( 235926 )  2024/12/19 18:36:30  
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ゴーン氏の改革から25年、そして「脱ゴーン」から5年。しかし日産の時価総額は今年、国内下位に転落してしまった。「危機」の裏で、何が起きているのか。 

 

前編記事【日産が自動車業界で「時価総額6位」に転落…「ひとり負け」「稼げるクルマがない」その奥にひそむ「人災」の真相】より続く。 

 

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社内外で、内田社長に対してさらに厳しい声も上がっている。ある元幹部は「彼はガチンコでビジネスをした経験が少ない」と語る。それは内田氏の出身母体である購買部門で常態化していた、「手ぬるい仕事」とも関係しているようだ。 

 

日産の購買部門では収益が落ち始めた2010年代半ば、下請けに対して大幅値引き要請に成功したことに味を占め、無理な値引き要請が常態化していた。それを見越した下請け側は、やがて大幅値引きされることを前提に、実態よりも高い金額の見積書を出すようになったそうだ。 

 

日産の購買部門は、それを薄々知りながら黙認した。見積金額が高いと値引き要請額も大きくなり、それが「原価低減の実績」として担当者の評価につながるためだ。こうした「やらせの原価低減」と言われても仕方ないようなビジネスを続けた結果、日産は「高コスト体質」企業となった。 

 

この構図も1990年代後半、日産が系列下請け企業を役員・幹部の天下り先として利用するため、高価な部品購入を黙認していたことと似ている。今の日産は、「ゴーン改革」以前の昔の日産に逆戻りしている感がある。 

 

日産の執行の最高意思決定機関である経営会議(EC)メンバー12人のうち、内田氏のほか2人が購買部門出身。うち1人が、内田氏を支える最側近と言われ、経営戦略やガバナンスを担当する役員の渡部英朗氏だ。 

 

渡部氏が取りまとめ役として策定し、今年3月に発表された2024年度からの新中期経営計画「アーク」では、2026年度までに100万台の販売増を目指すとしていたが、今回の決算で早くも白紙撤回することが明かされた。市場動向の読みの甘さが露呈したと言っても過言ではないだろう。 

 

 

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さらに問題なのは、先にも触れたように、「決断が苦手」な内田社長にすべてを仰ぐ体制になっているため、あらゆる意思決定が遅れ気味になっているということだ。 

 

こうした硬直的な意思決定システムも、社内では「ゴーン経営の負の遺産」と言われている。 

 

ゴーン経営には功罪相半ばする面が多い。ゴーン氏は、重要な戦略は一人で決め、その計画を忠実に実行できる役員を引き上げた。しかしその結果、自分で判断できない「指示待ち役員」が増えてしまった。彼らがその後も役員に残り、内田氏にあらゆる判断を仰ぐため、経営のスピード感が失われているというわけだ。 

 

とりわけ、その影響が大きく出ているのが貧弱な商品戦略だろう。このところ日産では新商品の投入が遅れる傾向にあり、それが他社に劣後する一因にもなっている。 

 

2024年11月8日付日本経済新聞も「米国の日産の売れ筋上位10車種の発売時期をみると、22年と23年で合計1車種しか投入できていない。新車の刷新が遅れたことにより売れ筋モデルが減り、月販平均1000台以上の車種は14年の19車種から足元で12車種までに減っている」と報じている。この「1車種」とは、スポーツカーの「フェアレディZ」のことだ。 

 

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日産のある現役技術者が、新車開発の内情についてこう語る。 

 

「いま日産は新車の開発期間を30ヵ月に短縮する計画を進めていますが、現場には『これでも甘い』という問題意識があります。私が調べた限りでは、トヨタは24ヵ月以内で開発しているのですから。 

 

日産の開発期間が長いのは、コスト削減のためにアウトソーシングを進めすぎたからです。もう少し『手の内化』を進めるべきだと具申しても、役員はなかなか決断しない。社内は改革を阻む障壁だらけです」 

 

北米市場でEVシフトが一段落し、売れ筋となったハイブリッド車対応でも、日産には「e-POWER」と呼ばれるハイブリッド技術があり、それを北米市場向けに仕様変更すれば戦えるという声が現場から出ているのに、手を打つのが遅い。経営会議メンバーで開発部門を統括する中畔邦雄副社長についても、「何も決めてくれない人。業績低迷の戦犯の一人だ」と指摘する声がある。 

 

現場社員の悲鳴を聞くにつけ、日産の業績悪化は、危機感に欠ける組織マネジメントに起因していると言わざるを得ない。経営危機の影が忍び寄り、ようやく内田氏も重い腰を上げ、来年1月と4月に人事・組織改革に踏み出すという。おそらく経営会議メンバーを一部入れ替えるのだろう。 

 

 

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また、内田氏は11月から役員報酬の50%を返上すると表明したが、その内訳も手ぬるいと言わざるを得ない。氏の2024年度の報酬は6億5700万円もあり、半分返上しても3億円以上が入るのだ。一部社員からも「リストラ企業の社長が3億円もらっていたら、株主や世間に説明がつかない」との声が出始めている。 

 

役員報酬は基本報酬と業績連動分で構成されるので、2023年度の実績が反映されているとの反論もあるだろうが、6億円を超える当初の報酬額自体が、そもそも妥当なものなのか。トヨタの佐藤恒治社長の2024年度の役員報酬は6億2300万円で、ホンダの三部敏宏社長は4億3800万円。日産に比べて業績のよいトヨタやホンダの社長よりも、日産の社長のほうが報酬が多いことには違和感を覚える。 

 

決算発表後に一時落ち込んだ日産の株価は、5日後の11月12日、前日比で一時21%も急上昇した。半期報告書でアクティビストが株式を取得したことが分かり、リストラやガバナンス改革を期待しての思惑買いが広がったようだ。これまで述べてきたような体たらくの経営をしていては、アクティビストに狙われるのは当然の流れだ。 

 

日産の経営は、大きな修羅場を迎えようとしている。 

 

「週刊現代」2024年12月7・14日合併号より 

 

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井上 久男(ジャーナリスト) 

 

 

 
 

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