( 237071 ) 2024/12/21 17:08:07 0 00 JTはベクター社を買収し、加熱式たばこへの投資を加速させる(写真:ベクター・グループ)
JTが、ついにアメリカの本格進出に乗り出した。
たばこ大手のJTは今年10月、アメリカの紙巻きたばこ専業会社ベクター・グループを約3780億円で買収している。
ベクターの2023年12月期業績は売上高約2100億円、営業利益約480億円で、アメリカにおけるシェアは4位。この買収で、同国におけるJTのシェアは2.4%から8.2%(2024年1~9月期時点)へと拡大している。
アメリカは年間のたばこ販売数量が約1760億本で世界4位。販売金額では世界2位の巨大市場だ。しかし、近年は数量の減少が続いている。特に紙巻きは、健康志向の高まりなどから先進国を中心に縮小が進む。逆風の中、なぜ紙巻き専業であるベクターの買収に踏み切ったのか。
■アメリカは収益性が高い
JTが目をつけたのは、ベクターのブランド力とアメリカ市場の特性だ。同社はアメリカのシェア上位10ブランドのうちの1つ「モンテゴ」や、「イーグル」「ピラミッド」などを保有。知名度が高い商品が多く、全米で販売されている。
JTはこれまで34の州で自社商品を販売していたが、買収によりアメリカ全土へ販売網を広げていく。今後、JT商品の販売店数は従来の約2倍へ拡大する見込みで、約90億本の販売数量を獲得できる。
紙巻きの需要が縮小している市場にもかかわらず、ベクターはアメリカで販売本数を伸ばし、シェアを高めている。
その理由は価格だ。ベクターの特徴は最も安い価格帯で多くの商品を展開していること。インフレが続くアメリカはたばこの値上がりが激しく、ベクターも値上げを実施している。それでもシェア首位のマルボロの価格は7.7ドルまたは9.4ドルなのに対し、モンテゴは6ドルと安い(2024年9月時点、JT調べ)。
低価格志向の客に加えて、中・高価格帯商品を購入していた客の受け皿となり、販売量が拡大しているのだ。
市場としての成長可能性も大きい。アメリカのたばこ商品は一般的に、年に複数回値上げされる。収益性は高く、今後もアメリカは金額ベースで成長を続けるとみられている。
JTの古川博政CFOは、買収について「アメリカは市場規模が大きく、金額的な成長可能性も高い。数量が減っても利益が取れるので、展開したかった」と語る。
ベクターを選んだ理由は「紙巻き専業でJTの投資戦略に合致している。4位でプレゼンスも上げられる。より上位の会社は独禁法の関係があり、価格も高い」(古川CFO)と説明する。
■プルーム拡大のために稼ぐ
紙巻きで得た原資を、加熱式たばこの投資へ振り向ける狙いもある。
JTは売上高の約9割を紙巻きで稼ぐ(2023年12月期実績)。同社の予測では、世界全体で紙巻きの売り上げは2035年まで成長を続け、加熱式などが成長しても、売り上げ構成比は60%以上を維持する見通しだ(2022年は79%)。しばらくは紙巻きが収益源であり続ける可能性が高い。
一方、日本や欧州を中心に、加熱式など煙の出ない商品の需要は拡大している。将来的に構成比が紙巻きと逆転する可能性もある。
イギリスの調査会社ユーロモニターによれば、JTの加熱式の世界シェアは2023年に6%程度。同71%と他を圧倒するアメリカのフィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)や同15%を占めるイギリスのブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)に後れを取っている。JTは一段と加熱式に力を入れる必要がある。
そこでJTは、2024年から2026年までの3年間で加熱式へ4500億円投資する方針を掲げる。旗艦ブランド「Ploom(プルーム)」の販売拡大に向けたマーケティングや海外市場の開拓に力を入れる。
例えば日本では、昨年11月に税込1980円で発売した最新デバイス「Ploom X ADVANCED(プルーム・エックス・アドバンスド)」を今年12月に同980円へと値下げした。
シェア首位のPMI「IQOS(アイコス)」は最も安いモデルで3980円、BATの「glo(グロー)」は同じく最安モデルで1980円だ。JTは赤字覚悟で新規開拓に全力を注ぐ。
2023年以降はプルームの海外展開を本格化させている。目標は2026年末までに40半ばの国・地域で発売すること。2024年10月末時点で23市場へ投入しており、欧州を中心に少しずつシェアを伸ばしている。
加熱式は2028年までの黒字化を目指すが、現在は認知拡大に向けた投資先行の段階だ。ベクター社の買収は、加熱式の巨額投資のための原資稼ぎに貢献するという構造だ。
■紙巻きの買収に「直接的な批判はない」が・・・
ただし、稼げる商材とはいえ、紙巻きたばこには健康面などで世界的に厳しい視線が向けられている。規制を強化する国も多い。ベクターの買収は時代に逆行した流れともいえる。
これに対し古川CFOは「さまざまな意見があり、逆風の中にいるのは事実」としつつも、「投資家などとコミュニケーションしていて、直接的な批判はない。中長期的に利益成長をし続け、配当や投資などに充てて企業価値を上げていく」と説明する。
JTは今後もM&Aを継続する方針だ。これまでは紙巻きの会社を中心に買収してきたが、加熱式にはデジタルや電子機器関連の技術も必要だ。部品の領域で高い技術力を持つベンチャーも含め、新たな分野での買収を視野に入れる。
紙巻きの売り上げが2035年まで成長するとしても、あと10年。JTに加熱式への投資を躊躇している時間はない。今回の買収をテコに、加熱式のシェア拡大と収益改善を進められるかが焦点となる。
田口 遥 :東洋経済 記者
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