( 235741 )  2024/12/19 14:57:13  
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スマイル社との裁判に臨む石丸志門氏(撮影/上田耕司) 

 

 旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)の創業者であるジャニー喜多川氏から性被害を受けたと訴えている「ジャニーズ性加害問題当事者の会」(今年9月に解散)の副代表を務めた石丸志門氏(57)は、補償金額をめぐり同社から提訴された。スマイル社が提示した補償金額と石丸氏の希望額に大きな隔たりがあるためだが、石丸氏の高額請求には世間から批判の声も上がっている。石丸氏の真意はどこにあるのか。第一回の口頭弁論(12月20日、さいたま地裁)を前に、石丸氏がAERA dot.のインタビューに応じた。 

 

*  *  * 

 

 石丸氏の自宅に、さいたま地裁から封書が届いたのは11月5日のことだった。 

 

「裁判所の封筒で郵便が届き、中を開けたらSMILE-UP.からの訴状が入っていました。訴状は22ページにも及び、細かく主張が書かれていました。僕は弁護士をつけず、裁判に臨むつもりです。訴状の1項目1項目について、すべて自分で答弁書を作りました」 

 

 スマイル社は今年2月、石丸氏に補償金1800万円を提示したが、石丸氏が求める金額とは大きな隔たりがあったという。その後の調停でも、両者の溝は埋まらず、スマイル社は1800万円を超える損害賠償責任はないことの確認を求めて、さいたま地裁に提訴したと報じられている。 

 

 石丸氏のスマホには、苦心して書き上げた答弁書が入っていた。これまでの補償交渉の経緯を石丸氏はこう振り返る。 

 

「今年2月8日、SMILE-UP.の設置した被害者救済委員会の弁護士と初めて面会しました。5月頃に行われた3回目の面会でも、僕の思っていた額とは大きな隔たりがあったので、平行線で終わりました。すると、SMILE-UP.側の弁護士が『裁判所での調停にしてもらいたい』と切り出してきたんです」 

 

 当初、石丸氏は調停に持ちこむことには難色を示した。 

 

「調停だと時間もかかるし、金額が下がるのではないかと聞くと、SMILE-UP.側の弁護士は『それは調停委員が決めることだから』『費用は全部ウチが出しますから』と。30分くらい説得されたので、じゃあ調停にしましょうと同意したんです」 

 

 さいたま簡易裁判所で行われた調停で、石丸氏が最初に要求した金額は18億4568万32円だった。これが報じられると、SNSでは「金額がケタ外れ、無茶苦茶すぎる」「慰謝料にも相場や判例がある」「他の方々との差がつきすぎる」など批判の嵐が吹き荒れた。 

 

「僕も18億円からもっと減額した案も出しましたが、結局、調停では折り合わなかった。調停委員から『このまま話が平行線だと訴訟になるかもしれない』と言われましたが、『僕はあくまで調停で話をつけたい。裁判は望んでいません』と答えました」 

 

 そうした曖昧な状態が続いていたが、前述のように、今年11月5日にスマイル社から訴状が届き、「いきなり訴訟になってしまった」(石丸氏)という。石丸氏は憤慨した様子でこう続ける。 

 

「昨年10月、SMILE-UP.は記者会見で被害者の救済には時効や証拠も考慮せず、『法を超えた補償をする』と約束していたのに、いきなり訴訟に踏み切るのは乱暴すぎると思います」 

 

 

■1800万を受け取ったら生活保護が切られる 

 

 とはいえ、石丸氏が最初に提示した18億4568万32円という金額の根拠について疑問に思う人が多いのも事実だろう。石丸氏はなぜここまで高い金額を請求したのだろうか。 

 

「働けるはずだった22歳から56歳までの逸失利益、現在の57歳から将来にかかるであろう生活費を細かく計算しました。僕は家族と3人暮らしです。一時期、アメリカで生活してことがあるので、家族でアメリカへ移住したいという希望もあります。移住には引っ越しやグリーンカードの取得なども必要なため、その費用も入れています」 

 

