( 235909 )  2024/12/19 18:16:40  
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兵庫県知事である斎藤元彦に対する告発が、公益通報として認められた。

公益通報を行った元県民局長による告発は、パワハラとして調査されたが結果は「パワハラを受けたと認識する者は確認出来なかった」という結論に至った。

斎藤知事が公益通報者保護法を否定していたにも関わらず、今回の公益通報窓口からの認定は矛盾を指摘された。

事件の経緯の中で、告発内容の真実相当性や不正目的の判断が焦点となっている。

消費者庁や法改正において、通報者の保護や定義の明確化が検討されている。

最も重要なのは通報内容の真実相当性であり、不利益な取扱いや公益通報者保護法の違反についての議論が進められている。

(要約)

( 235911 )  2024/12/19 18:16:40  
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斎藤元彦兵庫県知事に対する告発が、正式に公益通報として認められた (写真:時事) 

 

 兵庫県の公益通報窓口となる財務部県政改革課は12月11日、斎藤元彦知事のパワハラなどを告発した西播磨県民局長(当時)による公益通報についての調査結果を公表した。強い叱責はあったものの「パワハラを受けたと認識する者は確認出来なかった」などと結論付けている。 

 

 予想された調査結果だが、それよりも注目されたのは県の公益通報窓口が正式に「職員公益通報」と認め、調査結果を出したことだ。これまで「真実相当性がない」などと告発文書の公益性を否定していた斎藤知事の姿勢とは矛盾する。 

 

 告発に公益性が認められれば、斎藤知事らが公益通報者保護法の禁じる「不利益な取扱い」や「通報者の探索」の違反の可能性がある行為を繰り返していたことになる。 

 

 混乱を極める問題をさかのぼると、原点は告発文書が同法で守られるべき通報であったかどうかの1点に絞られる。今回の調査結果を同法の指針や法改正を議論中の検討会議事録などと合わせて読み込んでみると、斎藤知事の判断が適切だったのか、改めて疑問が出てくる。 

 

■一連の経緯を振り返ると 

 

 県民局長が作成して警察やメディアに送った告発文書に斎藤知事が気づいたのが2024年3月20日のことだ。片山安孝前副知事ら幹部職員を集め、通報者の「徹底的な」(片山証言)探索を命じている。県庁内でのメール調査から県民局長の疑いが強まると、片山氏は25日に県民局長の公用パソコンを押収、その場で局長の任を解く人事を伝達している。 

 

 斎藤知事は3月27日の会見で「業務時間中にうそ八百含めて文書を作って流す行為は公務員としては失格」と、文書には真実相当性がないと切り捨てた。 

 

 県民局長は4月4日、今度は県の公益通報窓口に通報することになる。この県民局長への処分は通報の調査結果が出るまで待ってはどうかとの進言があったものの、斎藤知事は5月7日に停職3カ月の懲戒処分にすると発表した。県民局長は7月に亡くなっている。自死と見られている。 

 

 3~5月にかけて、同法で禁じられている懲戒処分など「不利益な取扱い」やパソコン押収などの「通報者の探索」を県は実施した。その前提は、斎藤知事や片山氏が「公益通報とはいえない」と判断したからだ。 

 

 

■「不正の目的」だったのかどうか  

 

 9月6日、告発内容の真偽を調査する県議会の調査特別委員会(百条委員会)の聴取に応じた片山氏が、当時を振り返って何度も繰り返した言葉がある。それが「不正の目的」だ。 

 

 県民局長のメールやパソコン調査から、「クーデターを起こす」とか、「革命」などの文言が見つかったとし、これらは斎藤県政を転覆させる「不正な目的」で、同法の保護対象とはならないと主張した。 

 

 通報の濫用を防ぐために設けられた同法2条では、通報が「不正の目的」であるための要件について、「不正の利益を得る目的」「他人に損害を加える目的」などと定める。だが、文言が抽象的で解釈に幅がある。 

 

 法を所管する消費者庁参事官(公益通報・協働担当)室に尋ねると、「個別の案件には答えられない」とし、「不正の目的とは、公序良俗に反しない目的」としか説明してくれない。あいまいさは払拭されない。 

 

 おりしも今年5月に、消費者庁が法改正を目指すために設置した有識者検討会「公益通報者保護制度検討会」で議論が始まっている。第2回会議に事務局から提出されたのが、「公益通報者保護制度に関する近時の裁判例」と題する過去の判例だ。 

 

 ある宗教法人の不動産が不当に安く売却されたとして理事らに通報した2人の幹部職員が、懲戒解雇や降格、減給処分を受けた。宗教法人側は、告発した幹部職員が多数派を形成して人事を一新することをもくろんだ「不正な目的」の通報だと主張した。 

 

 だが、裁判所は、通報内容には真実と信じるに足りる相当の理由があり、人心一新することで是正しようとしたことは、「不正な目的とはいえない」として幹部職員の懲戒処分を無効と判断している。 

 

