( 237736 )  2024/12/22 16:38:29  
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8月に提携発表の記者会見を開いた日産自動車の内田誠社長(左)とホンダの三部敏弘社長。両社の協議は「統合」にまで一気に踏み込むことになった Photo: Bloomberg/ Getty Images 

 

● ホンダと日産が統合検討へ 日産は業績悪化で窮地 

 

 12月18日の未明、日本経済新聞デジタル版が特報として「ホンダ・日産が統合へ 持ち株会社設立、三菱自の合流視野」との一報を流した。同じく18日付朝刊では、1面トップで「ホンダ・日産統合へ」との大見出しで、「ホンダと日産自動車が経営統合に向けた協議に入る」と報じた。これらによると、両社は持ち株会社を設立し、傘下に両社がぶら下がる形で調整、将来的に三菱自動車が合流するという。 

 

 24年3月の「ホンダ・日産提携検討」という発表に始まり、8月には次世代技術や車両の相互補完にまで踏み込んだ協業の覚書を締結。その際には、戦略的パートナーシップ検討の座組みに三菱自動車工業も加わることも発表されるなど、着々と両社の連携は深められてきた。 

 

 それが、ホンダ・日産の経営統合にまで一気に大きく踏み込む議論に発展することになった。ホンダの三部敏弘社長は、メディアの取材に対し「あらゆる可能性を検討している」とコメントしている。ただし、8月の会見でも「提携によるスケールメリット、コストダウンを生かしていく。資本関係の可能性も否定しない」とは語っていた。 

 

 週明けの23日には、両社は経営統合に向けた協議に入るが、なぜホンダと日産が経営統合にまで踏み込もうとしているのか。 

 

 まず一つ言えるのは、特に日産にとっては、今期に入ってからの大幅な業績悪化による“苦境”が大きな要因だということだ。 

 

 日産の25年3月期の連結業績は、この上半期で実質的に赤字に陥っており、19年12月に内田誠社長が就任してから5年間の“経営通信簿”は結果として“不合格”となっている。その結果、内田社長就任後に実施した生産能力20%削減などに続き、またしても世界生産能力2割削減と9000人の人員削減という大リストラの発表に追い込まれるなど、経営は窮地だ。 

 

 さらに、ダイヤモンド編集部の特報によると、両社が経営統合に向けた協議に入る動きのきっかけとなったのが、台湾EMS企業の鴻海精密工業(ホンハイ)による日産買収の仕掛けのようだ。 

 

 ホンハイには、EV事業の最高戦略責任者(CSO)として、元日産副COOで日産と因縁のある関潤氏が所属する。ホンハイは、関氏が前面に出て水面下で動いており、またアクティビスト(物言う株主)の旧村上ファンドが日産株を巡って活動するなど、日産を取り巻く情勢は複雑化している。 

 

 ここで、改めて日産の業績悪化の経緯を振り返っておきたい。 

 

 そもそも、19年12月に就任した現社長の内田氏は、当時、ゴーン氏や西川廣人前社長らの辞任によるゴタゴタの中で抜てきされた“ダークホース”的な存在だった。 

 

 日産は当時、20年3月期決算で6712億円もの赤字を計上するなど、経営は不振。業績復活は内田社長に課された急務だった。内田社長は就任時、「強い日産にできないときは、すぐクビにしてもらってもいい」と、日産再生への強い覚悟を語ったほどで、20年5月には、構造改革の中期経営計画「Nissan NEXT」を発表する。 

 

 その後、「Nissan NEXT」は、一定の成果を収め、最終年度である24年3月期にグローバル販売344万台、営業利益5687億円(営業利益率4.5%)、当期純利益4266億円を達成した。内田社長も「事業構造改革が進んだ。営業利益率5%以上の目標に対し4.5%にとどまったが、新中計でグローバル販売100万台増加と営業利益率6%以上を目指す」と胸を張った。 

 

 

 ここまでは“合格点”かに見えた。しかし、その後一転して業績が急転落した。25年3月期の中間決算は、営業利益329億円(前年同期比90%減)、純利益192億円(同94%減)と大幅減益に陥ったのだ。通期の純利益見通しは未定としており、これは実質的に自動車事業の赤字転落を示すもの。内田社長は、要因として中国の市場変調と米国での収益不振を挙げている。 

 

 その結果、先述した生産能力の削減や人員の削減といった大リストラに追い込まれた。この構図は、内田体制が始まったときと重なるようだ。当時は、ゴーン拡大路線のツケの回収として、量から質への販売転換、コスト大幅削減などに着手したが、経営状態は結局「元のもくあみ」となってしまったのだ。 

 

 また、就任直後の内田社長は、経営責任として「役員報酬の大幅削減に取り組む」と表明していた。業績連動報酬についてCEOとCOOは全額辞退のほか、上半期期間にCEOの基本給を50%減額などを打ち出した。今年11月にも、内田社長は報酬50%返上を表明しているが、これも、当時の経営難の時と重なるように聞こえる。ただし、内田社長の報酬は直近で6億5700万円もあり、半額でも3億2850万円という怨嗟(えんさ)の声が話題になってしまったが。 

 

 さて、話をホンダとの統合に戻そう。 

 

 こうした日産の急転落から、ルノーのスナール会長が取締役にいる日産の取締役会は、少なくとも単独での日産再生は難しいと判断したようだ。これが、日産がホンダなどとの提携に活路を見いだしている理由にほかならない。 