 石丸氏は14歳で旧ジャニーズ事務所に入所。在籍した17歳までの約3年間で、ジャニー氏からの口腔性交による被害は50回以上に及んだという。さらに、それ以上の性被害にもあっていたと語っている。 

 

 その結果、心療内科で「うつ病」と「複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)」の診断を受けた。 

 

「今は仕事ができる状態ではありません。障害者年金と生活保護で暮らしています。もしも、SMILE-UP.から提示された1800万円を受け取った場合、障害者年金は継続されるでしょうが、生活保護は打ち切られると思います。そうすると、家賃や医療費の補助も受けられなくなります。ウチには役所の職員がやってきて『もう、SMILE-UP.からの補償金は出ましたか?』としょっちゅう聞かれます。受け取るのを待っているみたいです(苦笑)。もし1800万円を受け取っても、物価も上昇しているし、何年もつか……。お金がなくなってから再び、生活保護の申請をしても、今度は必ず通るとは限らない。税金で支出する分を、SMILE-UP.に肩代わりしてもらいたい。そうすれば誰にも迷惑がかからないはずです」 

 

 スマイル社は12月13日、これまでに1008人から補償の申告があり、そのうち538人が補償内容に同意、すでに530人に補償金を支払ったと公式サイトで明かした。補償を行わないと判断したのは215人。補償額の平均は発表されていないが、「700~800万円程度だろう」と、既に補償金を受け取った旧ジャニーズのメンバーは推定する。 

 

 これに対して、石丸氏は「算定基準がわからない」と首をかしげる。 

 

「基本的に、SMILE-UP.が設置した被害者救済委員会の決めた金額が相場になります。被害者がそれにあらがっても、ほんの少し上乗せされる場合があるだけ。実質的に“加害者側”が算出した補償額を、被害者がのむしかないという構図になっています。とても、公平性が保たれているとは思えません。そのことに対しても、裁判で一石を投じたいと考えています」 

 

 

■スマイル社とは「食い違い」も 

 

 石丸氏はインタビューが終わると、「当事者の会」代表だった平本淳也氏らと一緒に、旧知の5人組ロックバッド「CORVETTES (コルベッツ)」のライブ会場へ向かった。会場は立ち見も出るほどの盛況ぶり。石丸氏はライブを見ながら、決意を新たにしたのか、こうつぶやいた。 

 

「裁判をやるからには負けるつもりはないです。僕だけの裁判だとは思っていない。不同意性交のすべての被害者のための裁判だと思っているんです。欧米に比べて、日本の性被害に対する補償額は低すぎる。僕が闘うことで、少しでも補償額の底上げをして次につなげたいという思いがあります」 

 

 スマイル社に提訴に至った経緯を尋ねるとこう回答があった。 

 

「プライバシーを尊重する観点から、個別事案についてのコメントは差し控えさせていただきます」(広報窓口担当) 

 

 石丸氏はスマイル社からいきなり提訴されたと主張しているが、「弊社は、『訴状で知らせる前に』お相手の方に対して、提訴の事実を伝えておりました」(同)と、異なる認識を示した。 

 

 また「補償額を“加害者側”が決めており、被害者がそれに納得しなくても少しの増額しか認められない」という石丸氏の証言についてはこう回答した。 

 

「弊社は、再発防止特別チームの提言を踏まえて、補償の要否および補償金額の判断を、独立した立場の被害者救済委員会に一任しております。そして、被害者救済委員会から通知された補償金額にご納得いただけない被害者の方におかれては、不服を申し立てて頂き、被害者救済委員会において再度検討するというプロセスを経ています。補償金の支払いを受けられたことによる誹謗中傷等を避けるため、具体的な補償金額・総額・平均額等を開示しないこととしております」(同) 

 

 弁護士もつけず、たった一人で闘う石丸氏にとっては厳しい裁判となるかもしれない。ただそれでも、性加害を許さないという思いだけで法廷に立つ。 

 

(AERA dot.編集部・上田耕司) 

 

上田耕司 

 

 

 
 

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