( 239271 )  2024/12/25 17:02:16  
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牛丼チェーン大手として知られる吉野家のラーメン業界進出が着々と進んでいる。 

 

もともと、同社は2022年度~2024年度の中期事業計画として、ラーメン事業を次なる柱にすることを明言しており、2020年に誕生した「わだ」は2023年に東京進出。さらに、2024年4月にはラーメン店向けの麺・スープ・タレなどの製造や販売を行なう宝産業を子会社にした。吉野家のこうした動きは個人店が多いラーメン業界にとって一つの脅威になることは間違いない。 

 

そして、このニュースをみて感じたのは、ラーメン業界のみならず各業界で進む「個人店淘汰」の流れである。 

 

そもそも、吉野家のみならず、近年、ラーメン業界においてはこうしたM&Aが相次いでいる。 

 

吉野家がラーメン店「せたが屋」を買収したのが2016年。 

 

その後、つけ麺・ラーメン「春樹」などを運営する株式会社創業新幹線が「灯花」を運営するグッドヌードルイノベーションを買収(2019年)、今年もロピアを運営するOICグループの子会社であるeatopiaホールディングスがベジそばなどで知られる「ソラノイロ」を、「鳥良商店」など数々の飲食点を運営するクリエイト・レストランツホールディングスが「えびそば 一幻」を買収することがニュースになった。 

 

いずれにしても、これらのM&Aによってラーメン業界の再編が進むことは間違いない。 

 

それと共に、ラーメン店の倒産数が顕著に増えてきた。2024年1~9月のラーメン店の倒産状況は47件で、前年同期比から42.4%増となった。これは集計を開始して以降最多で、2023年(1~12月)の45件を抜く結果となっている。 

 

一方、日本ソフト販売株式会社の調査によれば、逆にラーメンチェーン全体の店舗数は前年比で0.7%の微増。 

 

つまり、個人店、あるいはそれに近い中小事業者は厳しい状況に置かれているが、チェーン店舗については比較的安定傾向にあるといえるのだ。 

 

 

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こうした背景には、食品をはじめとした物価の上昇、さらに都市部での賃料の増加、また電気料金の値上げなどがある。個人店の場合は後ろ盾もなく、こうした影響を直に受けてしまう。 

 

また、帝国データバンクはラーメン店について「『1000円の壁』が課題とされるラーメン業界では、他業界に比べて値上げが難しい特有の事情も抱えて」いる、とその事情を指摘している。大規模な物流や工場の設置によって安定的な値段での提供が可能なチェーン店に比べ、個人店はきわめて不安定な状況に置かれている。 

 

いわば、M&Aによって大規模化を進めるチェーン店と、厳しい状況で立ち向かわざるを得ない(そして一寸先には倒産の危機がある)個人店の二極化が進んでいる。 

 

「一幻」がそうだったように、ある程度人気の個人店は少しずつ店を増やし、大きい会社による子会社化を経て生き残っていく……という流れが定番のコースになっていくのかもしれない。 

 

昔から「チェーン店が増えて個人店が厳しい」とは言われ続けてきたことだが、データが示すのは、この流れが加速している現状だ。ラーメン店で起こっている流れが他業界でも発生している。後編記事『「雰囲気のいい居酒屋」が日本から消える…飲食業界を苦しめる「消費者の変化」』では、特に厳しくなる業界について詳しく解説する。 

 

谷頭 和希(都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家) 

 

 

 
 

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