 

 

 

 
 

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