( 235261 )  2024/12/18 17:31:33  
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山下真知事は、2023年に奈良県知事に就任したが、多くの公共事業を見直し、コスト削減、予算の効率的な活用を推進してきた人物だ(画像:山下まことHPより) 

 

 奈良県が国際交流事業としてK-POPの無料ライブを企画していることに対し、一部の県議が異議を唱えているとの報道がなされ、それが火種となってネット上でも物議を醸し、炎上といってもいいような状態になった。 

 

 16日の県議会では、県が提出した補正予算案が賛成多数で可決。費用や運営方式については再検討の余地を残しつつも、ライブは予定通り開催される見込みとなっている。 

 

 どうして一県のイベントが、日本全国で注目を浴び、物議を醸してしまったのだろう?  

 

■火に油を注いだ知事の“説明” 

 

 まずは、経緯を整理しておこう。 

 

 きっかけとなったのは、12月11日の朝日新聞の「奈良公園でK-POP無料ライブ 県の事業費2億円超に疑問の声も」という記事だ。本記事では、K-POPライブの開催計画に対し、「自民党・無所属の会」の県議が異議を唱えていることが報じられた。 

 

 この報道を受けてのことと思われるが、山下真・奈良県知事は、12月12日に自身のXアカウントに「様々なご意見を頂戴しておりますので、その背景事情を説明させていただきます」として、開催の意義について説明を行った。 

 

 ところが、山下知事の投稿文の中に「お金のない日本の若者も大好きなK-POPアーティストに生で接することができ」という表現が含まれていたことで、SNS上で「若者が貧しくならないようにするのが行政の役割ではないか?」「(韓国ではなく)日本の若者にお金を回すべきだ」といった批判が投稿され、新たな物議を醸してしまう結果となった。 

 

 これを受け、14日、山下知事はX上に、追加で下記のような説明を行った。 

 

 私の投稿に「お金のない日本の若者も」という表現がありましたが、日本の若者がお金がないという意味ではなく、「日本の若者も財布の中身を気にする必要なく」という意味ですので、誤解を与えた方にはお詫びして訂正します。 

 

 さらに、ネット上の「いくつかの誤解等」についても説明を行った。しかしながら、批判は収まることはなかった。 

 

 こうして見ると、知事がXに発信した情報が呼び水となって、さらに議論が巻き起こっていることがわかる。 

 

 最終的には、県議会でも可決されたが、山下知事は、「経費の削減に努め、県民に理解される形で進めていきたい」と表明。経費削減、ライブの有料化の可能性も検討されることになっている。 

 

■SNSで「韓国ネタ」は燃えやすい 

 

 

 山下知事は、2023年に奈良県知事に就任したが、多くの公共事業を見直し、コスト削減、予算の効率的な活用を推進してきた人物だ。なお、山下氏は日本維新の会から初めて奈良県知事に当選しており、自民党系会派と対立することも多い。 

 

 今回の県議会での議論は、この対立構造が背景にあると思われるが、自民側から「予算の無駄遣い」と指摘されるという、皮肉な現象が起こっている。 

 

 県議会での議論はさておき、メディアで報道され、世の中に知れ渡ってしまったため、山下知事はXで説明を行わざるを得なくなったのだと思われる。ただ、X上でそれを行ったことが適正だったのかという疑問は残る。 

 

 そもそも、SNSで「韓国」は代表的な“炎上ネタ”だ。SNSの世界では、ネトウヨ(ネット右翼)と呼ばれる右傾的な思想の人たちの声が目立っており、韓国バッシングが起こりやすい。 

 

 今回の奈良県の話題は、まさに格好のネタだった。ネトウヨまではいかなくとも、SNSには反韓、嫌韓意識を表明するアカウントも多く見られる。 

 

 山下知事は、SNSの投稿にしては丁寧な説明を行っているのだが、どんな説明をしようが彼らには伝わらないし、多くの場合は逆効果になる。 

 

 昨年や今年の紅白歌合戦も、旧ジャニーズタレントが一組も出演しない一方で、K-POPアイドルグループが多数出演し、SNS上で批判を浴びている。 

 

 「大晦日の国民的な歌番組に外国人アーティストが多数出演するのはいかがなものか?」といった批判や、中高年層を中心に「よく知らないグループが紅白に出るのは違和感がある」という意見は、嫌韓、反韓の人たちに限らず、一定の共感を得ているようだ。 

 

 今回のライブ開催に関する、「歴史も伝統もある奈良県が、(日本的なイベントではなく)K-POPのライブを行うのか?」「県民にお金を回すことを優先すべきではないか」という声も、やはり一定の支持を得ているようには見える。 

 

 

 「お金のない日本の若者も」という一文も、全体の文脈を踏まえると理解はできるのだが、この部分が切り取られて、批判的な文脈と結びつけられて拡散されてしまう結果となった。 

 

■自治体のことは、自治体が決めればいい 

 

 K-POPに限らず、韓国の話題は、政治的な主張と結びついて拡散してしまうのだが、一旦そこは保留して冷静に考える必要があるだろう。 

 

 このイベントに意味があるのかないのかをちゃんと検証するのであれば、隣国に対するバイアスを一旦取り払って、客観的に行う必要がある。 

 

 国際交流のイベントは、各所で頻繁に行われている。筆者自身も、代々木公園のタイフェスティバルや台湾フェスティバルに行って楽しんでいるし、最近では、都内のカリブ・ラテンアメリカのイベントに行ってきた。 

 

 K-POPにはあまり興味がないので、イベントがあっても行かないのだが、集客力があり、十分な効果が見込めるのであれば、自治体の主催であっても、やってもいいと思っている。 

 

 ライブ開催にかかる費用は、県内で過去に開催された博覧会の収益からなる基金を活用する方針で、「税金ではない事業収益金が主としてあてられる」としている。 

 

■奈良県民の声を聞くべき 

 

 自治体のことは自治体で決めるというのが原則であると思うし、自県で稼いだお金の使い道は自県で決めればよい。聞くべきなのは奈良県民の声であり、外部の人の意見に過剰に惑わされる必要もないだろう。 

 

 2010年代以降、テレビで韓国ドラマが放映されたり、K-POPアーティストが出演したりすると、「韓国のゴリ推し」という批判が起きるようになった。2011年にはフジテレビに対する抗議デモや、同局のスポンサーの1つであった花王に対する不買運動も起こった。 

 

 多くの批判とは裏腹に、テレビ局が韓国コンテンツに頼るのは、「低コストで数字(視聴率)が取れるから」というシンプルな理由からで、SNSで語られているような、政治的な意図もなければ、陰謀もない。 

 

 現在は、韓国の芸能事務所に日本人タレントも所属するようになっているし、そこから多国籍のグループも生まれている。韓国は物価も高騰しているが、移動に関わる費用や出演料も鑑みると、「国際交流イベント」として費用対効果は悪くはない可能性も十分に考えられる。 

 

 本当に経費が有効に使われているのか、かけた費用に対して十分な効果を上げているかの検証はこれからの課題だが、SNSの声やメディア報道に流されることなく進めてもらいたいと願っている。 

 

西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 

 

 

 
 

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