( 239336 ) 2024/12/25 18:11:47 0 00 Photo by GettyImages
11月30日から12月5日まで、中国を訪ねた。北京で習近平政権の要人に会い、広州で開催された国際会議に出席するためである。
春にも、北京での国際会議や大学での授業のために訪中したが、先端技術分野での開発の進展ぶりには目を見張るものがあった。とくにEV(電気自動車)における進歩は目覚ましい。
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北京では、理想汽車(Li Auto)の最新鋭EVに乗ったが、テレビ画面並の大型カーナビスクリーン、そこに搭載される情報の豊富さと正確さ、コードレスのスマホの充電システムなど、日本の車の先を越す先端技術が満載であった。
同じ北京で半年前に乗った車よりも、遙かに進歩した機器が満載であった。EVなので音も静かだし、快適な乗り心地である。
南の広州では、完全自動運転のタクシーに乗ったが、スマホで呼ぶと5分以内にタクシーが到着し、きちんと目的地まで送り届けてくれる。支払いなど、全てスマホ一つで済む。AIによるデータの集積と学習、優れたセンサーの技術などが統合された成果である。
日本だと、データの集積、町中での運転実験などを実行するのに、大きなハードルがあるが、広大な土地が広がり、警察による規制権限の大きな中国では、実証実験など簡単である。私が、自動運転のタクシーを利用したのは、トヨタ、日産、ホンダが海外最大規模のプラントを展開する工業団地であった。
完全自動運転の車は市販もされており、すでに愛用している広州市民もいる。自動運転なので、運転は任せて、自分は車の中で朝食をとったり、化粧をしたりしながら、勤務先にむかうという時間の有効活用ができる。しかも、ルール通りに走るので、安全運転で事故の心配もない。
日本は高齢化社会である。私も後期高齢者の仲間入りをしたので、運転免許証の更新の際に、認知症検査と運転実習テストが不可欠となった。幸い両者ともパスしたが、免許証を返納する高齢者も増えてこよう。都会は公共交通機関が発達しているが、田舎では車がなければ生活できない。日本でも、一日も早く自動運転車が実現するのを期待したい。
12月18日、ホンダと日産が経営統合することが明るみに出た。この両者が統合すると、トヨタ、フォルクスワーゲンに次ぐ、世界第三位の巨大自動車メーカーとなる。来年の6月に正式に統合する予定で、協議が進められている。
その背景にあるのが、中国のメーカーによるEVでの世界席巻である。ドイツの自動車メーカーも日本と同じ状況にある。
これまでは、日本やドイツの自動車メーカーにとって、中国は大きなマーケットであった。私は、新型コロナ流行期を除いて、毎年のように中国に行っているが、10年前には中国の富裕層はベンツをはじめとする日独の高級車に乗っていた。ところが、今は様変わりで、国産のEVが溢れ、海外にも輸出攻勢をかけている。
フォルクスワーゲン(VW)社は、製造コストの割高な国内工場の閉鎖を検討していたが、労使交渉で全工場の即時閉鎖は回避され、段階的に閉鎖することが決まった。1937年に創業してから初めてのことである。国内の6つの工場で働く12万人のうち30%にあたる3万5千人を2030年までに削減するという。
この問題は、ドイツの政治にも大きな影響を及ぼし、ショルツ政権は来年2月に解散総選挙を実施することを決めた。
EVの販売台数の世界ランキングを見ると、1位がテスラで174万9200台、2位が中国のBYDで145万2100台、3位がVWで73万1900台、4位がGMで60万4100台、5位が吉利自動車で47万8500台、6位が広州自動車で47万6100台、7位がヒョンデで39万2500台、8位がBMWで36万5900台、9位が上海自動車で29万2100台、10位がステランティスで27万9300台ある。日本勢は、日産が16位で13万3000台、トヨタが23位で8万6700台、ホンダが28位で1万9000台となっている。
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中国EV成功の理由は、政府の積極的な補助金政策にある。
中国政府は、他の先進国の独壇場であるエンジンなどの内燃機関ではなく、2000年代初頭からEVに先行投資することにした。それが今、実を結んでいるのである。また、プラグインハイブリッド車の開発に集中しているメーカーもある。充電に時間がかかる、走行距離が短いなどのEVの欠点を補うからである。
中国のEVは低価格であり、しかも充電も自宅で簡単にでき、コストも低い。補助金については、旧型車からEVに買い換えると、今は1万元(約20万円)程度の補助金を出している。その他、渋滞を緩和するために導入されているナンバー登録の取得が容易になるなど、様々な特典がある。
このような補助政策が奏功して、中国のEVは国内のみならず、世界市場を席巻していっている。
しかし、アメリカは、9月27日に、中国製EVへの関税を従来の4倍の100%に引き上げた。さらに、EV用のリチウムイオン電池への関税を7.5%から4倍の100%に、太陽光発電設備への関税を25%から50%に引き上げた。
また、EUは、10月29日、中国製EVに対して、今後5年にわたり、従来の10%に7.8~35.3%を上乗せし、最大45.3%の関税を課すことを決めた。
欧米が、中国EVの攻勢をいかに恐れているかということである。
かつてのソ連に典型的に見られるように、共産党独裁政権下では、特定の国営企業がコスト意識や効率という視点など全く無視して、自動車などの耐久消費財を生産してきた。それらが国際競争力を持つわけがない。
ところが、中国では、1978年に鄧小平が改革開放政策に転換したため、市場経済の要素が多数取り入れられた。「社会主義的市場経済」の試みであり、深圳などの経済特区では、先端技術産業が花開いた。人民公社は解体され、外資が積極的に導入され、民間企業による競争が激化していった。
それは、国営企業による計画経済とは対極的なものであり、深圳、珠海、汕頭、厦門などの経済特区では、資本主義社会と変わらない活力があり、世界中から人材が集まり、多くのスタートアップ企業が誕生した。
企業間の競争は日本以上であり、失敗すれば会社は消える。
たとえば、自動車メーカーについては、BYDに加えて、小米、零跑汽車、理想汽車(Li Auto)、極氪(Zeekr)、蔚来汽車(NIO)、賽力斯(SERES)、小鵬汽車(Xpeng)、埃安(AION)、智己汽車(IM Motors)、嵐図(VOYAH)、智己汽車など多くのメーカーがひしめき、熾烈な競争を展開している。
中国の歴史を繙くと、598年から1905年まで実施された科挙に見られるように、厳しい競争社会である。今でも、大学入試、そして、入学してからも競争が激しく、それは日本の大学の比ではない。科挙が今も続いているのである。その競争の激しさが少子化現象につながっている。また、様々な社会不安の原因にもなっている。
最近公表されたイギリスの大学評価期間QSの「QSアジア大学ランキング2025年版」によると、1位が北京大学、2位が香港大学、3位がシンガポール国立大学、4位が南洋理工大学、5位が復旦大学、6位が香港中文大学、7位が精華大学、8位が浙江大学、9位が延世大学、10位が香港城市大学である。日本のトップは東京大学で、21位である。
この大学ランキングが示すように、人材開発の点でも、中国の競争社会は厳しい。古代からの競争社会という中国の歴史的特性を無視して、今の中国を語ることはできない。嫌中派のネトウヨが目を塞いでいる側面である。中国をさげすみ、罵詈雑言を浴びせただけで日本が再生するわけではない。
中国批判をすれば、テレビなどのマスコミで歓迎されるからか、嫌中を売り物にしている者も多いが、彼らこそ亡国の輩である。
舛添 要一(国際政治学者)
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