 

 一方、日産だけでなく、ホンダにも一定の事情がありそうだ。 

 

 ホンダは、三部体制になってから「変革」をキーワードに「ホンダ第2の創業」を宣言して電動化に大きくかじを切り、過去の“自前主義”から“提携拡大”路線に切り替えている。 

 

 だが、大きな提携・協業相手だった米ゼネラルモーターズ(GM)とは、量産BEV(バッテリーEV)共同開発を凍結したほか、自動運転タクシーの共同開発も中止し、現在は燃料電池システムの共同生産だけにとどまるなど、軌道に乗らない。GMは、むしろホンダから韓国・現代自との提携強化へ乗り換える姿勢をにおわせている。 

 

 

 また、ソニーとのBEV共同開発は、量産よりもエンタメ特化を志向しており、ビジネスとしての拡大余地はどうしても限られる。やはり、日産と三菱自の技術力を結集することで「電動化・知能化で世界をリードする」(三部ホンダ社長)という考えが強くなったということだろう。 

 

● 両社の経営統合の議論で ホンダはどこまで主導権を握れるか 

 

 統合の思惑はそれぞれにあるとして、問題は、ホンダ・日産経営統合の協議の中で、ホンダがどこまで主導権を握るのか、だ。3月にホンダ・日産提携検討が発表された際に、あのカルロス・ゴーンがレバノンから「これはホンダの日産に対する“偽装買収”に発展する」との言葉を発している。 

 

 かつてならば、両社の統合協議はトヨタとともに日本の自動車産業をリードしてきた日産が主導するのだろう。だが、いまの経営状況ではホンダが格上で、日産は“凋落”状況にある。ゴーンの予言(?)も的中する可能性は十分にある。 

 

 また、持ち株会社の統合比率の問題もあるが、それ以前に日産の筆頭株主はいまだにルノーだということも今後の焦点となる。 

 

 23年11月には、ルノー保有の日産株式43.4%をルノー・日産相互に15%ずつ持ち合う資本構成に変更することで合意された。とはいえ、22.73%の仏信託会社の保有分と16.19%のルノー保有分を合わせて、実質ルノーが保有する株式は合計約39%となり、依然日産の大株主にとどまっている。 

 

 ホンダがこの株式を引き受けて「ホンダが日産をのみ込む」とも限らない。日産の株価は、10年前の1279.5円(15年12月30日時点)から、12月17日には337.6円にまで大きく下落している。ホンダとの統合への報道が流れた18日には418円とストップ高まで急騰したが、それでも内田社長就任時の19年12月末時点の636円から見ても低い。これと比較すればホンハイに対抗する動きも現実味を帯びている。 

 

 それだけ日産の“凋落”は厳しいものだが、ホンダとの統合協議は、持ち株会社の下で日産ブランドを生かし続けるためにも、本当の日産リバイバルを早期に実現していくことを筆者としては期待したい。 

 

 

● 経営責任は明確化せず 経営陣の滞留が課題か 

 

 さて、日産は12月11日、経営の中枢であるEC(エグゼクティブ・コミッティ)の担当替えを25年1月1日付で行うと発表した。 

 

 それによると、現在CFO(最高財務責任者)のスティーブン・マー氏を中国マネジメントコミッティ(MC)議長に充て、中国事業担当とする。CFOの後任には、アメリカズMC議長のジェレミー・パパン氏が回る。新たなアメリカズMC議長には、日産からステランティスのECメンバーやジープのCEOに転じていたクリスチャン・ムニエ氏が日産に復帰し就任する。 

 

 CBCO(チーフブランド&カスタマーオフィサー)兼日本-アセアンMC議長の星野朝子副社長は、日本-アセアン地域担当を離れる(ただし、CBCOには留任する)。後任には、山﨑庄平中国MC議長が就任する。 

 

 また、それに先立ちAMIEO(アフリカ・中東、インド、欧州・オセアニア)MC議長のギョーム・カルティエ氏が担当を拡大し、CPO(チーフ・パフォーマンス・オフィサー)に就任することも発表された。 

 

 要約すると、内田社長は当面続投するということ、重責であるCFOや日産の主要地域である北米・中国・日本の各事業担当は、“席替え”程度の変更で、業績不振打開に臨むということだ。 

 

 果たして、内田社長をはじめとしてECメンバーや副社長クラスが業績不振やブランド毀損(きそん)の責任を取らずに、申し訳程度の担当替えだけで自浄能力があるといえるのか。疑問に思えるのは筆者だけではないだろう。 

 

 ここで、浮き彫りになったのが日産の経営陣容の多さと、人材が滞留している体質だ。 

 

 まず、現在の日産の取締役の陣容は12人で、うち独立社外取締役が8人、ほか取締役4人(日産2人、ルノー2人)だ。このうち、日産の社内取締役は、内田社長と坂本秀行副社長(生産事業担当)の2人だ。 

 

 さらに、執行役に目を向けると、内田社長に加え、星野氏、中畔邦雄氏、坂本氏ら3副社長と、マー氏の5人体制となっている。また、経営中枢として別に、各事業担当に責任を持つECがあるが、これは内田社長を含め12人が就任している。加えて、ECより下には、執行役員として専務と常務とフェローが合わせて40人以上いる。これが日産役員の全陣容だ。 

 

 

 
 

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