( 237536 ) 2024/12/22 04:41:05 0 00 新幹線(画像:写真AC)
2024年12月13日、JR東海は東海道・山陽新幹線の車内に設置されている男女共用トイレの半数を順次女性専用に変更すると発表した。
この決定の背景には、次の2点が挙げられる。
・観光やビジネスを含む女性利用者の増加 ・女性専用トイレの設置を求める声の高まり
2025年3月15日のダイヤ改正までに、変更は完了する予定である。
16両編成の車両では、奇数号車(1・3・5・7・9・13・15号車)の男女共用トイレのうち1か所を女性専用に転換する。なお、11号車に設置されている多目的トイレは変更されない。今後、1編成のトイレは、
・男女共用:9か所 ・女性専用:7か所 ・男性用(小用):7か所
となる。女性専用トイレには、ピンク色の識別帯やピクトグラム、案内シールを設置し、視覚的に区別しやすくする。便座は常に下げた状態で提供される。JR東海の担当者は、
「男性が入ったお手洗いで便座に座ることに抵抗感を示すお客様もいるのではないか。女性のお客様に快適にご利用いただきたい」
とコメントしている(2024年12月13日付『朝日新聞デジタル』)。
この変更に対して、ネット上では賛否が分かれている。
新幹線のデッキ部(画像:写真AC)
筆者(才田怜、ジェンダー研究家)は、女性専用トイレに賛成の立場を取っている。自身も女性利用者として、新幹線で男女共用トイレしかない状況に「しんどい」と感じており、東北新幹線などで女性専用トイレが設置されていると、安心感を抱いていた。
新幹線に限らず、電車の共用トイレには清潔感に欠けるものが多く、床が濡れていたり、使用に抵抗を感じることが少なくない。特に、手洗い場から水分が漏れ出すような状態では、非常に不快に思うことが多い。
今回の女性専用トイレ導入に関するニュースにおいても、ネット上のコメントのなかには床の水浸し状態について言及するものが目立った。
また、便座を下げることに対する衛生面での心理的負担が大きかったが、女性専用トイレではその負担がなくなることに喜びを感じているという。
共用トイレについては、セキュリティ面に不安を感じる利用者も多く、女性専用トイレであれば盗撮などのリスクが減るとの声も上がっている。
産経新聞によると、女性の利用客の割合は半数近くに達しており(2024年12月14日)、女性専用トイレの設置後も車内トイレ全体の約3割を占めるに過ぎないため、女性優遇とはいえない。
新幹線のトイレ(画像:写真AC)
しかし、Xでの投稿やネットニュースに寄せられたコメントには、反対意見も多く見られる。特に、東海道・山陽新幹線を利用していると思われる男性の意見が共感を呼んでおり、主な懸念は
「今でもトイレが空くのを待つことがあるのに、今後はさらに待ち時間が増えてしまうのではないか」
というものだ。
「男性利用客が大多数なのに」 「男性利用客が8割なのに」
これでは女性優遇なのではないかという不満も多い。
「女性専用トイレをつくるのであれば、男性専用トイレもつくらないと平等ではない」
という意見が広がっており、特に男性用(小用)のトイレはあっても、男性専用の大用トイレが必要だとの主張が多い。さらに、
「女性が共用トイレを使っていたら、男性が使用できるトイレ(大用)が無くなってしまうので、不平等になるのではないか」
といった指摘があり、この意見を支持する声も存在する。そのため、男性専用トイレを空いているスペースに増設すべきだという意見も出てきている。
新幹線のデッキ部(画像:写真AC)
女性専用トイレが平等かどうかを議論するには、新幹線の乗客の男女比率を把握することが重要だ。しかし、多くのネットニュースでは「女性客が増えている」といった点にとどまり、産経新聞のように「半数近くまで」と具体的な数字を示す報道は少ない。
そのため、ネットでは「男性客の方が多いのに」「男性8割なのに」といった反論が目立つ。このデータは、JR東海エージェンシーによる「新幹線ユーザープロファイル調査2023」に基づいている可能性が高い。この調査では、新幹線利用者が
・男性:81.2% ・女性:18.8%
とされている。
ただし、これはインターネット調査に基づくもので、東海道新幹線や山陽新幹線を月に1回以上利用する人を対象にした1743件のサンプルから得られたデータだ。調査の目的はビジネスパーソンの動向を把握することであり、実際の男女比率を明確にすることではない。そのため、月に1回以上新幹線を利用するのは主にビジネス利用者や観光客の一部に過ぎず、年に数回程度の利用者も多い。
ネットでコメントする人々は、調査の詳細を確認せずにデータを使っているのではないだろうか。もし自分が月に1回以上出張で新幹線を使い、男性が多いと感じたとしても、その翌日に乗車すれば男女比率が大きく異なることもある。
最近、上越新幹線に乗車した際、新潟で男性アイドルのコンサートがあったため、車内はほとんど女性ファンで占められていた。このような事例は珍しくなく、全国のアリーナやドームでは、アイドルやアーティストのコンサートが一年中開催されており、推し活ブームが新幹線の女性利用者増加に影響を与えている。
また、多くのネットニュースでは「共用トイレの半分を女性専用に」という点が強調されているが、男性用(小用)のトイレについてはほとんど触れられていない。女性専用トイレの比率が「3割」になることについて言及している報道もほとんどなく、これらの情報の取り扱い方が世論を誤って誘導する可能性があると感じる。
新幹線(画像:写真AC)
トイレ利用における男女の違いについても理解しておく必要がある。
中日本高速道路(ネクスコ中日本)の2014年の調査によると、男性が小用を使用する平均時間は37.7秒であるのに対し、女性が個室トイレを利用する平均時間は93.1秒と、男性の約2.5倍の時間がかかる。この差は、女性が常に個室を使用し、所作が多いためだと考えられている(2018年4月13日付『讀賣新聞オンライン』)。
そのため、女性専用トイレでは行列ができやすい。もし新幹線の男女比率がほぼ均等(5:5)に近づいているのであれば、女性専用トイレを導入して「男性用(小用)7か所、女性専用7か所、男女共用9か所」とすることは、女性優遇にはならないだろう。
現状のトイレ数を基に男性専用(大用)を増設することは、逆に男性優遇につながる可能性がある。共用トイレが男性用(大用)になり、長時間待機できない場合は、2号隣の車両に移動するなどの対応が求められるだろう。
新たに男性専用(大用)トイレの増設が実現すれば、女性にとっても最適な状況となるが、今後の進展に注目したい。
才田怜(ジェンダー研究家)
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