 消費者庁が第4回会合に提出した別の「『不正の目的でないこと』の要件に関する整理」という資料もある。「事業者に対する反感などの公益を図る目的以外の目的が併存しているというだけでは『不正の目的』であるとはいえない」と結論付けている。 

 

 片山氏が指摘した「クーデター」も反感や不満の表れだ。武力計画でもない限り不正にはつながらないようだ。つまり、「不正な目的」とは、「誰の目から見ても法目的に適合しないような」(第4回検討会での発言)特殊なケースを想定しているのだ。 

 

 

 筆者自身も調査報道の取材で何十人もの告発者と接した経験がある。それぞれの動機はさまざまだ。上司に対する怨恨や不満、さらには組織内の権力闘争もある。純粋な正義感からの告発はむしろ少数だ。だが、動機よりも大切なのは、告発内容が事実であるかの裏付け取材ができるかにかかっている。 

 

 告発者が匿名の場合は、ほとんど記事にすることはできない。接触できても、さらなる協力者を探さないと十分な裏付けにつながらなかったり、相手に否定され、それを覆しても書くだけの材料がなかったりする場合がある。何度も告発者と面会しながらも、お蔵入りになった事件は少なくない。全告発者のうち報道に漕ぎつけられるのは1~2割ほどだった。 

 

 消費者庁は同じ資料で、告発の特異性にかんがみて、こう書き加えている。 

 

 「公益通報をする者は様々な事情につき悩んだ末に通報をすることが多く、純粋に公益目的だけのために通報がされることを期待するのは非現実的」 

 

 片山氏は一貫して「クーデターを図った不正の目的」などの主張を続けている。定義があいまいでわかりにくいから、いろんな解釈が出てくるのは、ある意味で法の不備でもある。しかも最終的に不正の目的であるかどうかは解釈の問題なので、裁判で争わないとなかなか結論が出ない。 

 

■最も重要なのは真実相当性 

 

 通報者が保護されるべき条件は、ほかにもある。同法がいう通報対象事実は、犯罪行為や過料を要する法令違反に限定され、現在は503件の法令がリストアップされている。ちなみに、斎藤知事をめぐるパワハラが大きくクローズアップされたが、パワハラは労働施策総合推進法で規定されていて、刑罰や過料の法令違反につながらないので通報対象にはなっていない。 

 

 にもかかわらず兵庫県の財務部がパワハラを公益通報として扱ったのはなぜか。問い合わせてみると、県の職員公益通報制度実施要綱で、法令に準じるものとして「ハラスメント行為」を公益通報事実に加えたからだという。 

 

 

 一方で、コーヒーメーカーを受け取るような物品の収受において、仮に金額が大きかった場合、さまざまな職務権限を持つ知事は刑法の収賄にあたる懸念が出てくる。また、阪神タイガースのパレードのための資金を信用金庫に増額してもらう代わりに、信用金庫への補助金の増額をすれば、刑法の背任罪に該当するおそれが出てくる。だが、この告発は裏付けられていない。 

 

 そして最も大切なのは、通報内容の「真実相当性」だ。斎藤知事は、3月20日に発覚した告発文書については、「うそ八百」で、その後も「核心部分が事実ではない」などと、真実相当性はないと主張している。 

 

 4月4日に県の公益通報窓口に出された文書と3月の文書は、ほぼ同じ内容だ。それにもかかわらず、片方は「うそ八百」で、片方は公益通報として調査結果を公表するという矛盾が生じている。 

 

 最初の告発文書は、報道機関などに宛てた外部通報(3号通報)で、内部通報(1号通報)とは通報の条件などの違いがあるにしろ、斎藤知事はその後開かれた百条委員会で、大きな声で叱責したことや、物品を受領したケースがあったことは認めている。 

 

 さらにいえば、職員公益通報の調査結果を公表した財務部は、同時に物品供与のガイドラインやパワハラ研修を実施するなどの是正措置を取るよう県に要請している。告発に真実相当性があったことの証左でもある。 

 

■不利益がないようにするのが法律のポイント  

 

 県民局長の告発が公益通報に該当するとなれば、次の焦点は、不利益な取扱いや通報者探索を命じた斎藤知事や、その陣頭指揮にあたった片山前副知事らの行為が、法令違反に当たらないかどうかである。 

 

 公益通報者保護法は2006年に施行され、2年前に改正されている。その改正法では、従業員が300人を超える事業者や団体(行政機関も含む)は公益通報窓口に「従事者」を置いて守秘義務を課すことが義務付けられた。故意に違反すれば30万円以下の罰金だ。 

 

 通報受付体制の整備も重要な改正ポイントだ。指針によると、通報窓口は組織の長や幹部などからの独立性を確保し、通報事案に関係する者を対応業務から外す利益相反規定も盛り込まれている。不利益な取扱いがあった場合は、救済・回復の措置をとる。公益通報と認められれば、斎藤知事や副知事だった片山氏は関わってはいけない。まして本人に対する告発なので、利益相反にも該当する。 

 

 

 
 

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