( 237006 ) 2024/12/21 15:50:41 0 00 所得控除を103万円から178万円に引き上げることを強く主張している国民民主党。写真は玉木雄一郎氏(写真:共同通信社)
所得控除を103万円から178万円に引き上げることを強く主張している国民民主党だが、税収減を補う財源が明確でないなど問題も指摘されている。果たして「103万円の壁」はどう決着するのか、国債増発で若者世代の将来負担とするのか──。山本一郎氏の論考(前編)。
(山本一郎:財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員)
疲れてやってられないので、眠気覚ましに記事を書いております。各方面から「国民民主党の政策論はおかしいので叩いてほしい」とか「議論を整理していかないと混乱して困るので財源論を含めた叩き台を示せ」などの無茶ぶりが非常に増えておりまして非常に困ります。いや、こちらは真面目に着地可能な政策論とロジをどうにかしたいだけなんですが……。どうしてこうなった。
今回の記事は、政策協議で各方面から真ん中に位置する私から見て、いま何が起きているのかを概観するものですが、先日、JBpressなどで書いた記事から話の本質はビタイチ変わっていない、というのが現状ではないかと思います。ボク言いましたよね。それも、1カ月以上前に。
◎国民・玉木雄一郎はなぜいま叩かれる? 「手取りを増やす」がぶち破るべき本質的な「130万円の壁」とは(JBpress)
長くなるので最初に要約を掲載しておきます。
1.最近、支持率を伸ばしている国民民主党は、約7.6兆円の税収減となる財源の問題を明確にしないまま、所得控除を103万円から178万円に引き上げることを強く主張している。支持層を考えれば、この問題を引き延ばして支持をつなぎ止めたいのは当然。越年どころか、実現のために年度末まで引っ張ることもあり得る。
2.地方自治体の財源減少や福祉事業への影響、将来世代への負担転嫁という課題があるものの、この政策でいう手取りの少ない若者・勤労世代の負担軽減という国民民主党の理念・考え方は正しい。社会保障改革の入口になる議論で、着地に向けた政策協議はいずれ必要。
3.結局のところ、この問題は「高福祉高負担」を維持したい自民・公明・立憲民主党と、「低福祉低負担」で経済成長を目指す国民民主党・日本維新の会の路線対立として表面化している。そもそも現状維持してもいずれ破綻する社会保障をいまのまま護持していても先がない。
■ 国民民主党って、本当のところはどうなんですか?
ついに世論調査で野党第一党に躍り出た国民民主党。玉木雄一郎さんは派手にやらかして代表の役職停止中ですが、「対決より解決」を長らく主張しながら、政党支持率が1%強をずっとウロウロしていた日々が夢のように支持率爆あがりになっています。
もっとも、支持基盤という点では、自民党の自称「岩盤右翼」とされていた安倍晋三さんの一部支持者と、日本維新の会を支持していた勤労世帯・若者世代が国民民主支持に鞍替えしただけで、彼らの期待に応えられないと一気に支持を失う風頼みの面はあります。
他方で、給与所得控除&基礎控除103万円の壁やトリガー条項凍結解除を不動の政策主張の柱にした結果、ざっくり7兆6000億円ほどの税収減に対応する財源問題や、地方自治体の自主財源の減少で立ち行かなくなる自治体どうすんの問題が勃発しました。
これら財源問題に対する回答を国民民主党は明確にしておらず、財源探しは与党側の責任でやるべきと仰っております。そうですか……。
国民民主党の主張に一理あるのは、財源問題はともかく、いまの勤労世帯・若者世代の所得税や社会保険料負担が大きすぎるうえに、こうした徴収されるカネのかなりの割合が高齢者福祉に回されている現実があるからです。
そもそも社会保障の問題は、団塊の世代が後期高齢者に入り、最も医療費のかかる2042年ごろまで支出圧力が強まり続けることにあります。つまり、簡単に言えば若者は今後もっと貧乏になります。高齢になって、生産しない高齢者のお世話に貴重な若者や外国人労働者をつけても国の経済は良くなりませんからね。
ほっておくと、ただでさえ勤労世帯・若者世代の負担が大きくなるのに、大きくなる前提で現状維持をしていたら若者の貧困に拍車がかかるだろ、という点が問題の本質です。
加えて、ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエル・ガザ問題などの安全保障上の問題、さらにコロナ禍を経て世界的に資源インフレが加速し、日本の円安が深刻になったため、輸入超過が高止まりし国力の低下が鮮明になっているという現実もあります。
確かに、豊かな日本を実現してきた功労者として、いまの高齢層を支えたいという気持ちはあるにしても、これからの時代を支える若者が貧しく、結婚もできず、子育てもあきらめざるを得ない現状があります。
そんな現状の政策を維持する既得権益は打破して、もっと若者におカネと仕事が回ってくるような社会にしたい、というのが国民民主党の政策主張の根本なのは理解できます。なんせ、玉木雄一郎さん自ら尊厳死・安楽死議論に踏み込んでたぐらいですからな。
それを考えれば、高齢者への支出の財源はさておき、「いま苦しんでいる勤労世帯・若者世代におカネを回す施策を緊急に考えるべきだ」「だから2026年度と言わず来年にも所得控除はどうにかしろ」という国民民主党の政策主張には理があり、若者からの支持が集まるのも当然です。
■ 所得控除が実現した場合の削りしろはどこか?
