( 238309 )  2024/12/23 18:51:08  
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JR東日本が初の運賃値上げを国土交通省に申請した。

運賃改定は都市部を中心に行われ、特に都心周辺の運賃が値上げされる。

これは過去30年間で運賃を据え置いていたことから、経営の厳しさや施設投資などを考慮して行われたものである。

値上げにより、都心部の鉄道サービスが安売りされていたという背景もある。

(要約)

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Photo:PIXTA 

 

 JR東日本は12月6日、会社発足以来初となる運賃改定(値上げ)を国土交通省に申請したと発表した。経営が好調な「本州三社」は、消費税率改定などの増収を目的としないものを除き、運賃改定を行ってこなかった。にもかかわらず、最大手のJR東日本が運賃改定に踏み切った事情とは。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也) 

 

● JR東日本の運賃改定は 都市部の値上げ 

 

 同社は「コロナ禍を経て当社を取り巻く社会環境の変化が加速」する中、多様化するニーズ、安全やサービスの維持向上、老朽化した車両・設備の更新、激甚化する災害対策やカーボンニュートラルなどに対応する設備投資や修繕を継続的に行うため、2026年3月に平均7.8%の値上げをしたいと説明する。 

 

 JRは国鉄運賃を引き継いで発足した。事業環境が厳しいJR九州・JR北海道・JR四国の「三島会社」は1996年にJR初の値上げを実施。その後、経営再建中のJR北海道が2019年、JR四国が2023年5月に再度値上げしたが、JR九州とJR北海道が現在、2025年4月の値上げを申請中だ。 

 

 一方、経営が好調な「本州三社」は、消費税率改定などの増収を目的としないものを除き、運賃改定を行ってこなかった。直近でも、JR西日本の長谷川一明社長は「現時点では運賃改定を申請できる状況ではない」と述べており、JR東海も業績からみて値上げは不可能だろう。その中で最大手のJR東日本は運賃改定に踏み切った。 

 

 今回の運賃改定を端的に言えば都市部の値上げだ。全路線の改定率は平均7.8%だが、その内実は一様ではない。JR東日本の運賃は現在、「幹線」「地方交通線」「電車特定区間」「山手線内」の四区分があり、都心及び近郊に設定された「電車特定区間」と「山手線内」は、「幹線」より割安、「地方交通線」は「幹線」より割高な運賃となっている。 

 

 現在、3キロまでの初乗り運賃は四区分とも150円(きっぷ運賃、以下同)だが、4~6キロは「幹線」「地方交通線」が190円、「電車特定区間」「山手線内」は180円、7~10キロは「地方交通線」が210円、「幹線」が200円、「電車特定区間」「山手線内」は180円と差がついてくる。 

 

 11キロ以降は計算方法が変わり、11~300キロは1キロあたり「幹線」が16.2円、「電車特定区間」が15.3円、「山手線内」が13.25円となり、最大2割以上の運賃差がつく(「地方交通線」は11~273キロが17.8円)。 

 

 

● 東京駅を起点とした 具体的な値上げ額は 

 

 これではイメージが付きにくいので、東京駅を起点とした運賃を比較してみよう。 

 

 ・東京~小山間(80.9キロ 幹線)現行1520円 改定1600円 5%値上げ 

・東京~大宮間(30.3キロ 電車特定区間)現行580円 改定620円 6.5%値上げ 

・東京~赤羽間(13.2キロ 電車特定区間)現行230円 改定260円 11.5%値上げ 

・東京~新宿間(10.3キロ 山手線内)現行210円 改定260円 19.2%値上げ 

・東京~品川間(6.8キロ 山手線内)現行180円 改定210円 14.2%値上げ 

 

 以上のように、区間が短くなるほど値上げ率が増え、特に「山手線内」11キロ以上の区間で値上がりが大きくなる。現在、東京~新宿間はJR(中央線)、東京メトロ(丸ノ内線)ともに210円だが、改定後は50円もの運賃差がついてしまう。SNSでは「もうJRには乗れない」との声も目に付いた。 

 

 なぜJR東日本は都心をターゲットに値上げするのか。それはJR本州三社を輸送面から比較すると見えてくる。 

 

 三社の鉄道事業は収益性の高い「新幹線」と「大都市圏輸送」を中心としているが、全輸送量(人キロ)における割合を見ると、JR東は新幹線が18%、大都市圏(首都圏)が78%、JR西は新幹線、大都市圏(近畿圏)とも38%、JR東海は新幹線が86%となる。 

 

