( 237746 )  2024/12/22 16:49:33  
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(写真:AP/アフロ) 

 

■ 日産・ホンダの統合話の陰に、ある日産OBの存在 

 

 「日産とホンダが経営統合を検討中」――12月18日、暮れの日本を、そして世界を衝撃のニュースが飛び交った。 

 

 昨年の新車販売台数で世界6位、394万台、世界6位のホンダと、319万台、世界8位の日産が経営統合すれば、合計して713万台。単純計算すれば、トヨタの1053万台、フォルクスワーゲンの867万台に次いで、世界第3位の巨大自動車メーカーが誕生することになるのだ。 

 

 今回の衝撃のニュースについて取材を進めると、あるキーパーソンの名前が浮上した。関潤氏(63歳)である。 

 

 1961年生まれ、長崎県の出身で、防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊に入隊。だが若くして退官し、日産自動車に入社。2001年から2017年まで同社の社長を務めたカルロス・ゴーン氏に認められ、2014年に日産の中国合弁企業である東風日産の総裁に就任した。その後、ゴーン社長失脚とともに紆余曲折があったが、2019年に日産ナンバー3の副最高執行責任者(副COO)となった。 

 

 だがほどなく日産を退社して、日本電産社長に就任した。そして昨年1月、台湾最大の企業である鴻海精密工業(ホンハイ)が、同社のEV(電気自動車)事業部門のCSO(最高戦略責任者)に関氏が就任すると発表したのだ。 

 

■ 日産は「第2のシャープ」か 

 

 鴻海の創業者である郭台銘(テリー・ゴウ)元会長は、EV事業への進出に意欲を見せ、MIHコンソーシアムという企業連合を築いてきた。郭元会長は長年、アップル社のiPhoneを製造する中で、「来たる自動車業界の主流となるEV(電気自動車)は走るスマホ」という意識を強くし、それなら自社に強みがあると確信してきたのだ。 

 

 もう一つの郭元会長の自信は、「シャープを復活させた」というものだ。2016年、事実上、経営破綻したシャープを3888億円で買収したのが鴻海だった。当時、私が取材した鴻海の幹部は、こう述べていた。 

 

 「わが社はもともと、1970年代に日本のテレビのチャンネル装置の下請けを請け負うことから創業した。そのため、郭会長は日本に対して、ひときわ強い思い入れを持っていた。 

 

 だから(2016年に)シャープ買収のチャンスが到来した時には、自ら大阪のシャープ本社に赴き、採算度外視で構わないから、何としてもシャープを買収するのだという意欲を見せた。実際、シャープ買収が成立するや、最側近の戴正呉副総裁を社長として派遣した。そして、破綻していたシャープの経営をV字回復させたことは、大きな自信になっている」 

 

 この幹部は現在、すでに退職している。今回、改めて「鴻海の野望」について話を聞くと、こう答えた。 

 

 「郭元会長が現在、最も強い関心を寄せているのが、自動車産業への進出だ。世界の自動車産業の潮流である『EV(電気自動車)化』は、『走るスマホであり、わが社の強みが最も活かせる。ハード(車体)もソフト(システム)も取りたい』というのが、郭元会長の認識だ。昨年、台湾総統(大統領)になるという野望を果たせなかった郭元会長は、現在、『台湾のイーロン・マスク』を目指しているのだ。 

 

 そんな中で再度、『第2のシャープ』を日本に探し求めたのだ。幸いいまは、未曽有の円安なので、2016年にシャープを買収した時に比べても、日本企業の買収は『格安』だ。そこで、かつてのシャープのように、世界有数の技術を有しながら、経営危機に陥っている日産に目を付けたのだ。元日産ナンバー3である関氏を招聘したのも、その布石だった」 

 

 

■ 中国の消費者から見れば日本車は「時代遅れ」 

 

 たしかに日産は、2018年にゴーン会長が逮捕されて以降、低迷を続けている。先月7日、同社の内田誠社長は、今年4月から9月の連結決算で、営業利益が前年同期比で90.2%減の329億円に落ち込み、約9000人を人員削減すると発表した。 

 

 4月から9月の世界販売台数も、前年同期比で3.8%減の158万5547台。特に世界最大の中国市場では14.3%減と、苦戦を強いられているのだ。中国の大手経済紙記者に聞くと、こう述べた。 

 

 「中国市場で日産は、最新の11月の販売台数で見ても、販売台数は6万3545台で、前年同期比15.1%減。もう販売減に歯止めが利かない状況です。ちなみにホンダも同様で、11月の販売台数は前年同期比28.0%減の7万6773台でした。 

 

 これまで中国の消費者にとって、日本車を買うことは、一種のステイタスになっていました。しかし現在では、中国全体の潮流である『EV化』に出遅れ、『日本車は時代遅れ』というイメージです。 

 

 実際、今年1月~11月の新エネルギー車(電気自動車・プラグインハイブリッド車・燃料電池車)の販売台数は1126万2000台で、自動車全体の4割を超えて40.3%に達しました。この流れを牽引しているのは、BYD(比亜迪)を始めとする中国メーカーです」 

 

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■ 日産・ホンダの統合、実現すれば鴻海にとってむしろチャンス 

 

 昨年10月、三菱自動車が243億円の特別損失を計上して、中国市場から撤退。今年6月には、日産が東風日産の江蘇省常州工場を閉鎖。10月には、ホンダが広東省広州の広汽ホンダの第4工場を閉鎖。11月には湖北省武漢の東風ホンダの第2工場を休止……。 

 

 このところ、日本の自動車メーカーの中国市場における「苦戦」を伝えるニュースばかりだ。新車の販売台数が年間3000万台を超え、世界最大の自動車市場である(世界2位のアメリカの2倍規模)中国で、淘汰(とうた)されつつある日本メーカーは、「今日の中国市場は明日の世界市場」と危機感を募らせている。加えて、「鴻海の野心」に脅える日産は、背に腹は代えられなくなり、ホンダとの経営統合に向かうというわけだ。 

 

 ではこれで鴻海の「日産買収」の野望は潰えたのか。いや、どうやら鴻海は諦めていない模様だ。前出の元鴻海の幹部は語る。 

 

 「日産とホンダが経営統合すれば、郭元会長は『さらにチャンス到来』と思うだろう。なぜなら、いくら経営統合してもうまくいかず、さらに大きくなった日本企業を買収できると判断するからだ。このまま円安が続けば、統合した両社を買収するにしても、それほど大きな負担ではない」 

 

 自動車産業は、日本経済を支える唯一の残された屋台骨と言われてきた。だがもはや、「最後の砦」も危うくなってきた――。 

 

近藤 大介 

 

 

 
 

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