とはいえ、政府も無責任に「政治で決着したので再来月から所得控除を引き上げます」とはできません。地方自治体の中には自主財源が大きく減る地域があるうえに、自治体予算にぶら下がっている福祉事業がストップしてしまうからです。
私の知る限り、現在のところこれらの猶予措置をやる予定もなければ、自治体財源を手当てするために必要となる新法を考える話も立ち上がっていません。いろいろやるのは構わないけど、本当に零細自治体死んじゃうんだが大丈夫か、まあ大丈夫じゃないだろうな、というのが正直な私の感想です。
民間も、たいしたクライアントも抱えていないその辺の街角税理士であれば対応できるかもしれませんが、福祉事業者など民間事業者は自治体ごとに認証スキームが異なるため、制度や控除率を突然変更すれば、関係先通知からシステム改修まで大きな問題が起きます。
政策的には妥結できてもロジで死ぬというのは、コロナ禍でのワクチン配送からマイナンバーなき定額減税まで、何度も繰り返されています。自治体泣かせの作業は政治の都合でたくさん発生するのが世の常なのです。
さらに、所得控除が先に実現した場合、国家的には歳入不足に陥りますから、つなぎとして国債発行を余儀なくされます。この国債を実際に返していくのは、国民民主党が救いたかったはずの勤労世帯・若者世代です、
国家の税収が上がっている、特別予算で財源はまかえるなどとも言われていますが、インフレで上がった部分を含め、毎年の税収は次年度以降も保証されるものではありません。 いわば、一度、競馬で勝ったご主人が気を良くして、「お父さんやめて」と妻娘に泣かれながら家のカネを持ち出し馬券売り場に意気込んで向かうようなものです。
なので、国民民主党が主張するような政策を実現せしめるためには、せめて財源だけは何とか確保しなければなりません。その場合、最初に削らないといけないのは福祉予算であり、地方関連予算になっていくだろうなあとぼんやり考えています。
実際、どこをどのくらい削ったらどうなるのかという話は、俺たちの財務省も私らシンクタンクも、(いやいやながら)総出で検証しています。何らかの政治決着で大混乱に陥るという現実を受け入れたうえで、「やるんだ」となったらこの辺が着地じゃないかというシナリオは作り始めています。
まあ、本当にやったら、後からみんな嫌な思いをして後悔するんだろうなあ、と思うんですが、ボクのせいじゃありません。
■ 大学無償化と潰れそうなFラン大学の問題
さらに、紆余曲折を経て、なぜか学生バイトの是非という話になっています。どうしてこうなった。話が雑すぎんだろ。
大学にせっかく入学したのに、学費を稼ぐためにアルバイトに精を出す苦学生の皆さんがおられるのは事実であります。ただ、私が大変よく知っております某国立大学および某大手私立大学の学生生活アンケートなど見返してみますと、アルバイトをする学生が多いのは、有意に「地方から単身で都会に遊びにきた学生さん」であります。
たぶん、どこの大学でも、バイトしている学生は地元からの仕送りではやっていけないので、仕方なくアルバイトをしているんじゃないでしょうか。
また、俺たちの愛する小野寺五典師匠が自由民主党の政調会長として、どこかの講演で「学生は将来のためにしっかり勉強してほしい」「学業に専念できるような支援を国会で議論すべきだ」と話した内容そのものは100%ピュア正論なんですが、それだとダイレクトに「じゃあ大学の授業料を無償化すれば」っていう短絡的な議論になります。
で、実は学生バイトについては、親の特定扶養控除は立憲民主党さんの合意もあって150万円ほどに増える方針で固まっていて、もうこの問題はなくなっています。まだ騒いでいるのはあんまりよく分かってない人たちなんだと思うんですよね。どうなんだ、そうじゃねえだろ、という話は長くなるので、ポンデベッキオさんや飯田泰之さんの議論を流し読みでいいので見てみてください。
◎Fラン大学は本当に無意味なのか? |ポンデベッキオ ◎大学を無償化してはいけない|飯田泰之
大学授業の無償化については国民民主党以外はおおむね賛成ぽい雰囲気なのですが、大学全入時代に突入し、定員割れ大学が続出しているのにゴミみたいな新設大学が続々と認可されて開校したため、進学希望者は入る大学さえ選ばなければ、名前を漢字で書くと入学できるクロマティ大学化してしまう恐れもあります。
単純に潰れそうなFラン大学が日本人学生をかき集める方便にしかならない可能性があるうえに、最近では「4年制大学を卒業しさえすれば、まあまあ良い仕事にありつけて社会人生バラ色待ったなし」というわけにもいかない統計もたくさん出てきました。
うっかり詳細を書くと大変不適切なので省きますが、要約すれば、「就職目当てにクソ大学に入っても、払った学費の元が取れない」わけでして、これはもう大学無償化の議論の不都合な現実と言えます。
それでも大学無償化が必要なのだということであれば、外国人留学生に頼らなくても学校運営ができるレベルの大学がどれだけあるのか、というところから精査していって、無償化するに足るまあまあ良い大学と、お荷物だから早く潰れてもらいたい落ち目の大学とにしっかり分けないとゾンビ大学みたいになってしまいますよという話は申し添えておきます。(続く)
山本 一郎(やまもと・いちろう) 個人投資家、作家 1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し、『ネットビジネスの終わり(Voice select)』『情報革命バブルの崩壊 (文春新書)』『ズレずに生き抜く 仕事も結婚も人生も、パフォーマンスを上げる自己改革』など著書多数。 Twitter:@Ichiro_leadoff 『ネットビジネスの終わり』(Voice select) 『情報革命バブルの崩壊』 (文春新書) 『ズレずに生き抜く 仕事も結婚も人生も、パフォーマンスを上げる自己改革』(文藝春秋)
山本 一郎
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