( 236381 )  2024/12/20 15:45:47  
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山下真知事 

 

 山下真知事肝煎りの奈良県「K-POP」無料コンサート開催が大きな話題になっている。16日、奈良県議会に、この事業費のうち約2億5000万円を盛り込んだ予算修正案が提出された。しかし、一夜限りのコンサートにこれだけの費用をかけるべきかとの疑問の声が上がったのだ。予算案は可決され、来年10月にコンサートは開催される見通しだが、今後、さらに物議を醸すのは必至。そしてこれを決めた知事は、何かと話題の「日本維新の会」幹部でもある。 

 

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 このコンサートは、奈良公園内の春日野園地を会場に、来年10月18日に行われる予定だ。奈良県は韓国の忠清南道と友好提携を結んでいる。来年は日韓国交正常化60周年、再来年は友好提携15周年。それを記念し、文化交流イベントの一環としてK-POPアーティストを招き、屋外ライブを開催するというものである。入場料は無料。来場者は同園地の最大収容人数である9000人規模を想定している。事業費は会場設営費など2億7000万円の見込みで、そのうち2億5000万円分が、12月議会に補正予算として提案された。奈良県が運営する国際交流基金から拠出されることになる。 

 

 これが報道されると、費用対効果を疑問視する声が続出。16日の本会議では、「自民党・無所属の会」の5名の議員が修正案を提出する事態となった。その提案理由には、このイベントの問題点が凝縮されている。曰く、 

 

●一夜限りのイベントに約2億5000万円の財源を投じるに値する効果があるのか。一過性のイベントに終わるのではないのか。9000人の観客は県民に限定されるのかも決まっておらず、県の財源から拠出されるにもかかわらず、県民が便益を得られるとは限らない。 

 

●奈良県はスイスのベルン州、中国の陝西省など、他の都市とも友好提携を結んでいる。しかし、これらの都市とは交流イベントが予定されていない。本イベント実施の妥当性を欠いているのではないか。 

 

●県はこれまで、平城宮跡で実施されていた「平城京天平祭」の運営費のうち、約1億3300万円を負担していたが、今年度からそれを止めた。しかし、このイベントはK-POPコンサートと比べ、半分の負担額で、入場者は13倍。単純計算で言えば、26倍の効果がある。両イベントへの県の対応は、合理性を欠いているのではないか。 

 

●奈良公園に9000人もの来場者が来ると、鹿の餌場が踏み荒らされたり、周辺への騒音被害も予想されたりする。周辺住民などからの理解も得られないのではないか。 

 

 16日の議会でこの修正案が提案され、「自民党・無所属の会」から12名が反対するなどしたが、結局、賛成多数で予算案は可決。公金が拠出されることになった。 

 

 

 これらの論点についての議論はまだ煮詰まっておらず、10月の実施に向け、今後も物議を醸すことは必至だが、そもそも、奈良県はなぜこのイベントを行うことになったのか。県政関係者は言う。 

 

「知事案件です。知事は昨年訪韓し、忠清南道の知事と面談しています。今年は向こうの知事も来日し、東京で面談している。そうした中で、無料コンサートを依頼され、安請け合いで“わかりました”と深く検討せずに返事をしてしまったと見られています」 

 

 しかし、いざ交渉が始まると、 

 

「韓国側は細かい条件を付けてきました。ステージは高規格なものにしてほしい、レーザー照明はこれ以上のものにしてほしい、などといった具合に。その条件があまりに多過ぎて、費用が膨れ上がってしまった」 

 

 山下知事は56歳。東大文学部を卒業し、朝日新聞の記者になったが、後に京大法学部に編入学し、卒業後は弁護士となった。2006年、生駒市長に37歳で当選。当時としては全国最年少の市長となった。3期務めた後、2015年に奈良県知事選、2017年には奈良市長選にも出馬したが、落選。昨年の知事選で、5選を目指した荒井正吾知事らを破り、当選した。 

 

「しかし、個々の政策の実現においては、熟慮に欠けるように見える場面が見られます。思いつきでものを言っているように感じることもしばしばです。山下知事は、前知事が決めた奈良の大規模防災拠点整備計画を白紙に戻したのですが、その是非はともかく、その上で防災対策をどうしていくかについては練り上げられた見解が見えない。事業を中止すること自体が目的だったように見えてしまうほどです」 

 

 昨年の知事選の際、山下知事は前知事の政策を厳しく批判することで支持を得た。 

 

「ですから、発想の軸に、前知事の施策の否定があるように思える。防災拠点の話もそうですし、天平祭運営費負担の廃止も同様です。天平祭は前知事時代に始まった行事ですが、今年度で終了となりました。今回、K-POPに飛びついたのも、70代後半と高齢だった前知事との違いを際立たせたかったのではないかと思える。前知事と比べ、若い自分は若年層向けの施策も出来る、とアピールしたかったとの思惑もあったのではないでしょうか。しかし、一方で、彼の口癖は“費用対効果が重要”“一過性の事業はやらない”です。でも、今回のK-POPイベントなどはまさにその思想に反している。説明が付かないですよね」 

 

 

 昨年の知事選時も、山下知事は決して当選を有力視されていたわけではない。4期を誇る現職・荒井知事が盤石だったからだ。しかし当時の自民党県連会長だった高市早苗・前国家安全保障相が、自らが大臣を務めていた時代の秘書官だった総務官僚を擁立。保守分裂選挙となり、維新公認の山下氏が“漁夫の利”を得たわけだ。山下氏は大阪府以外で初めて「維新の会」公認の首長となり、大きな話題を呼んだ。 

 

 しかし、維新と言えば、「身を切る改革」がモットー。県議団はなぜ今回の公金支出に物申さないのか。本会議の採決でも、維新の県議は12名全員が賛成票を投じている。 

 

「県議団にもきちんと説明していなかったようです。彼らが知ったのは、予算修正案を議会提出する直前。それが判明するいなや、疑問視する報道が相次ぎましたから、彼らにとっては大きな迷惑だったでしょう。しかし、彼らにも表立って反対できない事情がある。山下知事は維新の会の常任役員を務める幹部であり、奈良県連の代表も務めている。県議団にとっては、人事権者、公認権者でもありますから、真っ向から反対するわけにはいかない。やむなく賛成票を投じたものの、これではまずいと思ったのか、経費削減の申し入れを行うという“ポーズ”だけは取っていました」 

 

 先の総選挙では、議席数を前回から6つ減らすなど、退潮傾向が続いている維新。「K-POP」騒動も今後の展開によっては、躓きの石のひとつになるのかもしれない。 

 

デイリー新潮編集部 

 

新潮社 

 

 

 
 

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