( 236756 )  2024/12/21 01:37:57  
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※画像はイメージ(gettyimages) 

 

 年明けから本格化する受験シーズン。子どもの人生がかかっている、とあってか、親の熱も最高潮になる時期だ。学校側もすでに年明けを見据え、進路を決める最終段階に入っているのだが、この時期に増えるのが熱を帯びた“モンスターペアレント”だという。専門家は「普段は普通の親に見える人でも“モンペ化”しやすい時期だ」と話す。 

 

*  *  * 

 

■面談で「この問題解けないんですか?」 

 

 12月のこの時期、各学校では進路に関する面談が行われている。 

 

 都内の公立高校で社会科教員をする福間和義さん(29歳/仮名)も、自身が担任となるクラスの面談をした。 

 

 その際、“ハラスメント”ともとれる暴言を浴びせられたという。 

 

「大学受験の進路を決める面談で、志望校が現状だと難しいということを生徒の母親に伝えたら、『じゃあ先生はこの大学の問題解けるんですか? 解けないんだったら黙って受けさせてください』と、わざわざ志望校の赤本を見せながら言ってきました」 

 

 その母親が開いて出してきたのは、福間さんの教科ではない国語の漢文の問題。 

 

「解けないです、と伝えると、『先生なのに高校生が知っていることも知らないんですね』と鼻で笑われながら皮肉を言われました」 

 

 言うまでもないが、担当以外の教科で大学受験レベルともなれば、高校教員とはいえ簡単に答えられるレベルにあるわけではないと、わかっているはずなのだが……。 

 

 福間さんは上司である主任に相談した。その主任は、「12月くらいになるとピリピリしている親御さんが増えてくるよね」と話したという。 

 

 また、このような“ペアレント・ハラスメント”は公立高校だけではなく、私立高校でも同じような出来事はあった。 

 

■本来は普通なのに”熱くなる”親たち 

 

 都内の私立女子高校で国語を教える矢野紗季さん(27歳/仮名)は、 

 

「以前、担当していたある生徒に、数学の微分積分に関する問題の解法を聞かれたことがあり、わからないと答えました。すると後日、その生徒の親から『こんな問題もわからない担任に任せられない』と学校に電話がかかってきていました。その後、その生徒と仲の良かった生徒の親からも、面談のときに『高校生の問題もわからないんですね』と言われた」 

 

 と話した。 

 

 矢野さんは「カスタマー・ハラスメントなのかなと思いました。でも、生徒をカスタマーと定義してよいものかわからないし。上司にもよくある話、と言われてしまい嫌な気持ちだけが残った状態です」と困惑した様子だった。 

 

 学校と教職員向けの危機管理相談をしている「学校リスクマネジメント推進機構」の宮下賢路代表は、「受験への熱が高い親ほど、本人の自覚がないままモンスターペアレント化している」と語る。 

 

「この手の親は、明確に『モンスターペアレント』である場合と、子への熱を注ぐあまり『一時的に熱くなっている』場合があります。前者のような親は、時期を問わずいると思いますが、後者の親は受験熱が過熱してくる9月~1月くらいにかけて増えていくものです。小学校で非常に多いですが、中学、高校でももちろんあります。私立か公立か、進学校なのかなど、学校による部分が多いですが、受験を控える冬は増えている傾向にあります」 

 

 さらに宮下氏はこう分析する。 

 

「わざと皮肉を言っている側面もあるかもしれないですが、どちらかというと本来は『冷静になれば話は通じる』のに、受験期でわが子に対する焦りなどから一時的に熱くなっており、本人の自覚がないままモンスターペアレント化しているパターンは非常に多いです。受験に対して貪欲な親御さんは、普段は非常に情報収集をしているので冷静に論点を分析して面談をしていますが、特有の焦りから正常な自分ではいられなくなっています。生徒以上に、親のほうに余裕がない現れだと思います」 

 

 

■生徒の親は”客”なのか 

 

 しかし、親子ともに余裕がないとわかっていても、教員側からすると“ハラスメント”ともとられかねない皮肉っぷりだ。 

 

「これは親の意識の違いです。学校の形態によって異なることは出てきますが、そもそも学校教育において親は“カスタマー”ではなく“協力者”です。カスタマーであるという意識があると、どうしても責任を教員側に押し付けがちですが、あくまで親という立場は、子どもの教育について第一義的責任を有する学校の協力者ということを忘れてはいけません」 

 

 どのような親にせよ、皮肉を言われた教員側は嫌な気持ちを抱えることになる。宮下氏によると、特に若手の教員を中心に、保護者とともにヒートアップしてしまうケースも多いという。 

 

「現場レベルで言うと、若手の教員はまじめな人が多いので、言葉一つ一つに向き合っています。熱くなり、本来の話の目的から外れた話題で保護者と口論になることも珍しくありません。しかし、口論になると収束までに時間がかかり、他の業務が逼迫して教員自らを苦しくさせてしまうこともあるのです」 

 

 では、教員側はどのような対応をとる必要があるのか。 

 

 宮下氏は、ロールプレイングの重要性を指摘する。 

 

「保護者に対して時間を意識させながら会話することは有効な手段です。面談などの場合は極力、事前に『〇分の面談で、本日は○○についてお話ししたいと思います』などと時間と内容を伝えておく。論点がずれた話をまくしたてられたり、“皮肉”を言わせたりしない環境作りをすることも大事だと思います。教員という仕事は、どんな学校であっても激務な職業であることには変わりありません。だからこそ、大切な生徒のことを考える時間を増やすためにも、保護者への対応を円滑に進めるためのロールプレイングを何回も行う必要があります。保護者役、教員役などに分けて、さまざまなパターンの保護者を経験する。そしてそれを校長や教頭などの管理職とともに共有し、共通認識を持つことも重要です」 

 

 冷静であるはずの親が熱くなりすぎて周りが見えなくなる姿は、子どもにはどう映るだろうか。 

 

(AERA dot.編集部・小山歩) 

 

小山歩 

 

 

 
 

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