 JR東は大都市圏、JR東海は新幹線が圧倒的に大きいが、JR西はその中間で、姫路、広島、岡山など地方都市でも一定の輸送需要があるため、大都市圏以外の在来線が輸送量の24%を占めているのは注目に値する。 

 

 収入で見ると、JR東は新幹線が33%、大都市圏(首都圏)が63%、JR西は新幹線が56%、大都市圏(近畿圏)が35%、JR東海は新幹線が93%だ。単価の高い新幹線が割合を伸ばすが、JR東だけはなお半分以上を大都市圏が占めているのである。 

 

 

● 都心周辺の「電車特定区間」に 割安な運賃を設定したワケ 

 

 同じ区分で、コロナ前の2019年度上半期と今年度上半期を比較したのが次のグラフだ。2024年3月の北陸新幹線敦賀延伸開業の影響でJR西日本の「新幹線」収入が94億円増加した以外は、いずれの区分でも輸送量と運輸収入はコロナ前を下回っている。 

 

 収入についてはこの間、消費税率改定とバリアフリー料金制度導入による増収があってなおの数字である。その中でも特に、JR東の大都市圏定期利用の減少幅が、輸送量、運輸収入ともにとびぬけて大きいことが分かる。 

 

 鉄道事業は減価償却費や動力費、人件費などの固定費が大きいため、利用が損益分岐点を超えれば利益が伸び、減少するとそのまま利益が減っていくビジネスだ。つまり、関東圏定期輸送の大幅減少は、鉄道事業の収支に深刻な影響を及ぼしている。 

 

 関東圏の収支を改善するには、運賃そのものを値上げすると同時に、割引を縮小(廃止)するのが効果的だ。ひとつは通勤定期券の割引縮小だ。JRの定期運賃は国鉄運賃法の規定の名残で、6カ月定期券の割引率が約6割になっていた。これは私鉄と比べてとびぬけて大きいため、割引率を最大5%縮小する。 

 

 もうひとつが前述の「電車特定区間」「山手線内」の廃止だ。JR東は、国鉄時代に運賃抑制策として制定された「電車特定区間」「山手線内」は、「他の鉄道事業者の運賃改定により、運賃格差が逆転または縮小したため役割を終えた」と説明する。 

 

 どういうことか。「山手線内」の割引運賃制度は、路面電車との競争関係にあったため戦前から存在したが、その他の複雑な運賃体系が形成されたのは国鉄末期、1984年以降のことだ。国鉄再建の過程で収支均衡が望めない路線が「地方交通線」に指定され、維持費用の負担を利用者に求める意味で約1割増の運賃とした。 

 

 国鉄は当時、1981年、1982年、1984年、1985年、1986年と、ほぼ毎年のように運賃改定を行った。それまで利潤を目的としない国鉄の運賃は私鉄より安いのが当たり前だったが、度重なる値上げで運賃水準が逆転してしまった。そこで競争力を保つため、都心周辺の「電車特定区間」に割安な運賃を設定したのである。 

 

 

● JR東からすれば 今まで安売りしすぎだった? 

 

 割高な国鉄運賃を引き継いで出発したJRは、民営化の「公約」通り、運賃水準を維持した。私鉄も大幅な値上げこそ行わなかったが、複々線化工事など輸送力増強投資に関連する運賃改定で、JRと同じか、または上回る運賃水準となった。 

 

 この他、並行する私鉄線と競合する区間の「特定運賃」は、直接競合とならない区間や利用が少ない区間を中心に、計30区間中18区間を廃止するが、競争が激しい渋谷~横浜、品川~横浜、新宿~八王子など12区間は存続する。言い方は悪いが「釣った魚にエサはやらない」という割り切りも感じさせる。 

 

 もっともJR東からすると、今まで都心の鉄道サービスを安売りしすぎていたということなのだろう。 

 

 運賃改定のプレスリリースには、羽田空港アクセス線の整備など「今後の具体的な取組み」とともに、「これまでの主な取組み」として1987年以降のさまざまな輸送サービス向上を列挙している。都市鉄道は施設、車両、人件費など何かとカネがかかる。「37年間でこれだけの設備投資をしたのに、お値段据え置きだったんだぞ」と声を大に主張しているのだ。 

 

 東京23区の消費者物価指数(総合)は、1987年から2023年で21%、2013年以降の10年間で見ても10.6%増加している。鉄道の運賃制度は総収入が総括原価を上回らない範囲で認可されるため、物価が上がっても十分な利益が出ていれば値上げはできなかった。そういう意味では、30年越しに追い付いた値上げと言えるかもしれない。 

 

枝久保達也 

 

 

 
 

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