( 237796 ) 2024/12/22 17:43:37 0 00 公立高校の受験では筆記や面接以外に「内申書」の得点が合否にかかわることも(写真:イメージマート)
中学受験がブームと言われる首都圏でも、8割以上が公立中学校に進み、高校受験という進路を選択している。しかし、親の世代が高校受験した頃とは様変わりしており、合否にかかわる「内申書」の中身や扱いも変化したという。かつては「授業での挙手の回数」や「部活動」「生徒会活動」への参加が評価に関わるとされたが、現在はどうなのか。シリーズ「“中学受験神話”に騙されるな」、フリーライターの清水典之氏が、受験情報の専門家への取材を基にレポートする。【第5回】
* * * 「日本を代表する某大企業の人事の方から聞いた話ですが、これまで採用した社員のプロフィールというビッグデータを解析したところ、圧倒的に公立進学校の出身者が多く、GMARCHや関関同立あたりに進学した人を採用していたそうです。もちろん、会社によると思いますが、理由を考えてみると、公立進学校に入る人は内申書的な優等生で、会社という組織で働く適性が高いのではないかと」
そう語るのは、『中学受験はやめなさい 高校受験のすすめ』(実業之日本社)著者で、Xアカウント「じゅそうけん」で10万8000人のフォロワーをもつ伊藤滉一郎氏だ。伊藤氏の言う“内申書的な優等生”とは、どのような人物像を指すのか。
「学力的にはそこそこ優秀で、決められた期日までに課題を提出するとか、異性とも適切な距離感でコミュニケーションが取れるとか、必要とされたときにリーダーシップを発揮できるとか、学力と社会性のバランスが取れている人で、公立進学校の出身者にはこういう“サラリーマン適性”の高い人が多い。
これが中高一貫のトップ校の人だと、私の知り合いの範囲ですが、極めて学力優秀で頭がいいのだけど、性格的に尖っていたり、コミュニケーションに難があったりで、研究者や医者、弁護士など専門職に向いた人が多いような印象です」(伊藤氏)
これはあくまで伊藤氏の印象で、そうした傾向があるという話に過ぎず、当てはまらない例はいくらでもあるが、頷く人もまた多いのではないか。
私立中高一貫校の中学入試では、受験生の小学校での成績が合否判定に影響するケースは少なく、基本的に筆記試験がメインで合否が決められる。高校受験でも、都内の場合、私立難関校(ほとんどが中高一貫校で、高校からの入学)の入試は、筆記試験がメインで基本的に内申書の影響は少ない。一方、公立高校では入試の合否判定における内申書の比重が高い。この内申書というフィルターを通すと、人のタイプが選り分けられるというのが伊藤氏の主張だ。
その真偽はともかく、内申書というのは、とかく世間の評判が悪い。「授業中、頬杖をついたら減点される」「挙手した回数が多いと内申点が上がる」「体育祭のリレーの選手に選ばれると、体育の評定が上がる」など、本当ともウソともつかないさまざまな説が飛び交っている。真面目に定期テストの勉強に取り組むだけでなく、先生の印象を良くするため、授業や部活、校内行事にも積極的に取り組む姿勢を見せて、良い子としてふるまわないと内申点は上がらないと信じられている。
実際のところ、高校受験で提出が求められる内申書では、何が評価されるのか。『「中学受験」をするか迷ったら最初に知ってほしいこと』(Gakken)の著者で、Xアカウント「東京高校受験主義」で4万8000人のフォロワーをもつ塾講師の東田高志氏はこう語る。
「公立中学校の内申点(各教科の5段階評価)について、文科省は、『知識・技能』『思考・判断・表現』『主体的に学習に取り組む態度』という3つの観点を各教科ごとに設定しています。ほとんどの中学校では、これら3観点を均等に評価し、その合計得点から5段階の評価をつけるとしています。
『知識・技能』と『思考・判断・表現』の評価は、主に定期テストの結果で決まります。3つ目の『主体的に学習に取り組む態度』は、かつて文科省が『関心・意欲・態度』と呼んでいた観点です。授業中の態度や挙手の回数、ノートの表面的なきれいさなどを評価したり、授業中の頬杖を減点対象にしたりする学校もあったと言われています。
しかし、手を挙げられない性格の子は不利になるし、頬杖をついていようが、定期テストの点数が高い子は学習意欲が高いはずだといった指摘もあり、2021年にこの観点は廃止されました。現在の『主体的に学習に取り組む態度』の評価基準は、『提出物』『振り返りシート』『授業発表』『定期テスト』の4つに集約されます」
「提出物」は期限内に提出物を出したかどうかで評価する。『振り返りシート』は、授業の終わりに生徒が何を学んだのかを記述するシートで、それを元に授業への参加具合を見る。『授業発表』は英語のスピーチ活動などで、取り組む姿勢を見る。『定期テスト』の結果も学習に取り組む態度の判断材料にする。これらの項目をどこまで評価材料にするかは、学校や教員、あるいは教科によって変わる。
「塾で『授業中は積極的に手を挙げるように』と指導していた時代がありましたが、新観点になり、公立中学校の授業では性格による有利不利をなくす工夫が進んでいます。この2年間で200以上の授業を見学した経験から言うと、挙手の機会が大幅に減り、代わりに全員が平等に発表する『英語1分間スピーチ』などが取り入れられています。先生は後ろで評価表にチェックを入れ、これが『主体的に学習に取り組む態度』の評価につながります。以前のように挙手の回数や態度を基準にしていた頃と比べ、より幅広い“学力”を評価する仕組みに改善されています」(東田氏)
取材・文/清水典之(フリーライター)
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